第五十四話 脱獄
【アンガス視点】
まともに体を動かせない状態で、クソギルマスの決定に抗議をしていたら、わけのわからん理屈で捕縛された。脅迫? 体を動かせない状態の俺よりはギルマスの方が強いだろうが! 弱い側が殺すといって脅迫になるのか? 危険思想? 王都の民に害をなす可能性? 俺は英雄だ! その俺が王都の民を害するなんてあるわけが無いだろ! 意味がわからん意味がわからん意味がわからん!! あれか? ギルマスが衛兵と癒着してるのか! なら犯罪者はそっちだろうが!
訴え虚しく、元来は俺より遥かに弱い国の衛兵に危険人物として捕縛された。……そして、そのまま牢獄へとぶち込まれた。
戦闘能力の高い凶悪犯を囚えるための牢獄。
まさか王都の英雄であるこの俺が、こんな場所に収監されることになるとは。
……ふざけるな。ふざけるなよ!!!
なぜだ! なぜこの俺がこんな目に合わなければならない!
俺はいずれ聖剣に選ばれてダンジョンを完全攻略する男! それはつまり、この国を厄災の脅威から救う男だぞ!
その俺をこんなところに囚えるなんて!
クソ……それもこれもあのクソギルマスのせいだ!
あいつさえいなければ!
「ははっ! 中々囚人服も似合ってるじゃねぇか英雄様よぉ! 俺を捕まえたときの服より似合ってるぜぇ?」
囚人の一人が煽ってきた。俺達がミスリルランクのときに囚えた凶悪犯、Sランク山賊の男だ。
怒りのままに殴ろうと思ったが……首と両手の枷の効果により、体に力が入らない。
「あっはっはっはっは! 無駄無駄! お前さんがどんだけ強かろうと天才だろうと、そいつを付けている限り暴れられはしねぇよ!」
「クソが……暴れられないのは貴様も同じだろうが」
「ああもちろん。で? それが? 俺はお前を殴ろうなんて欠片も思っていないさ。暴れなくともお前さんの落ちぶれた姿はじっくり眺められるからな! はっはっは!!!」
「何だとこの! ……クソがっっ!!!」
「ははははは!!!」
俺を煽っていた囚人以外も笑い出す。
俺を嘲る笑いだ。
本当に……ふざけやがって。
「ま! どうせ殺し合いも殴り合いもできねぇんだ! せいぜい仲良くやろうや英雄殿! しっかりお前さんの囚人生活を見といてやるからよ!」
囚人達は楽しげに笑う。
笑う。
……決めた。コイツラは全員殺す。
この枷をなんとかして、絶対に殺す。
※※※
だが、この枷はどうにもならなかった。
枷をなんとかしようとし、失敗し、看守から罰を受ける。
それを知った他の囚人達に嘲笑われる。
クソ! クソクソクソッ!!!
殺す。絶対に殺す!
囚人も、看守も殺す!
俺をここに連れてきた衛兵も殺す!
俺をハメたギルマスも殺す!
絶対だ! 絶対に全員殺してやる!
だが、そう思ってはいても、状況は変わらない。
いつまで経っても、光明は見えてこない。
ただ俺は、怒りの炎だけを燃やし続ける。
※※※
そうして、更に数日経ったある晩。
夜中に人の気配を感じた俺はそちらに目を向けた。
「無事か? アンガス」
「その声……まさか!」
それは俺の仲間の一人、俺が最も信頼する男、カルロの声だった。
「声を落とせ。バレたらまずい」
「……ああ、分かった。それで、その様子だと?」
「ああ、お前をここから出す」
「……ククッ……クククッ流石はカルロだ! 頼んだ、やってくれ」
カルロは懐から鍵束を取り出し、俺の牢を開けた。そして、俺の枷を更に別の鍵で外していく。
「お前、よく鍵を手に入れられたな」
「ついさっきここの看守を皆殺しにした。……お前のことだから看守を殺したかったかもしれんが、獲物を奪って悪かったな」
「ほう? いやいいさ。俺をここから出したお前に文句は言わないとも。むしろよくやってくれた。……剣はあるか?」
「ああ。お前の剣は流石に押収されていて用意できなかった。一旦予備の剣を使ってくれ」
そう言って、カルロはミスリル製の剣を寄越してくる。
ミスリル製ではあるが、特に何も特殊な効果のない剣だ。
……ま、一時しのぎとしては十分だな。
「アンガス、これからのことだが」
「少しまて。……ここの囚人を皆殺しにする」
「……わかった」
ここの囚人共はどうせ世の害悪でしかない凶悪犯。そのうえ、俺を嘲笑ったクズどもだ。
殺さない理由がない。
ここの牢は堅牢だが、その要は枷の方だ。俺のスキルなら簡単に切り裂ける。
俺は一人ずつ囚人を殺していった。
囚人どもの恐怖の絶叫が響いたが、無駄だ。
看守はカルロが皆殺しにしている。そして、叫んだところでこの牢獄の外部には声は届かない。
俺の事を枷の力による安全圏から煽ってきた馬鹿どもは、今度はその枷の効果で抵抗すらできず死んでいった。いい気味だ。
一通り囚人を殺し尽くし、カルロのところへ戻った。
さて、どうすべきだ?
