第五十一話 精霊の宴
結局二日かけて私達は凍ったドラゴンを運び出した。
レティは二日も徹夜。私は大量のマナポーションとスタミナポーションに加え、〈不眠草〉まで消費した。
最後に頭部を皆で持ち上げて運び出した。
「……アウラ、準備はいいか?」
「はい。準備できましたよ」
アウラの最上位スキルで死体を完全に消し飛ばす予定。……アンデッドとしてだいぶ進化しちゃってるからね、このドラゴン。もう秘境の外だけど、氷を解除しただけではたぶんちゃんと死んでくれないだろうという話。
「じゃあ頼んだ」
「……【殺戮矢☆】。……精霊達よ、眼前の穢れし肉塊を完全に消し去る力を、我が矢に与え給え」
スキルの込められた矢に、更に精霊達の力が込められていく。
……いつもよりだいぶ長い時間を掛けているな。今回は矢の準備に時間を掛ける余裕があるから。
精霊達を注がれた矢が、段々と輝き始める。
それどころか、焔のような揺らめきを帯び始めた。
アウラの手が焼けたりしている様子はないが……白い光が炎のような形で揺らめいている。
白く燃え輝く光の矢。
その矢を、アウラはゆっくりと弓に番え、その鏃を氷漬けの腐肉の山へと向けた。
「では、いきます。……【狩猟月女神の一射☆】!!!」
反転した世界を、一筋の流星が征く。
氷に到達した矢が、何の抵抗もなく氷の塊を消滅させた。
氷どころか地面まで抉れている。
その直後、声が聞こえた。
「アア、ナゼダ、ナゼワレハ、ナゼ……キエル、ワレガ、イヤ、イヤダイヤダイヤダ! ワレハキエタクナイ、ヤメロ! ニンゲン! オマエタチガシネ! シネシネシネシネ! ヤメロ! ケスナ! ワレヲ! オオオ!!! アア……アアアアアアアア!!!!」
叫びを最後に、その声も聞こえなくなった。
呆気なく、かつてドラゴンだった残骸達は、その存在をこの世界から失った。
……飛び去った矢を追うように、風が吹いた。消滅させられた物体のあった空間に、空気が流れ込む。虚空を追う風だ。
「やつの魔力は消えた」
「ああ、ようやく終わったな」
「正直疲れたぜ、流石にな」
「厄介だった」
「そうですね。二度とこんな相手とは戦いたくありません」
「アイテム足りて良かったよ」
正直今回はかなり消費した。こんな相手は流石に想定していなかったからね。
……結構余裕持ってたつもりだったアイテムが、帰りの戦闘考えるとかなりギリギリだ。
こんな冷や汗かくような思いはもうできるだけしたくない。
※※※
「皆様、今回は本当にありがとうございました」
「「「ありがとうございました」」」
レウケーさんとそのお仲間の精霊さん達が、一斉に私達に頭を下げた。
うーん、美女が一斉に一糸乱れぬ動きをするのは壮観だなぁ。
「そんなにかしこまらないでくれ。俺達にとっても必要なことだったんだ」
「それでも、私達が助かったのは事実。今日はお礼をさせてください」
そういうレウケーさんや精霊さん達に連れられ、私達は例の遺跡のような神殿の近くにある広場のようなところへとやってきた。
まだ昼だけれど、祭りという感じ。
中央には巨大な炎。大きな薪が組まれて燃えている。……なんか、いい香りだ。不思議。あの薪、香木の類だったりするのかな? ……ここ、白ポプラ以外の木もあるの? いや、そもそも白ポプラを燃やした場合の香りも知らないけどさ。
周囲を見ると、あちこちで肉を焼いている様子。
それだけじゃない、果物も多数用意されている。
「……用意されている食べ物、俺達が食っても大丈夫なものか?」
「ええ。アレらは秘境の外の精霊に頼んで、秘境の外から取ってきてもらった食材です。皆さんが口にされても、問題なく帰ることができるものですよ」
「ならよかった」
「ふふふ……恩人の方に、そんな不意打ちのようなことはしませんよ。ご心配なく存分にお楽しみくださいませ」
まぁ、そこは不安になるところだよねぇ。ちゃんと確認しないと怖くて食べられたものじゃない。
とりあえず、問題ないと言質も取った。
……念の為にヴェイセルはザシャの方を見たけれど、ザシャも頷いていた。嘘はないらしい。……ザシャは嘘を見抜くようなこともスキルでできるからね。
「さぁどうぞ!」
精霊達が寄ってきて、焼けた肉串や木の実、それに木の実を絞ったジュースなどを渡してくれる。……コップは木製。
「じゃあ、いただきます」
受け取って口をつける。
! 美味しい!
