第三十四話 破滅の足音
しばらくゆっくりするというこの期間、簡単な依頼なら個人で受けてもいいということだったので、冒険者ギルドにやってきた。
……そこで、ばったりヴェイセルと会った。
「ヴェイセルも依頼受けに来たんだ」
「ああ。気楽にオークの討伐にでも行こうかと思ったんだ」
へぇ、オークかぁ。
私だとソロは厳しいなぁ。
私はゴブリンでも狩るかなぁ。
……なんて思っていると、ヴェイセルは予想外のことを言い出した。
「なぁ、一緒に行かないか? 討伐」
「え? ……え? えっと……まぁ、別にいいけど?」
……なんか、流れでオーク討伐に行くことになっちゃった。
※※※
オークというのは一端の冒険者になるための登竜門のような敵だ。
大して鍛えていない奴は勝てない。街の喧嘩自慢ぐらいじゃ容赦なく殺される。
けれど、上位の冒険者にとっては簡単に蹴散らせる雑魚でしかない。
そんな相手だ。
正面から相手できるようになる冒険者の等級の目安は……シルバー級? ぐらい。まぁ、その程度の相手。
オリハルコン級でメインアタッカーを務めるヴェイセルにとって、オークの軍勢などいくらいたところで相手にもならない。
攻撃スキルすら必要ない。
もうね、圧巻。
手が動いたと思ったらオークの首が飛ぶ。速い速い。
依頼されていた分のオーク討伐は、午前中の間に終わってしまった。
「……流石ヴェイセル、すごいね」
「まぁ、所詮オークだからな」
「……私何もしてないけど、本当に報酬を分けてもらっていいの?」
「いいさ。正直俺が受けた依頼はついでだからな。……どちらかというと、俺がアルマのアイテム集めに同行させてもらうんだ。見学料だと思ってくれ」
ヴェイセルの言う通り、この後は私はこの森でアイテム集めをする。……そして、それをヴェイセルが見学するという話になっていた。
……見ても面白いものじゃないと思うけれど。
そんなわけで、とりあえずはオークの肉を回収。オーク肉って食べられるんだよね。なので食材アイテム判定。……人によっては人型の魔物を食べるの受け付けないってこともあるみたいだけど、私は美味しくいただける。
……オークの体は各部位が食材アイテム判定なので、実は私はオークを触れるだけで解体できたりする。生きていようと問答無用で。これが、私がオーク相手に「ソロだと厳しい」程度で済む……つまり勝ち筋があると思える理由だ。
とはいえ、非戦闘職がオークに触れられるほど近づくのはめちゃくちゃ危ない。素手で殴られても即死しかねないからね。だからこそ一撃必殺の手段があるにも関わらず「ソロだと厳しい」と思ってしまうというわけでもある。
ヴェイセルが解体した敵の肉で、特に美味しい部位ばかりを回収。
一部は売って、残りは持って帰ってアンネに調理してもらおうという事になった。
残った分は埋める。一応アンデッド化を防ぐために、簡易な祈祷をして弔いつつね。……あのダンジョンの敵は本物じゃないからこんなことしなくていいけど、普通の魔物相手だとアンデッド化対策は必須だ。
それから森の探索を開始。定期的に【道具探知Ⅱ】を使いつつ移動する。
「あった」
「この石が?」
「うん、そうだよ」
私はそう言いながら、拾った石を、別の固い石にぶつけて砕く。
するとちょうど石の外側だけが砕け、内部……僅かに光を帯びた白い石が現れた。
「おお……すごいな。……本当に元の外見では判断できないんだな」
「これの判別は普通は難しいだろうね」
それからもいくつかのアイテムを回収していく。
結構野外で拾えるアイテムは多いのだ。
薬草系とか、木の実系とか。……極々稀に幻獣の角とか落ちてたりもする。
「……アルマは、『光輝の剣』にいた頃もこうやってアイテムを集めていたんだよな?」
「うん。勝手に依頼受けたりしたら文句を言われるし、バレたりしたらその分の金をよこせとか言われるだろうから、バレないように……その上でもっと急いでね」
「それは……随分大変だったんだな」
「大変だったよー」
あの頃は……必死だったな。
自分の食事は基本的に〈栄養棒〉。……噛む力が衰えないように、たまには〈栄養棒〉をそのままかじったりもしていた。……あの頃は仲間達の食べている物が羨ましくて仕方なかった。
……それが今ではカフェで優雅な時間を過ごしたりしているのだから、わからないものだ。
※※※
報告に戻ってきた冒険者ギルド。
ヴェイセルの報告が終わって併設されている酒場を見ると……なんとレオンとザシャがいた。
「おう、ヴェイセル! こっちだ! ……ってアルマもいるのか!」
「行こう、アルマ」
「あ、うん」
言われるままに二人と同じテーブルを囲むことに。
「おう、この二人にエールと肉っ!」
「はいはーい」
酒場側のウェイトレスにレオンが注文。
「それで、どうだった、ザシャ」
「ま、わかりやすく『光輝の剣』の評判は落ちているな。……『光輝の剣』の奴らもかなりフラストレーションが溜まっている。……近い内に、何かやらかしてもおかしくない」
……ザシャは今日、『光輝の剣』について調査していたようだ。
「一応現状では、受けた討伐依頼は全部成功しているそうだな。……ただ、あちこちで結構な文句は出ている。街中でも態度が悪いし、戦うときも周囲への被害を考えない。評判は加速度的に落ちていっているな」
「ギルドが何かしら対処を考えるよりも……アイツラが暴発するのが先かもしれねぇなぁ」
レオンはそう言いながらジョッキを呷った。
ちょうどそのぐらいのタイミングで、私とヴェイセルの分のお酒とお肉も運ばれて来た。……お肉、大きいなぁ。
というか……注文してから持ってくるまで早くない? あらかじめ作ってるのかなぁ? それとも料理している人が時短系スキル持ってるとか?