いや、カルロのことだ、何か考えがあるだろう。
「それで、カルロ……これからどうするつもりだ?」
「アンガス、俺達はもう真っ当な手段では王都の冒険者としてはやっていけない」
「……流石にそうだな」
俺の怒りは正当なものだが、極めて残念なことにこの国の法に則ってみると、俺が殺人者であることは事実だ。そうなると、名誉回復して冒険者資格を復旧することは困難を極める。
カルロだって、看守を殺してしまっている。バレればカルロの冒険者資格だって停止だろう。
「そこで提案だ……聖剣を取りに行こう」
「は?」
「アンガス。お前は今まで、正当な方法で聖剣の担い手となることを目指してきた。だが、こうなってはお前が正当な方法で聖剣に辿り着くことは不可能。……だが、俺はお前こそが聖剣を持つべき存在だと思っている」
「……なるほどな。だから、正当な方法にはこだわらず、聖剣を直接取りに行けってことか」
「そうだ。……そして、その足で王都のダンジョンへ潜る。……そのまま厄災を討伐すれば、もはや国もお前に文句は言えん」
「……なるほど。……素晴らしい! 流石はカルロ! お前が俺の仲間だったことこそが、俺の人生最大の幸運だ!」
素晴らしい! そうだ、それでいいじゃないか!
俺は聖剣に選ばれるべき存在! 厄災を討ち滅ぼす者!
その正当性は聖剣が示してくれる!
完璧な作戦だ。
「よし、善は急げだ。……行くぞ、カルロ!」
「ああ」
そうして、俺達は牢獄を抜け出し、王城を目指した。
※※※
「何者だ貴さ──」
「敵しゅ──」
弱い弱い弱い!
王城の警備というのはこの程度か?
程度が知れるなぁ! ……だがまぁ、近衛でもない一般兵ならこの程度か。
兵士を斬り殺しながら進む。
カルロの槍と俺の剣なら、容易に殺せる。
カルロはどうやら聖剣がどこにあるかを知っているらしい。
「すまんな、この聖剣の位置を調べるのに時間がかかっていた。お前を助けに行くのが遅れた理由がそれだ」
「なるほど。いや、いい。……むしろ良く脱出後の事を考えていてくれた。お前は最高の仲間だ。他の奴らとは違う」
カルロの案内に従い、ついに俺は聖剣の間へ辿り着いた。
その部屋には台座があり、その台座に聖剣が突き立っていた。
「さぁ、アンガス。抜いてくれ」
「ああ」
言われるままに、俺は聖剣の前に立ち、その柄に手を伸ばす。
そして、握りしめる。
──待っていたぞ、我が担い手よ。
それは威厳のある男の声だった。
同時に、柄から力が流れ込んでくるのを感じる。
──さぁ、担い手アンガスよ、我をこの封印の台座より解き放つのだ。
「……ああ、もちろん!」
俺は台座から剣を抜き放った。
同時に、柄から流れ込んでくる力の量が爆発的に増加した。
体に全能感が満ちる。
素晴らしい! これが聖剣の力か!
──良くぞ我を抜いた、担い手よ。我は〈聖剣ネメシス〉。厄災を討つための聖剣。担い手アンガス、これより我はお主の力となろう。そして、共に厄災を討ち滅ぼそうぞ!
「ああ。ああ! そうだ! 俺が厄災を滅ぼす! クククッ! やろうじゃないか! さぁ行くぞネメシス! ……カルロ! ついてこい!」
「了解」
あははは! やはり俺こそが英雄! この国を救う者! 俺こそがこの世界の主役なのだ!
最初からこうすればよかった! だが、いい、今から俺は主役として返り咲くのだからな!
カルロも笑っている。まさに「計画が上手くいった」という顔だ。ああ素晴らしい計画、手際だったぞカルロ。お前と俺ならどこまでも行けるだろう。
さぁ、王都を救ってやろうじゃないか!




