第三十八話 トロールの特異個体
エレオノーラの所の冒険者パーティ『守護の翼』。
ペルネティラを出発する前に、その実力を見せてもらった。
オースヴェリア公爵領内やその周辺で数多の凶悪な魔物を打倒してきた彼女達は、戦闘能力に限定すれば『導の煌星』を上回る実力者達だ。
だが、エレオノーラ本人が言うように、長期遠征は考えられていないパーティ編成だった。エレオノーラ以外のメンバーは本職が領軍の精鋭部隊だし、エレオノーラは長期向けのスキル構成じゃない。
そもそも『守護の翼』はエレオノーラの活躍を人々に見せるためのパーティ。公爵家の広告塔だ。遠くに遠征したり、ダンジョンの深くに潜ったりは『守護の翼』の役割じゃない。
戦闘能力という一点においては、未だに王都最強パーティである『光輝の剣』。
正直、アイツラの印象は悪い。めちゃくちゃ悪い。けれど……それでも、戦闘能力は認めざるを得ない。私の代わりに入った付与術師も高い実力を持つらしく、短期戦なら私がいた頃より上。
けれど、長期戦能力は私がいた頃より大幅に落ちた。その結果として、彼らは王都のダンジョンを第八階層で引き返す羽目になった。
国内には後一つ、オリハルコン級冒険者パーティが存在するけれど……彼らは南端のエデルト辺境伯領で活動している。あの土地ではこの季節、厄介な魔物が繁殖期を迎え凶暴化する。そんな状況でエースを長期間拘束できない。
つまり、私達が選ばれたのは必然。
今回の依頼をこのタイミングで達成できるのは、私達だけだ。
私達にしかできない依頼。そう考えると気合も入る。
だからこそ、しっかりやり遂げなきゃね!!!
「【道具使用】【道具使用】【道具使用】!」
最初の二回で《遮光闇膜》の〈魔法のスクロール〉を味方全員に使用。続けて、〈陽光石〉を使用した。
私達に襲いかかってきた多数の特異なトロール。それらが〈陽光石〉の強烈な光によって目を潰された。潰されてくれた。効いてよかった。
「ナイスっ! 立て直すぞ!」
「おう! それにして、こいつらなんなんだ!? トロールは通常個体しかいないんじゃなかったのか?」
「そもそも、ここで出るかどうかに関わらず、こんな……鱗の生えたトロールなど見たことも聞いたこともないぞ」
私達に襲いかかっているトロールには、鱗が生えていた。爬虫類のような……もっというとドラゴンのような鱗だ。
この鱗の防御力は高く、攻撃を通すにはスキルによる攻撃が必要だ。スタミナ節約など言っていられない。
更に、その高い防御力に加えて、トロールの再生能力も当然持っている。つまり、高い防御力と回復力を備えた魔物だ。
……一体一体が、かなり倒すのが面倒な魔物。それが群れで襲いかかってきたことで、私達は予期せぬ苦戦を強いられていた。
「出し惜しみしていられる状況ではありませんね」
「アウラじゃなくてレティと俺でやる。アウラはまだ力を温存しておいてくれ。……レティ、右側の奴らを頼む。大技を切っていい」
「了解」
言われて、レティは魔力を今までより遥かに大量に練り上げ始めた。これは……発動したら一気に決まるだろうね。
敵は右前方と左前方の二つのグループに分かれて攻撃を仕掛けてきている。片側に集中すれば一気に倒せると思うけど……その間にもう一方のグループによってこっちも打撃を受けてしまうだろう。
ヴェイセルはそれを、大技で両方同時に倒す方針にしたらしい。
……大技はスタミナやマナをかなり消費するけれど……このまま戦闘が長引いたら、それ以上に消耗させられることになるっていうことだろう。歴戦の冒険者であるヴェイセルの判断を信じよう。
「アウラは大技は温存しつつ牽制。レオンは時間を稼いでくれ」
「わかりました」
「あいよ」
アウラはそこからは【貫通射撃Ⅴ】こそ使っているが、他のスキルは使わずに攻撃していく。……あのトロール達、頭撃ち抜かれても再生してくるのか。かなり理不尽だ。……いや、死んでいるのもいるっぽい? 流石に再生にも限界があるのかな?
