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追放アイテム士は倹約家 ─え、新しいパーティでは消耗品代をパーティ資金から出してくれるんですか!?─  作者: 藤咲理久


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第五十話 氷結

【レティシア視点】


 私とアルマが駆けつけたとき、戦場の状況は正直って意味不明だった。


 ドラゴンゾンビの形はなく、ヴェイセルとレオンの周りを骨が飛び回っていた。なにこれ?


 ただ、ヴェイセル達の頭上、かなり高い位置に竜の頭部があるのが分かった。

 そのまま、ブレスを真下に撃とうとしている。


 即座に、魔力を練り上げる。

 アレより早く、魔法を構築しなければ。


「【氷魔法高速行使(ラピッドキャスト)Ⅴ】【氷魔法限界突破(リミットブレイク)Ⅴ】《氷獄(コキュートス)》!!!」


 私は【氷魔法射程増加Ⅴ】の力も使い、アウラ並の長距離での《氷獄(コキュートス)》発動を試みる。弓使いとしては大したことのない距離かもしれないが、魔法使い的には超遠距離での魔法行使だ。


 ちょうどヴェイセル達が頭上の竜頭に気付き、竜頭の方がブレスを吐こうとした瞬間だった。


 私の狙い通り、竜頭が完全に凍結。そして、そのまま氷に閉じ込められた頭が落下していく。


 それを見た私は一息つこうとした。これで難は去ったと思った。

 だが、これで終わってはくれないらしい。


「レティ! 骨がっ!」


 凍らせた頭部とは別の骨。ヴェイセル達の周りを飛び回っていた骨や、その周囲に散乱している骨。それらが、ヴェイセル達に向かって高速で飛んでいきながら、同時に再生して嫌な色の肉塊になっていく。……つまり、ヴェイセル達に無数の腐肉の肉団子が殺到していた。


「アルマ、行こう」


「うんっ!」


 アルマと共に近づく。これだけ遠いと狙いづらい。私には対象除外のスキルがあるから、ヴェイセルとレオンを巻き込まずに魔法を撃てるが、それでも状況もわからず撃ち出すのは厳しい。


「《氷槍(アイスランス)》!」


 骨と肉を切り払いながら、その範囲から逃れようとするヴェイセルたちを支援する。


 走りながらの魔法発動。《氷槍(アイスランス)》の連打。


 降り注ぐ氷の槍が、次々に肉塊を凍らせていく。

 腐肉の塊に、私の氷を溶かす力はない。頭部にすら無い。


 恐らく、生前の邪竜なら、《氷獄(コキュートス)》からも抜け出してきていたことだろう。哀れなものだ。


 竜特有の鱗による魔法防御も無ければ、肉の内に魔力によって熱量を溜め込むこともない。

 腐肉から生じた瘴気ガスに魔力で引火させ爆発を起こすぐらいはやってのけるかもしれないが……うん、問題ないな。既にかなりの魔力を消費している様子。これなら私が危険視するほどの爆発は起きない。


 氷から抜け出すのに必要なのは内部が完全に凍結しないように防ぐ魔力。そして凍結しきっていない内部の力を使って氷を除去する手段。

 この腐肉達の手応えは、内部まで完全に凍結したときのそれだ。


 ゾンビの再生能力というのは無限じゃない。破格の魔力効率ではあるが、それでも消耗する。周囲に散った自身の魔力を再度取り込んで活用するからこその効率なわけだが、魔力の拡散と再吸収はやればやるほど魔力を劣化させる。よく練られていない魔力に近くなっていく。

 腐肉の纏う魔力は弱い。これなら簡単に氷漬けにできるのも当然だ。


 ……その割に、再生の仕方や骨の動きはおかしい。これはアンデッドとしての活動をドラゴンが習熟した結果と見るべきだろうか? 普通、ドラゴンゾンビはそこまでできない。それも当然だ。ドラゴンゾンビの強さは元ドラゴンとしての肉体の強さとゾンビになって得た再生力によるものだ。アンデッドとしての格自体は実はただのゾンビでしかない。超強力なゾンビというだけだ。

 だから、今目の前のこのような状態では、アンデッドとしての存在を維持できない。それが普通。……だが、この秘境ならソレができてしまうと。

 結果的に、このドラゴンゾンビはドラゴンゾンビというより、もはやもっと高位のアンデッドになってしまっているだろう。……アンデッドの格としては。

 そうだなぁ……ドラゴン……ポルターガイスト? いや、もうちょっと腐肉感のあるネーミング……ロトンドラゴンポルターガイストとか? たぶんそんな感じのモンスターだ。

 ……とはいえ、この格に至るまでの過程で魔力を使いすぎている。量も質も、残っている魔力は弱々しい。今のこの消耗した状態は、もはやドラゴンとしての力の量と質が損なわれ、ただの高位のアンデッドになってしまったものと変わらない。……肉の量が多いのは厄介だけれど、それだけだ。


