第三十六話 破滅
【アンガス視点】
そうだ、俺達は強いんだ!
は! 何が破滅の邪竜だ! 雑魚が!
「オラオラオラ! この程度かよ邪竜! 【闘気刃Ⅴ】!」
「グゥオオオオ!」
オーラブレードで邪竜の体を切り刻む。
ははっ! 楽しいじゃないか!
クラウスは口うるさいし鬱陶しいやつだが、あいつの付与術の性能は素晴らしいとしか言いようがない。
なにせ、俺の【闘気刃Ⅴ】と合わせれば、あらゆるものを弾くと謳われる邪竜の鱗を紙切れのように斬り裂けるんだからな!
ああ、この肉を斬る手応え! たまらないな!
「人間風情がぁ!」
あ? 何偉ぶってんだ? 飛びトカゲがっ! ……あの眼、あの魔力、魔法を使う気か? 甘ぇんだよ!
「オラァ! 【巨人拳Ⅴ】!!!」
「ゴハァッ!?」
ヒューゴーの拳が邪竜の横っ面にクリーンヒット。あまりの衝撃に魔法はキャンセルだ。ご愁傷さまだねぇ飛びトカゲくぅん。
ヒューゴーは脳筋の馬鹿だが、戦闘時の勘だけは鋭い。竜が使うような魔力量ゴリ押しのすっとろい魔法なんか発動させずに止められるんだよ。
「隙ありぃ♡ 【暗殺Ⅴ】」
頭が揺れて判断の遅れた竜の喉を、ヘレナが対竜用の大型ナイフで切り裂く。ははっこれで大勢は決したな。
「グゥゥ! クソッ! 人間風情にこの我が! この屈辱、忘れぬぞ!」
そんな無様な口上と共に、竜が飛び去ろうと動く。
馬鹿が! 逃がすわけないだろうが!
……ちゃんと役に立てよ? ティーナ?
「【風魔法限界突破Ⅴ】! 《超下降気流》!!!」
「グヌゥオオオッ!?」
僅かに飛び上がった邪竜が、ティーナの風魔法によって地面に叩きつけられた。ははっ本当に無様だなこの竜は!
……にしても、【風魔法限界突破Ⅴ】込みとはいえ、ティーナの魔法の威力は今まで見たことがないほど高かったな。やはりクラウスの補助能力は極めて優秀だ。
「そこだ。【螺旋槍Ⅴ】!」
「ギャアアッッ!」
カルロの槍が、邪竜の片目を潰した。
竜の眼は魔法の触媒だ。これでこいつは魔法の威力が激減……下手すると使えなくなった。
「よくやったカルロ。これで後はぶっ殺すだけだな」
さぁて……簡単に殺しちゃ面白くない。
楽しませてもらおうじゃないか。
「【竜殺しの呪魔剣☆】!」
「ガァッ!」
俺の最強スキルで、右前足の指を切り落としてやった。
そら、次は左前足だ!
「【竜殺しの呪魔剣☆】!」
「ガァアッ、キ、サマッッアアア!」
「【竜殺しの呪魔剣☆】!」
「ギャアァアッ!」
残っていた片目も切断。
ハハッ弱い弱い!
「おい! アンガス! 遊んでないでトドメをさせ!」
「あぁ!? 指図するんじゃねぇよ!」
クラウスのゴミめ、この俺にまた指図を。
あーくそ……いい気分が台無しだ。
「そんなに最上位スキルを連発していたらすぐにスタミナが尽きるぞ! 無駄打ちしてないでさっさとトドメを!」
「あー!? そこらの雑魚と一緒にすんじゃねぇよ! 俺はこのスキルを三十回連続使用したことだってあんだよ!」
あークソだ、本当にクソだ。
クラウスのゴミみたいな発言のせいで、剣まで重く思えてきた。
あーこれはあれだな。ストレス発散のためにも、この雑魚竜を切り刻むべきだな。
「【竜殺しの呪魔剣☆】【竜殺しの呪魔剣☆】【竜殺しの呪魔剣☆】【竜殺しの呪魔剣☆】! 【竜殺しの呪魔剣☆】! 【竜殺し……ム?」
あ? なんだ……体が重い。
なんでだ?
やばい……意識が?
「アンガス!」
竜? 口を開いてる? ブレスか?
やば……回避……死ぬ……。
ギリギリで、筋肉ダルマが俺を抱えて跳んで逃げた。
ははっ、やっぱこいつは馬鹿だが使える。
だが、その後巻き起こった爆風で、俺達は吹っ飛んだ。
そのまま、意識が暗転していく。
なぜ? 俺は、俺なら三十回連続で最上位スキルを発動できるはずだ。
それが……なぜ?