レオンはこの後レティが攻撃する予定での右側のトロール達へと突撃。前衛を抑えにかかる。
左側はヴェイセルが対処するしね。
「アルマはアイテムを使う判断については完全に任せる。アイテムを使うという一点に置いて、俺より遥かに的確に判断できるからな」
「了解」
そりゃね、私だってアイテムに関してはプロフェッショナルだし? 一応準備したアイテムの目録は皆に見せているけれど、それでも完全に把握できているのは私だけだろうし。これについてはヴェイセルにも負けるわけにはいかない。
適切に判断して使ってみせますとも。
「【要塞盾Ⅴ】!」
このトロールの特異個体達は、攻撃能力も通常のトロールよりは高い。……高いが、圧倒的にというわけではない。 通常のトロールが順当に上位個体になったらこのぐらいの攻撃力かな、という程度だ。
そして、そのぐらいの攻撃力ならレオンは余裕で対応できる。タンクのレオンにとって、こいつらはただのトロールグラディエーターと変わらない。
もちろん、数がいるので厄介ではある。レオンは攻撃を強く弾いたり、棍棒を振り上げたタイミングで盾で殴りつけて攻撃を失敗させたり、様々な方法でうまくさばいている。
「いくぞ……【神匠遺産の呪剣☆】! 【剣嵐Ⅴ】」
今回のヴェイセルは、片方の剣にだけ、最上位スキルの効果を発動した。
最上位スキル【神匠遺産の呪剣☆】。剣の切れ味を大幅に増す上に、再生阻害の効果も持つ。トロールを仕留めるのにはぴったりだ。
その剣をヴェイセルは凄まじい速度で振るっている。斬撃を連続で放つ【剣嵐Ⅴ】。それにより、左側のトロール達をどんどん仕留めていく。……速すぎてよく見えないが、どうやら最上位スキルを掛けていない方の剣は、敵の攻撃手段である武器を持った腕や、敵の回避・移動手段である足を狙って攻撃しているらしい。そして、【神匠遺産の呪剣☆】の効果を受けた剣で確実に命を刈り取っていく。
ヴェイセルにとって重要なスキルは【二刀流の極意☆】と【剣嵐Ⅴ】だ。ヴェイセルは二刀流での【剣嵐Ⅴ】を効果的に使用するためのビルドをしている。直接攻撃能力を持つ最上位スキルを習得せずに、あくまで剣を強化する最上位スキルを覚えたのも【剣嵐Ⅴ】を活かすためだとか。
……【剣嵐Ⅴ】の上位版に最上位スキル【山断つ雷光剣☆】があるらしいけれど、これは高威力広範囲化する代わりに二刀では使用できないらしく、取らなかったそうだ。
「【道具即時取り出し☆】【道具使用】」
ヴェイセル、アウラ、レオンに〈下級スタミナポーション〉を使う。ヴェイセルは最上位スキルを使ったし、念の為だ。……アウラとレオンはおまけ。とはいえ、ここまでにスタミナはそこそこ消費しているので、アウラとレオンへの効果適用も全く無駄じゃない。
さぁ、レティもそろそろ準備ができる。
左側はヴェイセルが殲滅できそうだし、後は右側を倒して終わりだ。
そう思っていたところで、右側の内の二体が大きくレオンを迂回して、こちらに攻撃に来た。
その内一体は、音もなく忍び寄ったザシャがナイフを突き立てる。それを見た私も、即座にザシャのナイフに〈サイレントビーの猛毒〉を使った。これで時間は稼げる。
問題はもう一体。でも、それも問題ない。アウラの貫通攻撃が右膝を砕く。
これでよし。……そう思った時だった。
「ゴォォオオッ!」
右足を穿たれたトロールが、大声と共に持っていた棍棒を投擲してきた。
……レティの直撃コースだ。
まずいっ!
そう思ったときには、既に私はスキルを使っていた。
スキルの使用を宣言する暇もなく、即時取り出しで手元に出現させたアイテムを発動させつつ、棍棒とレティの間に体を滑り込ませた。
使ったのは〈守護者の誓い〉というアイテム。
これを使った状態で誰かをかばった場合、一度だけかばった攻撃を防御するアイテム。防御できる威力に上限はあるが、これぐらいなら防げるはず!
果たして、私の目論見は成功した。
飛んできた棍棒は私の眼の前で見えない壁に阻まれ、弾かれた。……『導の煌星』に入って初めて買った結構高価なアイテムだったけれど……上手くいってよかった。心臓バクバクだった。
「ありがとうアルマ。これで、仕留められる。【氷魔法限界突破Ⅴ】《祖にして王たる氷巨人》!!!」
レティの発動した氷魔法に、私は度肝を抜かれた。
信じられないほど巨大な氷の巨人が現れた。
巨体で知られるトロールを、そのまま踏み潰せそうなサイズの巨体だ。……今まで見てない魔法だと思ったけれど、サイズ的にそもそもダンジョンじゃ使えない魔法だね、これは。
私が抱いたイメージそのままに、《祖にして王たる氷巨人》がトロール達を踏み潰そうと、足を振り下ろす。
レオンは慌てて眼の前のトロールを押し返すと、こちらに戻って来た。
レオンに押し返されてふらついたトロールと、そのトロールがぶつかった後続が、《祖にして王たる氷巨人》に踏み潰される。
直後、凄まじい冷気が吹き荒れた。
一瞬にして凍った大気中の水分で、霧が巻き起こる。
……そして、その霧が晴れると、踏み潰したところから、前方に巨大な氷の柱が無数に出現していた。巻き込まれたトロールはすべてが氷漬けになっている。
続いて《祖にして王たる氷巨人》は、その攻撃から逃れたトロールたちに攻撃を加えた。
圧倒的だった。
結局、先に攻撃を開始したヴェイセルとほぼ同じタイミングで、《祖にして王たる氷巨人》による殲滅は終わった。
戦いが終わると《祖にして王たる氷巨人》は空気に溶けるように消え、後には文字通り粉砕されて雪のようになったトロール達……紅い雪だけが残っていた。
……レティはこの攻撃で凄まじい魔力を消費しちゃったみたいだし、マナポーションを使わないとね。