え? これ何の肉? こんな味の肉……あの森の生き物からとれたの? 出会ってない動物とかがいるんだろうなぁ。すごく美味しい。
ちょっと鑑定。……〈暗森牛のフィレ肉〉? え、あの森、牛とかいたの?
「気に入ってもらえたみたいで良かった! ほらほら! どんどん食べて!」
精霊達は私達に次々に食べ物を渡してくれる。
「ちなみに精霊の方々も食事は普通にされるんですか?」
「ええ。私達も食事はするわ。……もちろん、私達だけのときは秘境でとれた食べ物を食べるけれどね」
「なるほど」
木の実も美味しい。……これも鑑定。〈ヴァンパイアフルーツ〉? なにそれ……怖い。でも特にデメリット効果とかはない。むしろ……食べてからしばらく生命力持続回復? その上この効果、魔法料理とかと違って素材自体が持つ魔法効果だから……【道具使用】でも効果あり。……ちょっと欲しいなぁ。
ジュースもさっぱり。でも血みたいに赤くてちょっと最初飲むのに勇気が必要だった。……えーっとアイテム名は……〈ドラゴンブラッドベリージュース〉? そりゃ血みたいな色なわけだ。……それにしても、ドラゴンのゾンビ倒したばかりでドラゴンの名を冠する果物のジュースかぁ……まぁ、美味しいから良いけどね。……こっちも若干の生命力増強効果か。うーん……美味しいしこれも欲しくなっちゃう。
今食べているアイテム、森の移動中に鑑定しても見た覚えがないし、私達が来たのとは別方向で秘境に隣接している地点とかにあるのかなぁ? それとも精霊とかじゃないと取れないようなところにあるとか?
「さぁ、食べるだけじゃなく、色々楽しみましょう!」
「歌いましょう! 踊りましょう!」
精霊さん達に誘われるまま、歌い踊ることになる。
炎の周りを、踊る。歌う。
ヴェイセル達も、精霊さん達と手を取り合い、代わる代わる踊っている。
踊りの種類はよくわからなかった。なんだか不思議なダンス。
貴族のような社交ダンスとは当然違うし、村の祭りなどで踊られるものとも違う気がする。なんというか、そもそも文化圏の違う地域の踊りという感じ。
歌も不思議なメロディだ。なんというか、民族音楽感ある。
歌詞は……冥界の神様は優しいけど怖いよ、みたいな感じ。死を貶めることなかれ、みたいなことも言ってるな。
なんとなく楽しくなるメロディ、リズム。そのリズムに合う踊り。
気付いたらだいぶ楽しくなっていた。
いつの間にか夕暮れをすぎ、夜。
美味しいものを食べながら、皆で踊り歌う。
夜になってからはお酒も出してもらえた。……なお、このお酒も外の精霊から分けてもらったものらしい。
へぇ……〈精霊酒〉かぁ……〈精霊酒〉!? 貴重なアイテムじゃん!
でも出されたものなのでしっかりいただきましょう。
ぁ……おいし……スッキリしているけれど、酒精自体は結構強め? 仄かな甘みがある。
香りも良い。なんか甘い香り。
そして、なんか体の奥から魔力が湧き上がるような感覚。私、魔力感覚はあまり鋭くないのだけれど、それでもこれか。
〈精霊酒〉といえば、一時的な魔力増強に加えて魔力の持続回復効果もある優れモノ。その代わり、結構酔いやすいのが難点。……って聞いてたけど、これで酔うのは仕方ないでしょ。美味しいし飲みやすいし、その上に酒精は強いんだもの。
すごく気持ちよくなってきた。
レオンとかも精霊さんに御酌されて楽しそうにしてる。
アウラも精霊さん達と楽しげに話しながらお酒飲んでるなぁ。
ザシャとレティは二人で飲んでるみたい。
ヴェイセルは一人で飲んでる。皆で楽しめばいいのに。……まぁ、念の為に私達と精霊さん達全体が見れる場所にいるんだろう。真面目君だなぁ。
そうして楽しい宴は続き、夜も更け、私はいつの間にか眠ってしまっていた。
久しぶりに、楽しい一日だった。




