第四十九話 剣と骨の嵐
【ヴェイセル視点】
ドラゴンゾンビが再生途中のドラゴンスケルトンのような状態でまで攻撃してきた。
この時点で、俺は一つ覚悟を決めた。
時間を稼ぐなんて甘い考えは捨てる。
相手がその気ならこっちもやってやる。
まともな攻撃を繰り出す余裕がないほどバラバラに切り刻んでやろう。
というか、そのぐらいの勢いで攻撃しなければ、こちらがやられる。
戦闘開始時ぐらいの攻撃ペースなら防御に専念して時間を稼いでも良かったが、この攻撃ペースだと潰される。こちらから攻撃し、相手の体を粉砕して、攻撃手段を削ってやらなければ。
相手が万全の選択肢を取れる状態を作ってはならないのは当然。それどころか、敵の攻撃は全て苦し紛れかつ、こちらの誘導した攻撃しか出せない状況を作り出す。骨の一撃すら、こちらにとって容易く対処可能な無駄な一手を引き出す。
そのためには、かなり俺のスタミナを消費する。だが、問題ない。レオンの防御もアウラの援護あるのだから、無理はしない。無理をせずとも可能な範疇のはずだ。
やり遂げて見せる!
「【剣嵐Ⅴ】」
再生途中の骨をバラバラにする。
音は一度、ギィンという妙な響き方をする金属音が一度だけ。
それは、一度に聴こえるほど……ほぼ同時に何度も切り裂いた結果、いくつもの音が重なって生まれた音。
視界に走る真紅と暗紅の残光に沿って、骨が崩れ落ちていく。
……たぶん、魂を斬る類のスキルを持っているなら、こんな苦労は要らないのだろう。
残念ながら、俺はその系統は取っていない。あの系統を伸ばすビルドは、通常火力が伸ばせないから取らなかった。……【神匠遺産の呪剣☆】には若干そういう効果があるようだが、おまけ程度だ。
……おまけ程度でも、無いよりはマシだな。
再生し始める骨が、空中で渦を巻いて襲いかかってくる。
レオンが盾で弾いた骨が、本体に戻り再生していく。俺が切り払った骨は一度地面に落ち、しばらくしてまた浮き上がる。
骨の連打は厄介だが、やつの主目的は再生。再生途中でついでに殴って来ているだけ。
それなら、骨の動き、流れが読みやすい。
さぁ、見定めろ。
その流れの中を泳ぐ骨、一番断たれて困るのはどれだ?
流れが見えていれば攻撃を避けるのは容易い。数が多くて不可避のタイミングもあるが、そこはレオンが確実に防ぐ。問題ない。
だから、意識を向けるのは攻撃する箇所。
骨を断ち割り、再生を阻害する。それに適した部位の骨はどれだ?
見定め、断ち割る。閃いた真紅が、尾の付け根の骨を両断した。
そうだ、こういう付け根に当たるような箇所を割れば、その先の再生も阻害できる。
飛び交う骨の群れ、そこに足の付け根、首の付け根、翼の付け根……そういった付け根部分に加え、背骨や頭蓋といった重要部位の骨を見出し、斬り砕いていく。
激しく飛び交う骨。
突っ込んでくるのを避ける。砕く。避ける避ける避ける。
致命的な攻撃はレオンがしっかり上手く捌いてくれている。いくつかは掠ってしまうが仕方ない。これだけ殺到する以上は、完全に捌き切るのは……無駄が多い。
動きに問題のないダメージは許容。
突如、骨が嵐の様に、竜巻の様に舞い始めた。多数の骨に視界を塞がれる。
「【剣嵐Ⅴ】」
スキルを使って切り刻む。
切り払われた骨のカーテン。
──その向こうから、頭蓋骨が俺を噛み砕こうと迫ってきていた。
冷静に、見据える。
これは、無視していい。
別の攻撃対象に目を向ける。
直後、飛来した矢が、竜の巨大な頭蓋を粉々に打ち砕いた。
流石アウラ。良い仕事だ。
首の骨を斬る。
後ろ足の骨を斬る。
さっき砕けた頭蓋の大きい破片を蹴り飛ばす。
尾の骨を斬る。
下顎の骨を斬る。
再生した頭骨を斬る。
舞い踊る、剣。
それに伴い砕ける骨。
背中をレオンに任せ、再生を阻害し続ける。
……このドラゴン、とうとう自らの形に拘らなくなってきたな?
