第三十三話 無駄遣いできる余裕
それからしばらく、お互いを知るための会話をした。
どんな物が好きか。どんな事を面白いと思うか。今まで戦った強敵にはどんな物がいたか。
いろんなことを話しているうちに時間は経って……エレオノーラは名残惜しそうに立ち上がった。
「アルマ、貴女とお話しできて良かったわ」
「こちらこそ」
「……私には、いつか使命を果たさなければならない日がやってくる。そのとき、貴女も……貴女達も共に戦ってくれたら嬉しいわ」
「うん、きっと力になるから」
「よかった……それじゃ、この後は少しパーティリーダーのヴェイセルさんと話して帰るわ」
エレオノーラはそう言って部屋を後にし、ヴェイセルとしばらく二人で話したあと、帰っていった。
※※※
「なんか面白い人だったみたいだね、あのお嬢様」
「まぁ確かに面白かったよ。なんか友達になった」
「わぁっ! 公爵令嬢とお友達! いいコネクションだね」
第十二階層到達によって結構な収入があった。色々な素材を持って帰ってきたからね。
そして、第十三階層へ進むのはしばらく控えて欲しいと言われたので……せっかくだから少しの間平凡な日常を堪能しようということになった。
とはいえ、体がなまるといけないので、みんな定期的に地上での依頼をこなしたりはするつもりらしい。私も〈妖精の揺り籠〉とかを探しに行くついでにゴブリン退治とかを受けようかなと思う。
「確かに公爵令嬢とのコネクションというものはあって損はない。だが、使命とやらは気になる話。Sランク占い師といえば……王宮が出している至上命題もSランク占い師の言葉によるものだろう?」
「確かそうですね。もしかすると、彼女の言う使命は至上命題と関係あるのかもしれませんね」
話しながら、四人で街を歩く。
日常を堪能するということで、今日のところはパーティの女性メンバーで遊ぼうという話になった。
なので私、アウラ、レティ、アンネで並んで歩いている。このメンバーで遊ぶのももう数度目でちょっと慣れてきた。第十二階層への探索に行く前にも何度か一緒に遊んだのだ。
まぁ、一緒に遊んだと言ってもやったことは主にショッピングと食事。別に観劇みたいなお貴族様のようなことはしていない。
……とはいえ、私達は結構なお金を持っているので、カフェとかいう場所に行ってみたりはしている。
紅茶の他にコーヒーとかいう苦い飲み物もあった。でも香りはいいし、落ち着く味。苦いのに。
しかも前回、第十二階層に潜る直前に行ったカフェには、絶品の甘いお菓子まであった。
なので、今日行くカフェも楽しみにしていたりする。
最近王都ではこのカフェというのが結構な流行り。
主にお金のある商人や新興貴族の人がやってくるらしい。……歴史ある貴族はあまり好まないそうだ。まぁ、「お金持ちの庶民向け」にお茶と……落ち着いて会話できる場所を提供するお店だ。
結構商人間の情報交換とか、未来を憂う人々の政治討論の場になっていたりするとか。
……これがちょっと格の低いカフェだと、見ず知らずの人に話しかけられて意見を求められたりすることもあるそうだけど……私達はそこそこ格の高いカフェに入るので問題ない。店員さんがうまく客の雰囲気から席の配置に気を利かせてくれる。……高い店ならあんまり混みすぎないから、そういう席の操作もできるしね。
こういうお店の情報なんかは、買い出しのときにアンネがリサーチしているようだ。結構お友達がいるらしい。アンネは『導の煌星』のための買い出しということで、結構な大金を使うお客であり、大きな商会の人にも顔を覚えられているそうだ。で、そういった商会の人達が利用するカフェを教えてもらったりしているみたい。
そんなこんなで、アンネが信頼して取引する大店さんの紹介でやってきたカフェ。
落ち着いた雰囲気。派手じゃないけれど……高級感がある。いいね、ゆっくりできそう。
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞお嬢様方」
お嬢様だって。丁寧な物腰の女性店員さんに、窓際の席に案内された。
「いいお店ね」
