第五十三話 公爵の報酬
レウケーさん達からの報酬を受取り、来たときと同じ道を通って依頼主であるエレオノーラのところまで帰ってきた。
……うん、とても大変だった。
何が大変って、私のアイテムがかなりギリギリだったこと。
なんとか足りたけれど……精神衛生上良くない。いつも以上に無駄を減らすよう頭も使った。疲れた。
もう本当によくない。プレッシャーすごかった。
秘境でのゴタゴタのせいで想定外の消耗だったからね。それなりに余裕を持って準備したはずだったのに。
森の魔獣達も、来たときにそれなりに倒したはずなのに、帰りでもやっぱり厄介な数と強さの魔獣達がいた。
流石に変異体のトロールはいなかったし、トレント系もそこまで見かけなかったけど、魔獣系はむしろ来る時より多かった。……エルダーイビルトレントやらエルダートレントやらを減らした結果、他の魔獣達の生息域が広がったのかもしれない。
というわけで、結局中々の戦闘をしながら森を抜けた。まぁ、その分色々お金になる素材も得られた。臨時収入ということで喜ぼう。
帰ってきて報告すると、エレオノーラは頭を抱えた。
「ごめんなさい。まさかそんなことになっているなんて思いもしませんでしたわ。想定していた難易度よりも遥かに難しい依頼を達成してきてくれて、本当にありがとう」
エレオノーラは真っ先に頭を下げた。
でもまぁ、あんなことは予想できないと思う。仮にドラゴンゾンビの存在を知っていたとして、あそこまで面倒な相手とは予想できない。普通のドラゴンゾンビはもっと簡単に倒せる。生前のドラゴンよりだいぶ弱くなるし。
まして秘境にいたドラゴンゾンビは私達の到着直前にやってきたばかり。知らなくて当然。予想できなくて当然だ。
予想できなくて当然のドラゴンではあったけれど……ちょっと嫌な情報は知れた。
「そのドラゴンゾンビは……『光輝の剣』が討伐に失敗した邪竜だと思うわ」
アンガス達、なんと大ぽかをやらかしていたらしい。
「『光輝の剣』は王都近郊に飛来した邪竜の討伐を依頼されたの。戦闘は『光輝の剣』の優位で推移していたそうよ。……けれど、途中からアンガスが遊び始めた。邪竜を甚振り、無駄な攻撃ばかりしていたらしいわ。……で、最終的に無駄に最上位スキルを連打した結果、スタミナ切れで倒れ……邪竜はその隙を付いて逃げてしまった」
「……子供かアンガスは」
ヴェイセルは呆れたような……いや、まさに呆れた声を出した。
うん、アンガスは子供だよ。馬鹿だ、あいつは。
ちょっとだけ悲しくなった。駆け出しの頃はあんなやつでも輝いていたんだけれどね。才能があったし。
あいつが本格的に調子に乗り始めたのは……カルロがパーティに加入してからだっけ? カルロは基本アンガス全肯定だったからなぁ。しかも妙に口が回るし。
「アンガスは最上位スキルをもっと余裕で連打できると思っていたらしいわ」
「あー……私のせいか」
うん、原因私でした。
ぐぇぇ……自分で撒いた種じゃん。
「いや、アルマのせいじゃなくてアンガスのせいだ。アルマがいなくなってから、様々な戦闘でその影響は感じていたはず。その中で自分の体力が自分が思っているほどは無いと認めることができていれば、今回のようなことは起きなかった」
「アルマのおかげだったって思いたくなかったんだろうなぁ」
「いやぁ……でも私が【隠密道具使用】に逃げてなければ、そもそもそんな誤解もしなかったはずだし」
「前にも言ったが、それだってそういう状況を作ったアンガス達が悪いさ。アルマは気にするな」
「……皆、私のこと擁護しすぎだよ……」
「アルマは自分で反省をしますから。わざわざ嗜める必要もないんですよ」
うーん……もうちょっと嗜めてもらった方が気持ちは楽なんだけど。
でも……うん……感謝かな。こんな仲間を得られたことに。
