第三十九話 邪竜の血
トロール達を撃退した後、これらの特異個体の発生について調査するべきだろうという話になった。
ザシャを先頭に、トロール達の痕跡を追っていく。
「アルマは元からアイテムの扱いが上手かったが、うちのパーティに入ってから更に磨きが掛かってきているよな」
「あー……そうかも。『光輝の剣』にいた頃って、私が多彩なアイテムで戦闘をサポートする、なんて暇はなかったからね」
「ほぉ? 使う暇がなかったっつーのはどういうわけだ?」
「んーっとね……皆も知ってると思うんだけど、『光輝の剣』のメンバー……特にアンガス、ヒューゴー、ヘレナはスキルの使い方がものすごく荒いんだよね。だから、戦闘中の私は基本的にスタミナポーションばっかり使ってたんだよ」
特にアンガスが酷かった。やばくなったら大抵【竜殺しの呪魔剣☆】連打のゴリ押しだったから。……その【竜殺しの呪魔剣☆】の威力が凄まじいからなんとかなっていたけれど、ゴリ押しとしか言いようがなかった。酷いときは三十連発とかしてたっけ。ほんと酷かった。普通に体力使いつくしてそのまま昏倒、全滅ってコースだったからね、アレ。……そうならないように、私も必死でスタミナポーションを連打していたよ。
「……それ、【隠密道具使用Ⅴ】を適用して使ってたんだよな?」
「え? うん、そうだよ。戦闘中でも、回復アイテム連打したりすると「俺達の事なめてるのか?」とか言われて怒られてたからね」
「……アイツラそのうちスキルの使いすぎでやらかすんじゃないか?」
「あー、あり得るかもねぇ。……まぁ、アイテム使ってることを教えなかったのが悪いと言えばそうなんだけど……そういう、私は報告したくなくなるような状況を作っていたアンガス達が悪いってことじゃダメかな?」
「それでいいんじゃないか? というか、アルマも大分図太くなってきたな。いい傾向だ。冒険者はそうじゃないとな」
お? 予想外の方向から褒められた。
まぁ、実際図太さは大事だと学んだよ。冒険者として生きていくために必要な素養だ。それがないと……それこそ私のように食い物にされてしまう。
アンガス達、何か大変な事になったとしても、私を見下して搾取していた代償だと思って受け入れてくれ。
さて、そんな事を話しながら進んだ先、ボロボロの簡易的な建物がある場所についた。
「ここがさっきのトロールたちが住んでいた場所だな」
トロールたちの住処。
ダンジョンでは見られないものだ。……ダンジョンで出現するトロールは、所詮厄災の力によって再現された紛い物でしかないからね。
「……一箇所、明確に気になるポイントがあるが、先に他を調べよう。全員、離れすぎないように意識しつつ、それぞれ調査をしてくれ」
「了解」
……まぁ、本当に一箇所、すごく気になる場所があるよね。
そこはどうせ後で調べるだろうから、他の場所を見よう。
というわけで、気になる場所からは離れた所に来て。
「【道具探知Ⅱ】」
スキルで周辺のアイテムを探知してみるけれど……おお?
ほとんどのものはどうでもいいものだった。
トロール変異種の血とか……ちょっとあまり言葉に出したくないものとか、そういうの。
そんな諸々ばかりの中で、一つだけ超貴重なアイテムがあった。
とりあえずそれを回収。
一応、他にもなにか無いか、アイテムの傾向などでわかることがないかなど、調査・考察してみたけれど……特に特徴的だと思えるものはなかった。
しばらくすると、ヴェイセルが集合を掛けて、皆が集まる。
「全員、分かったことを報告」
「まずは俺からだな。ここで生活していたトロールは恐らく三十匹程度だろう。つまり、さっき俺達に襲いかかってきた特異個体でほぼ全てのはずだ。もしかしたら一匹二匹逃れている個体がいるかもしれないが、少なくとも別働隊のようなものは警戒しなくていい。……それと、少し不思議に思ったことがあって調べてみた所……こんな物があった」
報告したザシャが見せたものは、頭蓋骨だった。
人型の生き物の頭蓋だ。
「頭蓋骨?」
「これはな……トロールの子供の頭蓋骨だ。これが、いくつもまとまって捨てられていた」
「いくつもまとまって? 子供だけ同じところに埋葬しているということではなく?」
「違うな。他の動物やトロールの骨も乱雑に置かれている死体置き場があって、その中で十体程の子供の骨だけ同じ位置にまとまっていた感じだ。……印象としては、そのトロールの子供達は、死体置き場に連続で投げ置かれたように感じる」
「……それはつまり、トロールの子供達が連続、あるいはほぼ同時期に死亡したってことか?」
「俺はそう見ている」
