第三十七話 秘境への旅路
秘境”安らぎの地”。
そこはアルドニア王国の北西にあるアルトファウヌ大森林、その先に存在する。
王都よりも北にあるペルネティラからでも、アルトファウヌ大森林まで馬車で五日。そこから更にアルトファウヌ大森林を抜けるのに六日を要する。
この感じだと、王都に帰り着くときにはギルドマスターに宣言したダンジョン突入日は過ぎちゃうけど……まぁ、あのときとは状況が違う。それに、こちらが行くって宣言しただけで、行かなければならないわけでもないから、気にしないということになった。
……むしろできるだけ長く王都から離れていたいしね。
ペルネティラからアルトファウヌ大森林までは、街道の整備された北へ行き、そこから西に進むルートを通る。毎日毎日、その日寄った宿場町の雰囲気……建物の造りや、店に並んでいる品物の傾向が変わっていくのが面白かった。
そうして、五日かけてたどり着いたアルトファウヌ大森林。私達は今日からこの森に入る。
「この森にいる魔物の傾向についておさらいしよう。まず、特に多いのがウルフ系」
「森の外縁だと基本は魔物っつーよりは、普通の動物のウルフが出るんだったな」
「ああ。これについては所詮ただのウルフ。さほど気にしなくていい」
「問題は奥に進むと遭遇することがあるというマーナガルムですね。総合的なスペックはケルベロスと同じ程度ですが……スピードが速い上に二匹同時に遭遇することがある聞きます。仮に二匹同時に出会ったら、全力で戦う必要が出てくるでしょう」
マーナガルム。巨大なウルフ系の魔物であり、走るのが非常に速い。そして、闇の魔法を操る力も持っている。厄介な魔物だ。
「他に出てくるのはトレント系だな」
「ああ。これも、奥に入るとエルダーイビルトレントが現れることがある。ザシャ、擬態を見破るのは頼んだぞ」
「任せろ」
エルダーイビルトレント。言わずと知れた木の魔物であるトレントの上位種。普通の木に擬態して不意打ちを仕掛けてくることもある。その不意打ちを受ければ、一気に不利な状況になる可能性もある。
「それから、トロールが出ると聞いた」
「そうだな。ただ、トロールについては上位種は確認されていないらしい」
「なら、そこまで気にする必要はないな」
「アルラウネ系についても出現報告があったんじゃないっけ? そっちは上位種は?」
「アルラウネの上位種はいるらしい。なんなら最深部ではクイーンアルラウネの目撃報告がある。ただ、今回は最深部を目指すわけではなく通り抜けるだけだから、クイーンアルラウネとの遭遇は恐らく考慮する必要はない。遭遇するとしてもエルダーアルラウネまでだな」
アルラウネはこれまた言わずと知れた花の魔物。花の中心から女性の体が生えているような姿をしている。エルダーアルラウネというと、戦闘能力としてはマーナガルム等よりは大分劣る。クイーンアルラウネとなると厄介だけど……そっちは出会わないらしいので問題なさそうだ。
「森なら虫系の魔物もいるか?」
「サイレントビーの巣がたまにあるらしいな」
「へぇ……」
「あの毒はこえぇな」
サイレントビー……前回の探索で活躍したあの毒と同じものを体内で生成する、かなり危険な蜂。気をつけないといけない。
「他は?」
「魔物ではないが、野生の鹿や猪、熊が出てくるらしい」
「それは……食料だな」
「まぁ、そうだな」
鹿……美味しいよね。途中で捕まえたら皆で食べたい。
確かアウラは狩りも得意と言っていたと思うし、もしかしたら食べられるかも。
「……大森林内で遭遇しうる生き物は大体こんな感じだな」
「問題なさそうだな。それでも、油断はしないようにしよう」
「ああ、そうしよう」
魔物に関する情報は概ね問題なし。他にもいろんな生き物がいるだろうけれど、目立ったものはなし。
「さて、それじゃ、行くか。基本的に進路はほぼ真北に進むだけだ。方角は適宜確認しながら進もう。巨大な木が多いから木の陰からの不意打ちなんかには注意」
