第五十七話 末路
【アンガス視点】
第十五階層。このダンジョンの最終階層。
俺はついに到達した!
さぁ、この階層の魔物達を蹴散らし、試練の間……じゃなかったな、最終層のボス部屋は封印の間というんだったか?
その封印の間で待ち構える厄災に会いに行こうじゃないか!
「いくぞ、カルロ」
「ああ」
走り出す。
このダンジョンの最深部、つまり現れるのはこのダンジョンで最も強い魔物達だ。
さぁ、何が出てくる?
……ふん、やはりスライム系とアンデッド系か。
ま、分かっていたがな。
とりあえず邪魔なので切り捨てる。
……ん?
剣は容易く魔物達を切り裂いたが……再生したな。
なるほど? 流石不死である厄災に最も近い魔物達。このぐらいは再生するか。
面白い。そうじゃないと張り合いがない!
「【竜殺しの呪魔剣☆】!」
出し惜しみ無く最上位スキルをぶっ放す。
……なんだ、この程度か。
もう少し楽しめるかと思ったが、残念ながらこの階層の魔物達も最上位スキルには耐えきれずに消滅した。
ま、そりゃボスでもない雑魚相手だし、最終階層とはいえこんなものだろう。
聖剣を振るい、雑魚を蹴散らし走る。
ま、今までとは、必ず毎回攻撃スキルを使っているところが違うか。
前の階層までは気が向いたら攻撃スキル、それ以外はただ剣を振るだけだったからな。
そして、問題なく最奥に辿り着いた。
そこはいかにもな場所だった。
古代の神殿を思わせる、柱の並んだ部屋。その先に巨大な扉が存在している。
……広いな。
どうせカルロはまだ来ていないし、柱を眺めながらゆったり歩くか。
……この荘厳さ、気分が良いな。
そう、俺のこの歩みこそ王の歩みだ。
……王、いい響きだ。俺が厄災を滅ぼしたなら、王女を娶って次代の王になるのもいいだろう。
俺が扉の前に到着したのとほぼ同時、カルロもこの部屋の入口にやってきた。
息を切らしながら、カルロが柱の間を駆けてくる。
「はぁ、はぁ……毎度すまないな」
「……ふぅ、いいさ。これで最後だからな」
「……ああ、そうだな」
カルロは笑みに顔を歪めた。
こんなに笑顔のカルロを見たのは初めてだ。寡黙な男だったからな。
……それにしても、こいつの笑顔は不気味だな。
「さて、開くか」
「ああ、行こう」
扉に手をかざす。
触れ、押し開けようとする。
……だが、扉は開かなかった。
「なに?」
──担い手アンガスよ、この扉は厄災の封印そのものでもある。普通の手段では開かん。我を使うのだ。
聖剣の声。なるほどな。言われてみりゃあそりゃそうだ。
聖剣を構える。
……ああ、なんとなくわかった。
聖剣と扉が共鳴している。……だが、反発もしている。なぜだ?
……聖剣を持っていようと中には入れないと言いたいのか?
わからんが、関係ない。どうすればこの封印が破れるかもわかるからな。
剣に魔力を込める。
今まで聖剣から力を引き出して戦っていたが、今回は違う。
聖剣に俺の力を全力で込めていく。
そうすると、聖剣が光り輝き始めた。
この感じ……正解だな。やれる。
「ふっ!」
輝く聖剣を振り下ろす。……これぞまさしく光輝の剣。
俺が求めていたものだ。
振り下ろされた聖剣は、俺の思惑どおり、封印を一刀両断した。
悲鳴のような、耳障りな甲高い音。
封印の引き裂かれた音が響き渡る。
……同時に、周囲の柱が凄まじい魔力を放ち始めた。
なんだ!?
「あの柱、何だ?」
「……恐らく、扉の封印が破られたときのための保険のようなものだろう。封印系の魔力を感じる」
「……なるほどな」
用意周到なことだ。
……とはいえ、扉の封印ほど強固な封印ではあるまい。そう長くは持たないだろう。
だが、関係ない!
なにせ、この俺が今から厄災を一刀両断にするのだからな!
いらぬ心配というやつだ!
封印の解かれた扉を押し開ける。
……物理的にも重いな。
できた隙間に俺とカルロは体を滑り込ませた。
後ろで扉が閉まり……封印されたのを感じる。先程の柱の力による封印だろう。とはいえ、さっきまでの扉の封印よりはかなり弱い。俺の聖剣を以てすれば出ることは容易だ。
「さて、やり合おうじゃないか! 厄災!」
俺の視線の先には、ソレがいた。
膨大な……今まで感じたこと無いほど膨大な力を持った、漆黒の粘液。
……これが厄災か。
……この程度なら、勝てる!
「速攻で決めさせてもらうぞ! オオオオオオ! 【竜殺しの呪魔剣☆】!!!」
俺は再び剣に大量の魔力を込め、光を纏輝き出した聖剣とともに駆けた。
駆け抜け、【竜殺しの呪魔剣☆】を叩き込む。
その圧倒的な力によって、厄災は真っ二つに裂けた。
……裂けて、そして……膨張し、津波となった。
「なっ!? ……グボッ!?」
厄災に飲まれる。
凄まじい規模に膨張していく厄災に、俺の体は飲み込まれ、上下もわからないほどに振り回される。
まずい! クソ! 抜け出さないと!