無言でみんな、ジョッキをぶつける。……うお、押し返される力つよ。
みんなそのまま飲み始めたので、私も一気に喉に流し込む。……正直、安いお酒だってわかるけど……これはこれであり。
「正直『光輝の剣』の悪い噂は、ここに座っていても聞こえてくる。あちこちからな。耳を澄ませてみるとわかる」
ザシャがそう言った直後、私達は周囲の声に意識を向けてみた。
……確かに聞こえてくる。それらは、中々に辛辣な言葉だった。
曰く──
──あいつらは見る目のない馬鹿達。
──もう終わったやつらだ。いずれオリハルコン級という等級も剥奪されるだろう。
──ダンジョンに潜らない根性なし。
──アイテムのお陰で強かっただけ。
──討伐で点数稼ぎしてオリハルコン級にしがみつく哀れなやつら。
……ここまで言われているのを聞くと、正直逆に気分が悪くなってくる。
「『光輝の剣』に同情するわけじゃないが、好き勝手言っている奴らの多いことだな」
「だな。だが、そんなもんだ」
なんとなくやるせない気持ちでお酒を飲む。……さっきよりちょっと不味くなった。
「アンガスがこの空気に耐えられるとは思えない。だから、周りに認められようと何かをやらかすだろう」
「で、そのやらかしが大きなトラブルに繋がるってか?」
「……まぁ十分にありえるんじゃないかな?」
「それで一番打撃を受けるのは冒険者ギルドと一般冒険者ってオチになるだろうな。下手するとギルマスは交代だ」
「……同情はするがな。力ばかりある馬鹿というのはたちが悪い」
暴走して何かをやらかしたらどうなるだろう? あいつらは力だけはすごく強い。
「私達が、あいつらを止める?」
「そこまでする義理はないさ。最悪の場合、近衛が出張るだろう。国中から選ばれたたった二十人の精鋭達。彼らの戦闘能力は最低でもオリハルコン級はある。……戦闘能力以外も含めた総合力でなら負けるつもりはないけれどな」
……なるほど。まぁ確かに、あまりに酷い大馬鹿をすれば近衛が出てくるか。
「どちらかと言うと、巻き込まれないようにするほうが大事だ。いっそしばらく王都から離れるのも良いんじゃないかと思っている」
「あー……そうだな。どうせしばらくはダンジョンにも潜らんし」
「アンガス達が何かをやらかせば、王都で冒険者全体の評価が下がり、俺達の活動に影響がでることもありうる」
「……そこで、一つ考えがある。他のメンバーが居る場で改めて話すつもりだが……例の公爵令嬢ちゃんから一つ長期依頼を受けてみないかっていう打診を受けていたんだ」
ヴェイセルはエレオノーラから使命のことだけじゃなくてそんな話もされてたんだ。
「ま、公爵令嬢ちゃんも似たような状況予測はしていたみたいでな。俺達にとっても、依頼する側の公爵令嬢ちゃんにとっても利のある話だ」
「……どんな内容なの?」
改めて説明するつもりとは言われても、気になるものは気になる。簡単でいいから教えてほしかった。
「依頼内容は採集。秘境”安らぎの地”に赴いて、病床に伏せる先代オースヴェリア公爵のための薬の材料を採取することだ」




