第四十六話 誘導
薬効の抽出が終わった薬湯。
それらを使用済みのポーション瓶に詰めて、背嚢にしまっていく。
柘榴も背嚢に入れないといけないけど……結構スペースとるなぁ。
まぁ、それでもここに到着するまでに使った消耗品の分スペースは空いている。そこに整理して入れていく。……即時収納は便利だけど、かなり適当に放り込まれちゃうのが欠点。即時収納ばかり使っていると、背嚢にしまえるアイテムの数が減る。定期的な整理整頓は必須。
アイテム整理を終えると、ヴェイセル達のところに戻った。
「来たか」
「準備はもう大丈夫?」
「うん、バッチリ。そっちはどう?」
こちらを見たヴェイセルとレティに頷きを返し、逆に問う。
「まずは汚染された皆さんとドラゴンゾンビを引き離すことになりました」
「助けたそばからまた汚染されてたら意味ねぇからな」
「そうですね。私にお手伝いできることはありますか?」
レウケーさんがお手伝いを申し出てくれる。
冒険者的には依頼主を危険に晒すのは良くないという感覚があるけれど……正直、この土地に詳しいレウケーさんの申し出はありがたい。
「じゃあレウケー、君には正常に戻った後の住人達を安全な場所まで誘導して欲しい」
「わかりました」
「それと俺達の作戦を少し確認してくれ。この土地ではやってはいけないことなんかが無いかを確認したい」
「わかりました。確認します」
ヴェイセルに言われ、レウケーは皆と顔を突き合わせて作戦を確認し始めた。
私も作戦内容を確認したいので、その輪に入ることにした。
※※※
作戦は単純。
ヴェイセル、レオン、アウラでドラゴンゾンビを誘導。レティの魔法で汚染されている住民を足止め。それでドラゴンゾンビと住民を引き離す。
引き離された住民を私がアイテムで正常化。完了したらレウケーさんが住民を誘導。
正常化が問題ないとなった時点でレティはザシャと一緒にドラゴンゾンビの方へ移動し戦闘に参加。
私も正常化が終わったら同じく移動して戦闘に参加。
その後はドラゴンゾンビを倒し、その体をヴェイセルがバラバラにしてレティが凍結。凍結させたドラゴンゾンビをレオンが秘境の外まで運搬する。……いや、運搬は皆で手伝うことになるだろうけど。
そういうわけで、ドラゴンゾンビが居る場所までやってきた。
爛れた巨体が闊歩している。
……前足が他の部位よりドロドロだ。というか、前足は変に折れ曲がったり引きずったりしている。……まるで骨が無いかのような感じ。
「【道具探知Ⅱ】」
とりあえず試しに感知してみた。
やっぱり肉と鱗はゾンビ化でアイテム判定されなくなってる。……骨と牙はゾンビだろうとアイテム扱いだね。
そして……ホントにあの前足、骨がない。……あれかな? 何かしらで前足を破壊されて骨も無い状態だったところから、ゾンビ化したことで肉だけ再生したとか?
ついでに取り巻き……汚染された住人にも感知できたものがある。……〈精霊核〉。住人たちはみんなもともと精霊って話だったし当然か。
……精霊だからか、みんな美人ばっかり。……もうなんというか、みんな呪われた美女って感じ。イメージとしてはバンシーに近いかも。
「あの汚染具合……皆この"安らぎの地"の在り方とは違う、死の恐怖の力に性質が寄っているみたいです。皆さん気をつけてください」
「それはまた厄介そうだ。……アウラ」
「わかりました。……精霊達よ、我らの命を護り給え」
アウラが命の精霊に呼びかける。
アウラの言葉に従い、光り輝く精霊が現れ、私達の体に命を保護する力を掛けた。
「私もお手伝いしましょう」
アウラが喚び出した精霊だけでなく、レウケーさんも私達に保護の力を掛けてくれる。……レウケーさんの力は、なんだかこの土地と繋がっている感じがする。流石はこの地の管理者だ。
「ありがとうアウラ、レウケー。……それじゃ、行くか」
ヴェイセルの言葉に、全員が頷いた。
そして、まずはヴェイセルとレオンが駆け出す。
同時、レティが魔法を発動した。
「《豪雪》」
