第五十八話 凶報
私達がその連絡を受け取ったのは、王都への帰り、ゆっくりと寄り道している最中だった。
「『導の煌星』の方々ですね! 王都から早急に帰還するよう連絡が来ています!」
連絡を受けた場所は寄り道した街の冒険者ギルドだった。
慌てた状態の受付嬢からヴェイセルが封筒を受け取る。
「その慌てた様子、中々厄介な事態が起きたようだな。……焦っている以上、ある程度状況は知っているんだろう? 簡単に概要を教えてくれ」
「……はい。……王都冒険者ギルドのギルドマスターが、亡くなられました」
「なに!?」
唖然とした。
皆、絶句している。
「王都のギルドマスターが殺されたのは三日前の深夜だそうです。翌朝出発した早馬から当ギルドが連絡を受けたのが昨日。そのときに情報を共有し、そして皆さんへの封書を渡されました。他の街のギルドでも同様に皆さんへの封書は残されて来たとのことですので、他のギルドも事情は把握しています」
「……ギルマスを殺したのは……アンガスか?」
「はい。冒険者パーティ『光輝の剣』のリーダーであった元オリハルコン級冒険者アンガスが犯人であると断定されています」
「そんな……」
アンガス……なんて馬鹿なことを。
流石に、こんな事をするとは思っていなかった。
アンガスは英雄になりたがっていた。
だからこそ、殺人なんていう誰にでもわかるような重い犯罪行為は避けていた。苛立てばすぐにキレるアンガスであっても、カッとなって誰かを殺したなんていうことは今まで一度もなかった。……魔物相手なら八つ当たりすることは多かったけれど、それで発散し、人間を殺すようなことはしなかった。
「封書については、皆さんだけで確認できるよう、部屋を用意していますので、そちらをご利用ください」
受付嬢に案内され、パーティ全員の入れる部屋を借りた。
最初見たときから分かっていた。封蝋の印章は誰もが見たことがあるもの。この封書は……王家のものだ。
そこらでは滅多に見られない綺麗な紙を、ヴェイセルが丁寧に封筒から取り出す。
封筒の中から出てきた書類を、ヴェイセルが簡単に説明してくれる。
「一枚目は指令書だな。冒険者相手に王家からの勅命扱いだ。恐れ入る。……国家間の戦争を除き、国家の緊急事態において冒険者はその国を治める者に協力しなければならないんだったか」
「ああ。滅多に適用されないがな」
「……国王陛下が勅命でそう言ってきてるってことは、冒険者が国王陛下の指揮下にある状態ということですか」
「つまり、国家の危機というわけだな。……なぜだ? アンガスがギルマスを殺して逃亡したのは確かに緊急事態ではあるが、国家存亡の危機という程ではないだろう?」
ザシャの問いの答えを探す様に、ヴェイセルは書面に眼を走らせる。
そして、突然ヴェイセルの顔色が悪くなった。
「……アンガスの奴、聖剣を持ち出したらしい」
「はぁ!?」
レオンが驚きの声を上げた。
だが、そうなるのも仕方ないだろう。
「聖剣って、ダンジョンの厄災を倒して封印した武器だろう!? なぜそれがアンガスに持ち出されるような状況になるんだ!」
聖剣は我が国にとって最も重要なものの一つだ。
それをアンガスに奪われるなど、あってはならない。
「……どうも、直前までアンガスは投獄されていたらしい。だが、パーティメンバーの一人であるカルロがやってきてアンガスを脱獄させたらしい。……そして、看守と他の受刑者を全員殺害。その後逃亡したそうだ」
「……看守も受刑者も全員? 思った以上に頭がおかしいな。……それに、カルロってやつはアンガスをそんなに助けたかったのか?」
「私がいたころも、カルロはアンガスの言動をほぼ全て肯定するような人だった。だから、正直あんまり違和感はないよ」
カルロは頭は悪くない。むしろ良い。