とっさに再び【竜殺しの呪魔剣☆】を放ち、粘液から抜け出した。
だが、厄災は膨張し続けている。むしろ膨張する速度が増している?
冗談じゃない!
この部屋のすさまじい広さなら、まだ逃げられる場所はある。そこへ移動する。
移動中、耳障りな笑い声が聞こえた。
「アハハハハハ! アハハ! アッハッハハハハッハハハハハア!」
カルロだ、カルロが笑っている。
ふざけるなよ、あいつ!
「カルロ! 何を笑っていやがる! お前も手伝え!」
「手伝うぅ? なんで? ようやく目的を達したというのに! 何を手伝えと?」
「……は?」
目的を達した?
どういうことだ?
「アンガス……お前は本当に馬鹿だな。……冥土の土産に教えてやるよ。お前、聖剣を握ってから強くなったよなぁ? それ、聖剣の能力じゃないんだよ」
「は? ……くっ!?」
カルロの言葉に気を取られている間に、粘液に足を掴まれた。
クソ! 抜けだ──
「ガッ!?」
粘液は凄まじい速度で俺を振り回し、床に叩きつけた。
一瞬、思考が止まる。
その間に、俺の体は粘液に飲み込まれた。
なんとかもがき、粘液から顔を出す。
だが、聖剣の力を感じない。
なぜだ?
聖剣を握っていた右腕を見る。
すると、俺の右腕はなかった。
腕が、なかった。
「あ、あ、あ……うああああああ!?」
「あははははっ! 馬鹿だなアンガス! 本当に愚かだ! お前なんかが聖剣に選ばれた英雄なんてわけないだろうが! 聖剣の声? あはは! それは聖剣の声じゃないんだよ! お前が聞いていたのはな……厄災の声さ」
「は? 何を言っている? そんなわけがないだろう!」
「聖剣の能力はな、ただの封印能力なんだよ。お前がさっき剣を光らせていたのは、剣の封印能力の発動過程での輝きだ。……結局、お前が使い方を知らなかったから、ただ光っただけで不発に終わっていたがな」
「は? ……だが、俺はアレで封印を壊して……」
「それ、お前の力じゃないから。……あれはなぁ……聖剣に封印されていたう厄災の力なんだよ!」
『そう! 貴様に力を貸していたのは我だ! お前に声を聞かせ、そこな我が子孫とともに貴様を導いたのも我の声だ!』
粘液から、音ならぬ声が響いてきた。
……それは、俺が聖剣の声だと思っていた声だった。
「そん……な……ばかな」
『ははは! 受け入れられぬか? だがこれが現実だ! お前は聖剣の力だと思い込んでスキルに込めたのは我の力だ! お前のスキルに斬られた我が即座にこの粘液の体を膨張させたのはそれだけの力を得たからだ! お前の攻撃は、単に我に力を返却しただけでしかない! お前の愚かさの結果、我は聖剣に封印されていた力と意思を取り戻した! ……いや、どちらかと言えば、聖剣から解き放たれ、ダンジョンに封印されていた我が肉体を取り戻したと言うべきか? だが……ふん、相変わらず粘液であることは変わらんか』
「我が祖先よ……復活お慶び申し上げる」
カルロは粘液に対し恭しく礼を取る。
『カルロよ、お前もよくやってくれた。お前のお陰で、我は王家や神々への復讐を完遂することが……あー、もうこのかったるい話し方やめていいか? もっと俺らしく喋らせてもらうぜ! ギャハハハハ! これで世界は俺のものだ! はは! 俺をこんなところに封じ込めた奴らの末裔も、俺を封じる武器をそいつらに与えた神々も! 全員俺が嬲り殺してやらぁ!』
粘液の話し方が、一気に粗野で下品なものへと変わった。
粘液の力は、話している間もどんどん増していく。
俺は……その力に当てられ、口をパクパク動かすだけで何も言えなかった。
『ふぅ……力も完全に戻ったな。聖剣は……チッ! 溶かして形を失わせることまではできたが、聖剣って概念の核の部分は壊すことも溶かすこともできんか。流石に、神が対俺用に特化して作っただけのことはある。……ま、ソレも時間の問題だ。五年もすればこの聖剣の核も溶かし尽くし、俺の力として取り込んでやらぁ』
「流石は我が祖先。敬服いたします」
『はは! だろう? ……さて、それじゃ、あとはいらなくなったゴミを処分して……その後カルロ、お前は俺の眷属にしてやろう』
「ありがたきしあわせ」
『おう! ……んじゃ、まずはゴミの処分っと』
その言葉の直後、体が溶かされた始めたのを感じた。
そのとき、ようやく這い寄ってくる死の実感から声が出た。
「い、嫌だ! 嫌だ、死にたくない! やめて、やめてくれ! 俺も眷属になる! あんたの仲間になるから!!」
『……ぷっくふふ』
厄災は笑った。
俺の命乞いを、面白い芸だというように笑った。
そして、俺に告げた。
『お前なんかいらねぇよばぁぁぁか! 未だに自分の価値がゴミ以下だってことにも気付かないとはな! お前、冒険者より道化の才能があるぞ! ……ま、俺の支配する世界に道化はいらないがな! さっさと死ね!』
「嫌だあぁぁああああおっぁおああぁおおあぼごぉあああ」
顔まで粘液に飲まれ、俺の全身は溶かされた。
這い寄る死の恐怖に途中から発狂し、まともな思考もできなくなって……俺の意識は潰えた。