※※※
【ティーナ視点】
アンガスが目覚めたのは、あの邪竜との戦闘から三日後だった。
あの戦いでアンガスは調子に乗って過剰に最上位スキルを連打。
自分ならやれるはずだという強い思い込みで、肉体の負荷を無視して自分の体力の限界を越えて発動。そのまま自らのスキルのせいで意識不明になった。ドラゴンのブレスの余波より、そちらのほうが深刻だったらしい。
……あのときは、何も考えずにアンガスはスキルを連打していた。自分の状態を顧みる暇も無いほどに。
……普通、スキルをあんなふうに連打はしない。攻撃系スキルを発動すれば、体から一気に体力が持っていかれる。それが自身の残り体力以上の消費なら、そのまま意識を失う。冒険者に限らず戦闘を行う職業では常識だ。だから、一発一発自分の状態を考慮して撃つ。あるいは、連打するとしても自身の限界を把握して、その範囲で撃つ。
アンガスは、以前確かに三十連続で最上位スキルを撃ったことがある。あのときは、私達もまだ未熟で……強力な魔獣に殺されかけていた。それをなんとかする方法がもう最上位スキルの超連打で一気に決着をつける以外になかった。だからこその最終手段だった。
……その最終手段を成立させていたのは、アルマだ。
アンガスが最上位スキルを連打している間、絶え間なく〈中級スタミナポーション〉を使っていた。さらに、敵の反撃もあってアンガスも傷ついていたから、〈中級ライフポーション〉も大量消費していた。
アンガスの最上位スキル三十連打は、アルマのサポートのおかげだった。
けれど、アンガスはアルマを過小評価している。
アンガスにとって、アルマの価値はゼロだ。その評価は、追い出した当時以上に、強固になっている。……アンガスにとって、アルマは無価値でならなければならない。……アルマが有能だった、自分の判断は間違っていた……そんなこと、アンガスには認められない。
……だから、アンガスにとって、アルマのおかげで成立していたことはすべて、自分たちだけの力で成立させていたこととなる。彼の中ではそうなっている。
そうやって、目を背けた結果がこれだ。
あの後、邪竜のブレスの余波で、私は吹き飛ばされてしまった。
そのせいで、《超下降気流》が解除され、邪竜に飛び去る機会を与えてしまった。
……私以外も、ブレスの余波を受けていて、ソレを阻止することはできなかった。
そのまま、あの邪竜は北西の方角に飛び去っていった。飛び去っていってしまった。
今、私達『光輝の剣』は謹慎処分中だ。
討伐失敗というだけでも問題だが……確実に勝てる状況で、相手を甚振って遊んだ結果逃げられたという最悪の状況だった。
アンガスは全てに苛ついていたけど……まだまともに体を動かすことができずにいる。結果的にまだ誰にも被害は出ていなかった。
どうも、最後の最上位スキル発動時は、体力がほぼ尽きかけている状態から撃とうとしたらしい。スキル消費に対して残り体力が「ギリギリ足りない」とかならともかく、ほぼゼロの状態で最上位スキルを使おうとすれば……つまりスキル消費に対して体力が「全く足りない」状態で発動すれば、不発で意識不明どころか命を落としてもおかしくない。今回のアンガスはその、命を落としてもおかしくないスキル使用だった。……アンガスが生き残れたのは、アンガスの生命力が高かったから。それでも、しばらくはまともに体を動かせない。
……たぶん、もう少しだけアンガスの体力が少なければ、アンガスは死んでいた。……あるいは更に少なければ、逆に一回前のスキル使用時に倒れて、早めに復帰できたのだろうけれど……うん、そうじゃなくて良かったと思う。もしそうだったら間違いなくもっと早くに目を覚まして、そのまま暴れていただろうから。
今、王都の冒険者の話題は私達の討伐失敗一色だ。アンガスなんて、スキル過剰発動で自滅なんていう初心者みたいなことをやらかしたせいで、多くの冒険者から馬鹿にされている。
たぶん、私達はもう……終わりだ。
今日、それが宣告される。
「入るぞ」
私達がいる病院の待合室に、ギルマスがやってきた。……アンガスもついてきている。立って歩けるようになったんだ。……いや、クラウスが介助してるみたい。介助無しじゃ歩けないんだろうな。
……クラウスは『光輝の剣』を抜けるって言ってたし、これが最後の義理なんだろう。
「お前たちへの処分を言い渡す。……『光輝の剣』所属メンバーはアンガス以外ワンランク下、つまりミスリル級に降格。そして……アンガス……お前は冒険者資格剥奪処分とする」
「は?」
アンガスの間抜けな声が響く。
たぶん、アンガスはふざけるなと思っているだろう。だが……正直、随分甘い処分だと思う。
……私達は、多くの人々を危険に晒したというのに。
「ふざけんなよ。俺は『光輝の剣』のリーダーだぞ? なんでその俺が冒険者資格剥奪なんだよ!」
「勝てる相手に遊んだ挙げ句、スキル過剰使用で倒れて取り逃すなんていう自己管理能力が駆け出し未満の愚か者だからだ。……お前に冒険者は務まらない」
「ふざけんじゃねええええええ!」
狂乱するアンガスの声が響き渡る。
けれど、体がまだまともに動かせないアンガスは、ただそうやって子供のように怒鳴り散らして抗議することしかできなかった。