トロールの子供の連続死。……このトロールの住処に住んでいたのは三十体程で、それらはさっき私達が戦ったトロール達の数と合致する。……その中にトロールの子供はいなかった。
それはつまり──
「子供だけ十体も同時に死亡、そんなことは普通ではないな。……何かがあって子供だけ死に絶えた。……あるいは、子供だけ生き残れなかった、か?」
「ああ、おそらく」
私がたどり着いた考えと同じことを、レティも考えたらしい。その考察にザシャも頷いた。
「なるほどな……その原因は解明したいな。……わからないと色々と警戒する必要が出てくる。……アウラは調べてみてどうだった?」
「一番気になるアレ以外はよくも悪くもトロールの住処という感じですね。周囲には木の実もかなり落ちていたので、トロールが木の実に見向きもしない……肉しか食べないのも変わらないでしょう。逆に言うと、特異個体だからといって、生態が大きく変わったわけではなさそうです」
「なるほど。レオンはどうだ?」
「俺は何もねぇな。わりぃ」
「いや、構わない。俺も正直特に報告できることはないからな。……レティはどうだ?」
「魔力の流れを感じ取ってみたけれど……アレ以外は特徴的なものはない。だが、アレからは凄まじい魔力を感じる。かなり濃密な魔力だ」
レティは、ヴェイセルの言う一番気になるところを指差して言った。
なるほど……まぁ、いかにもって感じだしね。
「わかった。……アルマはどうだった?」
「私はこれを見つけたよ」
「……それは……まさか!」
「うん、〈ユニコーンの角〉」
「まじかよ」
皆驚いているね。そうでしょうそうでしょう。
なにせ、〈ユニコーンの角〉は病気や毒を払う高級アイテム。かなりの貴重品で……ぶっちゃけ、今私達が受けている依頼の原因……先代公爵様の病気も、下手するとこの角があれば解決できるかもしれない。そんな強力なアイテムだ。
「ユニコーンはトロールよりかなり強いはずだが……」
「あの特異個体達なら普通に仕留められるだろうな」
そうだ。あのトロール達はかなり強かった。ユニコーンは並みのトロールなら複数体で挑んでも返り討ちになるだろうが……あの変異種達なら、倒し、捕まえることができるだろう。
「なるほど。わかった。……その角はそのままアルマが持っておいてくれ」
「了解」
「それじゃ、色々調査結果も共有したところで……一番気になるアレ、見てみるか」
ヴェイセルがそう言って向けた視線の先にあるのは……祭壇だ。
正直、みすぼらしい。手先が不器用なトロールたちが無理矢理作ったであろう祭壇だ。……不格好ではあるが、大きな石や木を積み上げていて、サイズは中々に大きい。
皆でその石や木を登って、祭壇の上を目指す。
そして、その登った先に、それはあった。
「……杯?」
「杯というよりは……水盆とでも言うべきか?」
木で作られた簡易の屋根の下、そこに大きな水盆のようなものがあった。……石を無理矢理削って作ったものだろうか。大きな石がえぐられていて、そこに……赤黒い液体が溜められている。
「アルマ」
「うん。【道具鑑定Ⅴ】……え?」
果たしてその赤黒い液体は……予想外のものだった。
「これ、〈邪竜の血液〉だ」
「何?」
皆慌て再び液体に目を向ける。
すると、ザシャが気付いて声を上げた。
「これ、元々ここまであったんだな。跡がある。それが、今の量まで減った」
ザシャが水盆の縁を指差す。そこには赤い線があった。つまり、以前はその位置まで、〈邪竜の血液〉が満ちていたのだろう。今はそれよりもだいぶ減っている。
「竜の血は劣化も蒸発しない。大地か他の生き物に吸収されるまで。……つまり」
「……あのトロール達は、竜の血を飲んだことで強くなったのですね」
「そして、子供のトロールは竜の血の持つ力に耐えきれず死亡した、か」
皆、邪竜の血に眼を向けつつ、考察を深める。
そんな中、レオンが一つの疑問を提示した。
「この血を流した邪竜はどこから来て、どこに行ったんだ? 普通邪竜なんてトロールが何体いても勝てねぇだろ? しかも、邪竜の血でトロールが強くなったってんなら、邪竜の血を手に入れる前のトロールは通常個体のはずだ。ますます勝ち目がない。……あるいは、邪竜は元から傷ついていたのか?」
「恐らくそうだろう。……ちなみに、俺が見た限り、邪竜の骨やらはなかった。恐らく邪竜は血を流しつつもトロールたちに狩られることはなく、どこかに去ったのだろう」
「邪竜が自分の血を奪った奴らを無視して去っていくとなると……よほど重傷だったか?」
疑問は尽きない。
だが、あまり無駄に時間を掛けてもいられない。
私はひとまず〈邪竜の血液〉を回収。そして、皆で今後、邪竜と遭遇する可能性も考慮し、常時警戒態勢を維持して進む事となった。