凄まじい雪が振り始めた。
ドラゴンゾンビの周囲を守る汚染された精霊達。彼女達がいる場所だけ、雪の壁に囲われているかのように、全く見通せない程の吹雪が降り注ぐ。
……みるみるうちに積み上がる雪。
その雪の様子を窺うことすらせずに、ヴェイセル達はドラゴンゾンビに肉薄した。
「【剣嵐Ⅴ】!」
「ゥゥアア? ニンゲン? ニンゲン! ニンゲンンン! コロス! コロスコロスコロス!!! シネシネシネシネシネェ!!!」
「なんだ、ゾンビになって知能が落ちてるのか? これなら簡単に釣れそうだ」
「釣るのは簡単でも、こりゃ厄介そうだぞ。瘴気が予想以上に酷い」
「【道具即時取り出し☆】【道具使用】!」
「お? 〈清浄聖水〉か……すまんアルマ! 助かる!」
「どういたしまして! そっちも頑張ってね!」
「おう!」
〈清浄聖水〉。穢れや瘴気を寄せ付けない高級品。……対アンデッド戦の切り札として普段から一つは持ち歩くようにしているアイテム。この状況で持っていてよかった。……数は一個しか無いので、うちのパーティ前衛のための瘴気避けとして掛けた。
「さぁて、ヴェイセル! レウケーに指定された方向へ逃げるぞ! うぉっ! 【要塞盾Ⅴ】!」
「ああ、行くぞ!」
レオンとヴェイセルはドラゴンゾンビの攻撃を防ぎつつ、レウケーに指定されていた方向へと逃げていく。アウラも安全な距離を保って並走する形だ。
取り巻きになっていた精霊達は……うん、既に腰ぐらいまで雪が積もっていて、完全に身動きが取れなくなっているね。レティも十分だと思ったのか、魔法を止めたらしく、吹雪は止んでいた。
「アァアァァ……アアアアァァァァアアアアァアァアァアアアアア!!!!!」
汚染された精霊たちが絶叫を上げる。
私達の命は保護してもらっているけれど……この数はちょっとまずいかも。
私もレティも即座に飛び退いた。レウケーさんは一瞬遅れたが、同様に飛び退いてる。
視覚的には、何があるというわけでもない。が、汚染された精霊達の死の力は、あたかも声に乗って黒い壁が迫ってきたかのように感じた。触れたら命を吸われる死の壁だ。
大した影響を受けないところまで下がって、少し悩む。
解除した精霊さんをすぐに連れ出せないと、その精霊さん達が今と同じ力でやられてしまうのでは?
……吹雪が消えてから絶叫したということは、私達を感知できなければ今の攻撃はやってこない?
「アルマ、あの精霊達が視覚でこちらを感知しているのか、それとも魔力知覚で感知しているのかはわからない。けれど、どちらにしても私の吹雪ならあいつらの知覚能力を妨害できる。もう一度、手前三体以外を吹雪で覆うから、その三体から正常化して。……一応、さっきの状況的にこちらを知覚していなければ攻撃はしてこないと思うけれど……攻撃されそうなら一旦中断して退避で」
「了解。それじゃよろしく」
「うん《豪雪》」
再び吹き荒れる吹雪。
その中、私は【遠距離道具使用Ⅴ】の射程ギリギリの距離で道具を準備する。
吹雪が手前三体以外を覆い、他の精霊達が見えなくなったところで道具を使用する。
「【道具使用】【道具使用】」
一回目で冥神の柘榴、二回目でプネウマミントの薬湯。
果たして、アイテムは想定通り素晴らしい効果を発揮した。
効果を受けた三人の精霊さんから、纏っていた瘴気が霧散。表情も雰囲気も別人のように変化する。
その後の姿は、まさにレウケーさんの姉妹というような感じ。
瘴気に戻った三人は、状況がわからず軽いパニックになっているが、レウケーさんが手を降ったのをみて、幾分安堵した様子だ。
そこから、レティに雪を動かす魔法を使ってもらい、三人を雪から出した。
レウケーさんが誘導して、安全な場所まで移動させる。
うん、これならやれそうだ。
……ただ、三人毎にこの手順をやるってなると……結構時間が掛かりそうだな。
ドラゴンゾンビの相手……大丈夫かな?
私とレティは援護できないけれど……うん、きっと大丈夫。ヴェイセル達やり遂げてくれると信じよう。