折れた骨を再生することをやめ、そのまま骨で突っ込むようになってきた。
しかも──
「レオン、その肉鞭は任せた」
「おうっ」
浮遊する前足の付け根部分の骨だけ肉が再生し、例の鞭のように触手化し肥大化した前足が生み出された。体は無いまま、前足部分だけで、宙に浮いて……そのまま肉鞭が振り下ろされる。
他にも、後ろ足の一部が再生し、爪で攻撃して来たり、下顎部分が再生して牙で刺そうとしてきたり、尾が再生して振り回して来たり……やりたい放題だな。
そして挙げ句──
「おい、ヴェイセル! これはやべぇぞ!」
「ああ、今切り払う!」
周囲の骨が、組み合わせもバラバラに、まともに接続することもなく無理矢理再生し始めた。……内側にいる俺達もそのまま肉に取り込むような形で。体がまともに再生できなくとも、腐肉で俺達を潰せればいいという考えだろう。雑だが厄介だ。
「【剣嵐Ⅴ】!」
周囲の肉を粉微塵に斬り裂く。
バラバラになった肉片。
腐肉に覆われていた視界が晴れる。
──そして、その先で、竜の頭が口を開けていた。
さっきも似たような光景を見たが……今回は頭蓋骨ではなく、肉を伴った頭部……いや、喉もある。
口の内には膨大な魔力と瘴気が集まっている。
ドラゴンゾンビの瘴気のブレスだ。
それが、今にも俺達に発射されようとしていた。
ドラゴンゾンビ、どうやら本当に知性を失っているようだな。まぁ、さっきの攻撃など、誇りあるドラゴンの戦い方ではないだろう。泥臭いにも程がある。
「知性を失ったお前は、学習能力もないんだな」
頭蓋で噛み砕こうとしてきたさっきとの違いはブレス攻撃というだけ。むしろその場から動かない分狙いやすい。……そんな攻撃、止められないはずがないだろう?
直後、世界の色が一瞬、反転した気がした。
光がドラゴンの頭を飲み込む。
ブレスの形をなす直前で、瘴気は一瞬で霧散した。
それは狩猟の女神を名を冠した一撃。鱗がまともに機能していないドラゴンゾンビでは、耐えることなど不可能な一撃だ。
……正直、今の一撃で頭蓋の骨が跡形もなく消滅していて再生不能……と、なってくれていればありがたいんだが……どうだろうか?
そう思いつつも、観察している余裕はない。
周囲の骨は動き続けている。仮に頭蓋が再生不能なほどに破壊されていたとしても、もはやこいつはそれだけでは止まらないだろう。
一部肉体を再生した骨。その動きの要になる場所を切り裂いていく。
だいぶ、スタミナがきつい。
【神鳥殺しの終末剣☆】と【神匠遺産の呪剣☆】の維持はそれだけでかなり消耗する。
悩む。片手は消すか?
これ以上最上位スキルを維持するのは厳しい。俺が倒れれば詰みだ。
僅かな時間悩み、維持することに決める。
これを維持しなければそれこそジリ貧。実質選択肢はない。
あとは、レティとアルマを信じるだけだ。
そうして、振るうのもきつくなってきた両腕を振り切って尾を両断したところで、正面から後ろ足の爪が迫ってきた。
「【要塞盾Ⅴ】
レオンが防ぐ。
次は頭上からやってくる肉の鞭。
それをアウラの矢が消し飛ばす。
そして……次に脅威を感じたのは遥か頭上だった。
三度目の、頭部からの攻撃。
かなり遠い、上空。そこから、瘴気のブレスを撃ち下ろす体勢。
……頭部、あの一撃を受けても再生可能だったか。
アウラはたった今、矢を射った直後。
あの攻撃は防げない。
瘴気のブレスは拡散性が高く、回避は不可能。
レオンの最上位スキルなら防げるか?
レオンと顔を見合わせ、覚悟を決める。
ブレスを撃ち出した瞬間、レオンが防ぐ。アウラの援護をそのまま防御状態で待つ。……レオンの負担は大きいが、これしか無い。
ドラゴンゾンビの頭部に魔力が集中し、そして──
──一瞬にして凍りついた。
そのまま、氷結した頭部が落下してくる。
どうやら、俺達の勝利らしい。
体が軽くなるのを感じる。既に慣れ親しんだ、スタミナポーションの感覚。……アンガス達はこれすら気付けない程、あって当然の感覚になっていたのか?
レオンが防いで弾いた竜の足も凍りつく。
頭上と違い、今回は近かった分、魔力が感じ取れた。
魔力の出どころに視線を向ける。
「遅くなった」
「たった三人ですごいよ! 流石だね、みんな」
「いや、助かった……よく間に合ってくれた」
そこには心強い我がパーティの後衛二人が立っていた。