そうして、私達はアルトファウヌ大森林へと踏み入った。
※※※
初日は何も問題なく進んだ。
まぁ、まだ森の外縁部。大した敵は出ない。環境も、まだただの森と変わらない。
オリハルコン級冒険者が苦戦するような場所じゃない。
今日は運良く鹿を発見でき、それをアウラが仕留めた。……仕留めてくれれば、私のスキルで収納すると、なんと血抜きなんかも一発でできてしまう。不思議だね。血を残して肉だけ収納されているのかな? あくまで肉だけがアイテム判定、みたいな。
さて、そういうわけでアウラの活躍のお陰で鹿肉が手に入ったので、今日の野営は鹿肉を食べることになった。
また、途中で落ちていた各種木の実を拾っている。……実は、一定以上の虫食いのある木の実はアイテムとして判定されなくなるので、拾った木の実で虫食いのあるものの選別などはほぼ不要。まぁ、アイテム判定される範疇で虫食いのあるものもあるけど……冒険者はそのぐらいなら気にせず食べる。
そんなわけで、鹿肉と木の実を焼いて皆でいただく。
味付け用のアイテムも色々持ち込んでいるので、中々豪華な食事だ。
皆で、鹿肉のステーキにかぶりつく。
「うめぇな……」
「ああ、美味い」
鹿肉は脂が少ない。肉としては結構あっさりしていて、ぺろりと食べられてしまう。
森の中、焚き火を囲んで皆で食べる鹿肉。
……依頼中だけれど、これって結構贅沢なのではないだろうか?
「木の実、ベリー系とナッツ系があって良かったな」
「ベリー系はソースにいい感じの甘みと酸味を加えてくれているね」
「ナッツの食感もアクセントになっていい」
うん、私の拾った木の実もいい感じに鹿肉を引き立ててくれている。
拾っておいて良かった。
「アルマ、道中何回か【道具探知Ⅱ】を使っていただろう? このあたりにはどんなアイテムがあった?」
「んー、基本は木の実や山菜系だね。あと、途中〈妖精の揺り籠〉もあった。あとは木は木材にできるけど、特に変わった木ではなさそうかな」
「なるほど」
まぁ、まだ外縁だ。現状は本当にただの森でしか無い。
何か特殊なアイテムが落ちているとすれば、マーナガルムなんかが現れ始めるほど奥まで行ってからだろう。
「何か特殊なアイテムを見つけることがあったら教えてくれ」
「了解」
「さて、鹿肉はゆっくり味わってくれていいが……それぞれ食べ終わったら、早めに休んでくれ。明日も朝から歩くからな。……今日の最初の不寝番はアウラ、頼む」
「わかりました」
皆言われた通り、鹿肉を味わって食べた。
その後は、それぞれに武器や防具の手入れ。このあたりも『導の煌星』の皆はしっかりしている。
私もアイテムを整理する。途中で〈妖精の揺り籠〉も拾ったし、ちゃんと収納しておかないと。
今回、そこそこの量のアイテムを持ち込んでいる。
結構な日数がかかるからね。
とはいえ、ダンジョンに潜るときほどじゃない。予備のアイテムはあまり持ち込んでいない。秘境でのアイテムを持ち帰るため、背嚢のスペースもかなり空けていた。
今回の依頼の品を採取するだけならさほどスペースは要らないが……それ以外にアイテムを持ち帰りたいとなった時、スペースが足りないのは嫌だったから。
なにせ、今回行くのは秘境だ。滅多に足を踏み入れる機会はない。気軽に来れる場所じゃない。別に秘境に入るのに許可がいるとかそういうわけではないけれど、単純に遠い。
というわけで、滅多にない機会だ。後悔しないためにも無駄なアイテムは減らし、持ち帰りたいアイテムをできるだけ持ち帰ることができるように準備した。
そのうえで、十分な準備もしているつもりだ。
仮に『光輝の剣』が倒したという巨大怪鳥が相手であっても、十分皆を支援できるぐらいの準備をしたつもりだ。
……こういう遠征だって、私の活躍のしどころ。皆の役に立って見せないとね!




