第三十二話 貧乏型と富豪型
「んースキル構成かー……手の内を晒すっていうのはなぁ」
「私が貴女のスキル構成を知っても、それで貴女に不利益になるような事をするようなことはないとオースヴェリア家の名に賭けて約束するわ!」
……まぁ、貴族の子女が家名に賭けてというなら、信用していいか。
「わかった。……それでも切り札の情報は話せないけどいい?」
「もちろんよ! 大体どんな感じなのかを教えてくれるといいわ」
んー……それなら説明するか。
相手もSランクアイテム士なら大体推測はできるだろうし。
とりあえず、【道具認識拡張☆】の情報は秘匿しておこう。他は話してもいいかな。
「私のスキル構成で特徴的なのは【収納術Ⅴ】【運搬術Ⅴ】【道具効果上昇Ⅴ】【道具効果減衰緩和Ⅴ】【道具即時取り出し☆】辺りかな」
「……なるほど、安価なアイテムを大量に購入し、それを連続使用可能にすることでコストを抑えるような構成なのね」
「そうそう。高いアイテム一つ使うより、安いアイテム複数で同等の効果にしたほうが基本的には安いからね。……それをやろうとしたときの問題点をスキルで潰しているの。大量のアイテムを持ち運ぶための【収納術Ⅴ】【運搬術Ⅴ】、連続使用のためにすぐにアイテムを取り出せる【道具即時取り出し☆】、効果量を補う【道具効果上昇Ⅴ】、連続使用時の効果減衰を抑える【道具効果減衰緩和Ⅴ】って感じだね」
「よく分かったわ。……ただ、貴女は【範囲道具使用】をⅡで止めていると聞いたわ。それに関しては、貴女の方針だともっと上げたほうが良いのではないの? 流石にⅤは要らないかも知れないけれど、Ⅲアレば五人対象にできるし、Ⅳあれば十人に掛けられるのよ?」
「んー……安価なアイテムしか買わない場合って、実はパーティ全員に同じ効果を使うことって案外少ないんだ。無いわけじゃないけど、そんなに頻繁じゃない。それに、【範囲道具使用】をⅢやⅣに上げると、一緒に【道具使用対象選択】も上げないといけないからね」
「んー……【範囲道具使用】と【道具使用対象選択】を上げてもまだスキルの枠に余裕がありそうに思えるのだけれど……その辺りは、私にも秘密な切り札なんかに割いているってことね」
「……まぁ、うん。そんな感じ」
「なるほど、参考になったわ! お礼に私のスキル構成も教えて上げる!」
!? いや、確かに興味はあるけどね。私以外のSランクアイテム士がどんなスキル構成なのかって。
とりあえず今までの話からして、かなり魔道具に振っているはず。そのうえで、私が追放されたときのアンガスの話から、【範囲道具使用】と【道具使用対象選択】がたぶん両方Ⅴだ。
「私は通常のアイテムについては【遠隔道具使用】【範囲道具使用】【道具使用対象選択】がすべてⅤ、【道具効果上昇】はⅢで止めているわ! 高価なアイテムを少量使う方針だから、効果上昇Ⅲでも過剰気味なのよね」
「なるほど……そのかわり、よりたくさんの人に配れるようにしていると」
〈上級ライフポーション〉なんて、効果上昇Ⅱでも致命傷の人が完治するレベルだと思う。そりゃⅢでも過剰気味でしょうよ。
それに、パーティでの活動が主な私と違って、公爵令嬢という立場を考えると……例えば傷ついた騎士団に一気にアイテムを使いたいという場面もあるかも知れない。仮にオースヴェリア公爵領内で疫病なんかが流行れば、病院に集まった人々に一気に治療薬を使うとかもできるかも。……それなら、【範囲道具使用Ⅴ】は大変有用だ。
「残りは全部魔道具に割いているわ! 【魔道具励起】はもちろんⅤ! 【魔道具効果上昇】も【魔道具再使用時間短縮】も当然Ⅴ! 他にも魔道具系を極めるつもりで取ったわ!」
魔道具特化。うーん、金持ちにしか許されない判断。
いくら繰り返し使えるっていっても……そもそも必要となる元手が高すぎる。
「アタッカーとして戦う事もあるって言ってたけど、どんな魔道具があるの?」
「ふふふ……良くぞ聞いてくれたわ!」
あ、やば……長くなりそう。
「例えばこれ!」
そう言ってエレオノーラは袖口から扇を取り出した。
「これは〈風刃の繰り手〉という名前の扇よ! 【魔道具励起Ⅲ】以上で使用可能。元来ある程度の風魔法を習得していないと使用不可だけど【魔道具運用条件緩和Ⅲ】があればその条件も無視して使用可能! 【魔道具励起】すると中級魔法《烈風刃》を即座に発生させることができるわ! 本来一日一回の使用が限界だけど……【魔道具再使用時間短縮Ⅴ】ならなんと一日六回まで使用可能! 非常に使い勝手のいい魔道具よ」
「え、すご……」
中級魔法を一日六回までほぼ詠唱も魔力も消費無しで撃てるってこと? 破格過ぎない?