「さて、今回の件では皆さんに想定以上の負荷を強いることになりましたわ。だから……それに報いるだけの報酬をお渡しします。……とはいえ、追加分の報酬を用意するには少し時間がかかるので、一旦元々の報酬をお渡しし、後に皆さんのパーティハウスへ追加報酬を届けることにしますわ」
「承知した。まぁ、情報になかった相手とはいえ、そちらの不手際ってわけじゃないことは分かっている。ゆっくりでいいさ」
ヴェイセルがそう言って、簡単に私達の報酬の件は決まった。
私達は麻袋に詰められるだけ詰めてきた依頼品〈プネウマミント〉を渡し、報酬を受け取る。
それから、この日は公爵邸に泊めてもらうこととなった。
その日の公爵邸は結構忙しなかったように思う。きっと、受け取った〈プネウマミント〉から薬を作るため、いろいろな人が駆け回っていたのだろう。
※※※
その日の晩餐は豪華だった。
正直、これだけで追加報酬といえるレベルのお金が掛かっているんじゃないかと疑うレベル。
出てくる料理全部に超高級食材がこれでもかと使われていた。……公爵邸が忙しなかったのはこれの準備もあったからということもあるのかも知れない。
公爵邸でもこんな気合の入った料理を作ることは滅多に無いらしい。そりゃそうでしょ。メインディッシュなんて多分……一皿分の材料費だけで平民なら三年ぐらい暮らせるんじゃないかな? こんな貴重な食材を冒険者に振る舞うなんてちょっとどうかと思う。そこまで味わからないよ?
……まぁ、信じられないほど美味しかったけどね。
信じられないほど美味しかったのは事実だけど……グレードを一個落とした食材で同じ料理を作ってもらったとしても味の違いを感じ取れる自信はない。……この食材、ホントに私達が食べても良かったのかなぁ?
公爵邸のベッドは信じられないほどふかふかだった。
ちょっと柔らかすぎて逆に寝にくい気がした。いや、単に緊張かも知れない。
でも、疲れてもいたので結局ぐっすり眠った。……一応寝具を鑑定したから快眠魔法が掛かったアイテムでないのは確か。最初寝にくい気がしたのに、ここまでぐっすり眠ることになるとは。……そんなに疲れてたのかな? いや、長旅だったしそりゃそうか。
翌朝、私達は前公爵様への投薬の結果を見届けること無く屋敷を後にした。
私達が公爵邸を出るとき、ようやく公爵様に会った。なんかメチャクチャ忙しかったらしい。今まで挨拶もできなかったことを謝罪され、同時に前公爵様の薬の素材を取ってきたことを感謝された。
前公爵様が良くなるといいですね。
そうして、私達は王都への帰路。
そこそこ長い期間王都を離れていたけれど……ヴェイセルの想定通り、案の定アンガス達はやらかした。
アンガス達がやらかしたタイミングは私達が出発してすぐ。結構な日数が経ってはいるが……正直、ほとぼりが冷めるにはまだまだ時間が掛かるだろう。
というわけで、私達は寄り道をしつつゆっくりと王都へ帰る。
まぁ、物見遊山。観光だ。
六人でゆっくり途中の街を見て回りながら、道中に困っている人がいたら助けたりしている。
いろんな街で特産品も買う。一人寂しく待っているだろうアンネにちゃんとお土産買っていかないといけないからね。
水が綺麗と噂の町で、その水を使った不思議なお菓子を買った。
奇妙なゴブリンに襲われていた街の冒険者ギルドで依頼を受け、その奇妙なゴブリンの群れを一日で討伐した。……ドラゴンさん、傷を塞いで飛んではいたのだろうけれど、それでも道中たまに溢れることはあったのね。うん、例の変異体トロールのゴブリン版だった。
ロブスターで有名な湿地帯へ行ってロブスター系の魔物を倒したりもした。私とレティがいれば王都にも持ち帰れる。
最近おもしろいお菓子で有名になっている街にも行った。その面白いお菓子を開発したのはとある料理人さんだったが……あの人は天才だと思う。もちろんアンネのお土産にも買った。日持ちするお菓子でよかった。
そんなこんな、ゆっくりと帰りの道中を満喫し、私達はようやく王都に帰り着いたのだった。