だが、カルロはアンガスが関わったときは、あまり賢いと言えないようなことを言っていた。
ヴェイセルは更に読み進める。
「カルロはアンガスを脱獄させる前に聖剣の在処を突き止めていたらしい。脱獄後は即座に聖剣の場所へ移動。アンガスが聖剣を抜いて、続けて冒険者ギルドへ移動しギルマスと戦闘。ギルマスも反撃した形跡はあったが……恐らく最上位スキルの打ち合いに負け、そのまま一刀両断されたらしい」
「……そんな」
再びの絶句。
アンガスは聖剣に執着していたのは知っていたが、そんな強引な方法で手に入れることを選ぶとは。……いや、脱獄時に看守と受刑者を殺害したことでタガが外れたか。
……明確に重罪を犯したアンガスが聖剣を真っ当に手に入れることは不可能。それなら、強引にでも手に入れようとするのはアンガスらしい。
「その後、二人は今度はダンジョンの入口へ移動。入口を護っていた衛兵を殺害してそのままダンジョンに飛び込んだそうだ」
「……聖剣で厄災を倒しに行ったってこと?」
「恐らくそうらしいが……この書状によると、聖剣を持っていったところでアンガスが災厄を倒せる確率はゼロらしい。で、むしろ災厄復活の可能性が高まるから、即座に戻ってきて対策会議に出てくれと。……エレオノーラ達のような、普段王都で活動しないオリハルコン級冒険者も呼び寄せるらしい」
「……緊急事態ですが、問題となる場所はダンジョンの中。それなら専門家である冒険者を上手く使おうということですね。……ですが、私達はともかく、他の土地の冒険者は王都のダンジョンには慣れていないのでは?」
「それでも、戦力としてオリハルコン級が必要なんだろうさ。……ともかく、すぐに王都に戻ろう」
ヴェイセルの言葉に皆で頷いた。
それまでの寄り道の旅をやめ、私達はすぐに王都へと帰還した。
※※※
「ただいまアンネ」
「皆! おかえり! その様子だと話は聞いているみたいね」
私達が帰り着いたのは翌日。
少しばかり無理をして帰ってきた。今は特に時間が大事だ。
「すぐに準備を整えて出発する。準備を手伝ってくれ」
「了解。それじゃ、まずは《身体浄化》」
アンネが私達皆に魔法をかけた。一瞬で私達の体の汚れが落ちる。
アンネのハウスキーパーには生活魔法の習得を助けるスキルが有る。それによって覚えた魔法を使ったのだろう。
「よし。……じゃ、とりあえずアウラとレティの着替えの準備をするね。アルマはそのまま行くよね?」
「うん。〈アルカディアコート〉は普通の汚れはつかないからね」
「それでも念の為ちょっとは整えておこうか……《衣服浄化》」
今度は衣服を洗浄する魔法。
うん、ありがたい。
この手の魔法は、実際には濡れたり泡立ったりしないし、乾燥も必要ないことが便利だ。
「それじゃ、速攻で準備しよう!」
そう言って、アンネはパーティハウス内を駆け回り、皆の準備を手伝った。
その間更に、軽くつまめる軽食まで用意してくれたので、それを食べる。
うん、美味しい。ちょっと無理して一日で帰ってきたから、お腹が減っていた。
皆その軽食を食べ、準備を整え出発した。
目指すは王城だ。
※※※
王城に辿り着くまでの道中に王都の様子を見たが……全く活気がなかった。
それはそうだろう、一夜の内に看守と受刑者、少数とは言え衛兵が殺されるという虐殺事件が起こった。更には、冒険者ギルドのトップという高い実力を持つ著名人まで死亡している。
王都の人々が恐怖にかられ閉じこもるのもわかる。
……私達にも警戒する視線は向けられていた。
城門の衛兵は私達を見ると、すぐに城内と連絡を取った。
即座に許可が出たのか、私達は城門に入ることを許された。
衛兵の一人に案内され、城内へ。
案内された先は、一つの会議室だった。
そこでは、王様とお姫様が私達を待っていた。