レティが笑顔だ。可愛い。
レティはこういう落ち着いた雰囲気好きだよね。
うちのメンバーは男性も女性もそもそも派手好きがあまりいない。……レオンは派手なの結構好きだけど、地味なものが嫌いというわけでもないし、割と何でも好きだ。何なら、道具が派手なばかりで性能が低いと「ふざけてるのか?」って怒りそうになるらしい。
で、レティは特に派手なのは避けるタイプだ。高級品が嫌いなのではなく、派手なのが苦手。なんか落ち着かないらしい。……ザシャと同じぐらい派手なものを避ける。ザシャは密偵はジョブの役割的に地味な方が良いわけだけど、そんな彼と同じぐらい派手なものを避ける
「私もこういう雰囲気は好きですね」
アウラは派手なのが嫌いという程ではない。彩度が高い色はあまり使わないが、いろんな色が入ってたりするものは好きだったりする。
それはそれとして、派手か地味かより落ち着けるか否かを重視しているイメージだ。
「おー……これはいいところを紹介してもらったかも!」
アンネは結構派手なのも好き。でもレオンと同じで割と何でも好きなタイプっていうのが近いかも知れない。
「じゃ、注文しよっか」
私の好みは……落ち着いてる雰囲気がいいから、アウラが近いかな。
まぁ、そもそも派手だと落ち着かないことが多いから、大抵地味寄りなものを好きになりがちだけど。
四人で席について、メニューを確認。
へー、軽食も頼めるんだ。……でも、ご飯は食べてきたな。
とりあえずみんなで注文。
アンネ……コーヒーとパンケーキ。
アウラ……紅茶とフルーツケーキ。
レティ……紅茶と桃のジェラート。
私……コーヒーとチョコレートケーキ。
結構見たこともないお菓子が色々あったから、店員さんに説明を聞いて注文。
運ばれてくるのをワクワクしながら待つ。
「……早く第十三階層に挑みたいですね」
「仕方ない。今回はギルドの顔を立てる。その代わり、貸した借りはいずれ取り立てる」
「こちらが一方的に不利益を被っている以上、相応の便宜をはかってもらわないとね!」
うーん……『光輝の剣』でずっと受け身だった私と違って、みんな強かだなぁ。
私にもこういう強かさが必要だったのかもしれない。
「でもまぁ、この機会にじっくり日常を楽しみましょう」
「ん、それが一番。私も桃のジェラート楽しみ。冷たいお菓子……私がいればうちでも作れるかな?」
「あ、レティが協力してくれるなら私が試してみようか?」
「ほんと? 流石アンネ。……味から材料予想できる? 一口分けてあげる」
「わ、やった。頑張って材料分析するよ。……あ、もちろん私のパンケーキもレティに分けてあげるね!」
え、カフェで出てくるお菓子とかって作れるものなの?
……いや、ハウスキーパーにも料理系スキルがあるって言ってたか。魔法料理は作れないらしいけど。
……まぁ、アレってそもそもスキル以上に魔法の才能が重要らしいしなぁ。料理人が魔法料理用のスキルを覚えても、魔法の才能が無いとまともに作れないとか。逆に魔法の才能さえあればスキル無しでも頑張れば作れるらしい。
……魔法料理はともかく、お菓子……アンネが作れるようになってくれると嬉しいなぁ。
うちの収入なら高い材料も買えるだろうし。……うわ、楽しみになってきた。
そんな事を話していると、店員さんがお皿とカップを運んできた。
音も立てずに、それぞれの注文を並べてくれる。
「どうぞ、ごゆっくりお楽しみください」
優雅に一礼して去っていく店員さん。
うーん、いい香り。
早速いただこう。
「それじゃ、いただきましょうか」
「うん、食べよう」
「おいしそう!」
「見た目も綺麗だね」
そんな事を言いつつ、私達はお菓子を口に運んだ。
それぞれ別のお菓子ではあるけれど、感想は同じだった。
「「「「おいしい~」」」」
友達と一緒に甘いものを食べ、紅茶やコーヒーの香りと味を楽しむ。
贅沢な時間だ。
こんな日が来るなんて思っても見なかった。
こういった時間を得られたことに……こんな時間を楽しめる余裕があることに、感謝したい。
ふふ、ゆっくり味わって、次回の冒険のための英気を養おう。