 哀れなことに、私が駆けつけたときの頭部への《氷獄(コキュートス)》でほぼ決着はついたようなものだった。


 事後処理。作業の様に肉片を凍りつかせていく。

 腐肉を見つけては氷結。見つけては氷結。飛んできた腐肉を氷結。凍らせ凍らせ氷漬け。

 流れ作業感がある。鼻歌でも交えようか。……やめとこう。それは私のキャラじゃない。


 アルマが皆にポーションを使ったりしている。あ、私にもマナポーション。ありがたい。

 ……ヴェイセルとレオンに〈消臭香水〉も使っていた。……うん、ナイス。二人も有難がっていることだろう。


 そうこうしているうちに、こちらも大体片付いた。

 あっちこっちに転がる、凍りついた腐肉達。


「レオン、運ぶのは頼んだ」


「……おう。 分かった」


 重い腰を上げるレオン。よほどの疲労らしい。悪いな。だが重要なことなんだ。


「私も手伝うよ」


 アルマも手伝いを申し出るが……大丈夫だろうか? たぶんこの氷も腐肉もアイテム判定じゃないだろうに。

 アルマは意外に力があるようで、レオンほどではないがしっかりと運んでいく。……運び先は秘境の外。それを考えると大変だ。

 ……何往復も必要な上、一往復でも結構時間が掛かる。これは数日掛かりの作業になりそうだ。


「ヴェイセル。とりあえず一旦一箇所に集めよう。その方が、私も凍った状態を維持しやすい。……ザシャ、レオン達が運び出した氷の周辺を触媒で囲んできてくれ」


「わかった、運ぶよ」


 言葉と共にヴェイセルが立ち上がる。厳しい戦闘の直後で無理をさせて済まないな。


「了解。行ってくる」


 ずっと私を護っていてくれたザシャが、すぐ側で答えた。

 いつもありがとうザシャ。……今回も、音もなく私に襲いかかる腐肉や骨を何度も払っていてくれたね。私が気付いたのは十回だったけど、きっとその三倍は防いでくれていたのだろう?


 ……今度、ちゃんと言葉にして感謝を伝えよう。……何かプレゼントを添えたっていい。


「レティ、ザシャに頼んで触媒で囲ませるってことは、運び出した腐肉もしばらく氷を維持するのか?」


「ああ。秘境内でドラゴンの魂が完全に死んでいない状態だと、外に出した肉や骨がどう動くか読めない。だから、凍らせたまま維持して、全部運び出してから一気に破棄する」


「なるほどな。わかった」


 触媒で囲っておいてくれれば、遠隔地でも氷の維持は問題ない。後はアルマに頼んでマナポーションを使ってもらわないとな。


 ヴェイセルが氷を一箇所に集めてくれて、維持が容易になった。魔力を込める地点が一地点で済むし、冷たいものを一箇所に集めているから物理的にも分散していたときより融けにくい。


 さて、ここから腕の見せどころ。

 より少ない魔力で、私自身への精神負荷も無駄に掛けること無く、静かに長時間氷を維持し続ける。

 私には【氷魔法効果延長Ⅴ】があるから、普通よりは楽だ。

 やっていることは、単に《凍結(フリーズ)》を定期的に使うだけ。だが、その定期的というのを超高頻度にしている。威力は微弱。弱い《凍結(フリーズ)》を断続的に行使し続けて、氷を維持する。

 既に完全に凍った相手を維持するなら、これが一番楽だ。……できるようになるまでは凄まじく大変だったけれど。できさえすればこれが楽。魔力消費も少ないし。


 とりあえず、魔法を維持しつつ、ゆっくりと休憩の体勢に入る。


「レティ……それとアウラ、後は任せていいか? 俺はレウケー達のところに行ってくる」


「ああ、問題ないよ」


「お任せください」


 やってきたアウラは私の隣に腰を下ろした。


「……レティは今回大変ですね」


「そうでもないよ。アウラも最上位スキルを使ったのだろう? 私は今回は使っていないからね」


「でも、これからしばらくその状態を維持するのですよね? やはり大変でしょう?」


「そうでもないさ。命の危険も無いからね」


「……そうですね。……まぁ、正直厄介な相手でした」


「お疲れ様だ」


「ええ……レティもお疲れ様でした」


 そういったあと、二人でクスクスと笑った。

 まだ私は休憩はできない。魔法の維持が続く。……早くこの氷を運び出して、ゆっくりしたい。

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