「……ちなみにそれのお値段は?」
「え? ……覚えていないわね。たぶん金貨五百枚は程度ではないかしら?」
……たっか。
いややっぱおかしいわ。
「……それと同じぐらいの魔道具いくつぐらい持っているの?」
「えっと……【魔道具励起Ⅲ】で使えるものは三十個ぐらいかしら? 【魔道具励起Ⅱ】以下のものは、数え切れないわね。【魔道具励起Ⅱ】以下でよく使うものは片手で数える程度だけれど、コレクションがたくさんあるし。……【魔道具励起Ⅳ】で使用可能になるものは十個ぐらい。【魔道具励起Ⅴ】が必要なものは四つね」
「……ちなみに、【魔道具励起Ⅴ】が必要なもののお値段は?」
「【魔道具励起Ⅴ】が必要な魔道具は値がつけられないわね。価値が高すぎるもの。特に、その内一つは私の切り札なんだけれど……オースヴェリア家の初代当主様がとある神様より直々に授かったという品で……たぶんこの世界で最も高価なものの一つでしょうね」
「……」
絶句。
いや、うん……そりゃ魔道具型のビルドにするでしょうよ。
おそらく【魔道具励起Ⅲ】で使用可能な魔道具のなかでは並み程度の性能と思われる〈風刃の繰り手〉で金貨五百枚相当。【魔道具励起Ⅳ】が必要な品は恐らくそれより更に高額。そして【魔道具励起Ⅴ】でようやく使用可能になるもの……つまり最上位の魔道具に至っては、今説明された通り値がつけられない品。
……そんなもの、今まで私がちゃんと報酬の分配を得られていたとしても、全く手が届かないと思う。頑張って他を節約しても……【魔道具励起Ⅲ】で使用可能になる品が三つぐらい?
あ、話していてエレオノーラも分かってきたみたい。普通、Sランクアイテム士でも魔道具があればアタッカーもできるなんて発想にはならないって。そんなに魔道具集められないって。
ちょっと気まずそうにしている。
「あー……ちなみに私の使っている魔道具は、別に私が全部買い集めたわけじゃないわよ? というか、ほとんど大半がうちの家が何世代にも渡って集めてきたものなの。ご先祖様にSランク占い師が居たらしくってね? いずれ必要になるから集めろって遺言を残したそうよ」
「あーなるほどね。それで生まれたときから身近に魔道具があったから、魔道具はあって当然みたいなイメージがついてたんだ」
「……そうね。よく考えると私の発想はちょっと普通じゃなかったみたい。ちょっと考えが足りなかったわ。……私も『光輝の剣』のことを言えたものじゃないわね」
……まぁ、どう考えてもそう簡単に集められるはず無いよね、合計金額的に。
「あはは、いいよ別に。それはそれとして……そんな公爵家にエレオノーラが……Sランクのアイテム師が生まれた。それはつまり、その魔道具が必要になるときっていうのがもうすぐかも知れないってこと?」
「ええ、その通りなの。……それでね、いずれ何か私が重大な事件を解決しないといけなくなったときには貴女にも……貴女達『導の煌星』にも手伝ってもらいたいのよ!」
「あーなるほど……それが今回来た要件なんだ。でもそれ、ヴェイセルに言わないとだよ?」
「あら、これも確かに要件の一つだけれど、それより同じSランクアイテム士に会いたかったという理由の方が強いわ。私、貴女と本気で友達になりたかったんだもの。……これからもよろしくね? 至上命題達成の立役者さんっ♪」
「……あはは。お手柔らかにね」
うーん……なるほど、何かの使命を帯びたお嬢様かぁ……私みたいな一般人が友達になっていいのかなぁ?
……まぁいいか、愉快な人みたいだし。貴族の人とのコネクションがあるっていうのもありがたいし。仲良くさせてもらおう。




