第三十話 お嬢様遭遇
「すまんが、第十三階層への探索に行くのはしばらく待ってくれんか?」
「……それは、『光輝の剣』とのトラブルを避けるためにか?」
「そうだ」
私達は再びギルドマスターと話していた。
「何度でも言うが、俺達に配慮を迫ることではないだろう?」
「だが、見えている地獄に突き進む必要もないと思わないか?」
まぁ、地獄というのはその通りかも知れない。
恐らく、アンガスは現状でもかなりフラストレーションが溜まっていることだろう。
第十一階層へ到達した探索のあと、しばらくして第十二階層を目指す探索に赴き、私達は見事第十二階層に到達した。
……が、その結果として、アンガスの素行が今まで以上に悪くなったらしい。常に不機嫌そうにしていて、何かあるとすぐに人や物にあたるという。
皆怯えているらしい。
その状態で更に私達が第十三階層に到達したとなれば何をしでかすか分かったものではない。
「正直、今の時点でも次に何をやらかすか不安で仕方がないんだ」
「それについては確かにな。だが、そのためにこちらが不利益を被らないといけないのは納得がいかない。アイツラに相応の罰則や制限を与えるべきだ」
「それをやったらそれこそ爆発する。アンガスは間違いなく何かをやらかすぞ」
「それをどうにかするのがギルドの役目じゃないのか?」
うちのパーティメンバーはアンガスのことが嫌いだ。
なんだか私の境遇を聞く度に、皆のアンガスへのヘイトがすごいことになっていったから。
とはいえ、アンガスが暴走すれば、それによって迷惑を被るのは他の冒険者たち……いや、下手すると王都の一般市民たちだ。
そんな無関係ない人に迷惑を掛けてしまう結果を考えると、ここで押し切るのはあまり良くない。
なので、今話しているヴェイセルのこれは、不服であることを示すポーズだ。
既に私達はこの件について一度話し合っていて、今回は最終的にギルド側の要求を飲むつもりでいる。その代わり、最大限恩を売ることにしているわけだ。
ギルドマスターとヴェイセルのやり取りは続く。
喧々諤々の言い合いの後、本当に仕方なくという様子で、ヴェイセルが折れた。
「……はぁ、仕方ない。ギルマス、あんたの顔に免じて、今回だけは言う通りにしよう。……ただし、待つのは二十日だ。二十日間俺達はダンジョン探索は行わない。そして、二十日後には第十三階層を目指す探索に出発する。それでいいな?」
「……分かった。すまんな。その間に可能な限り対応を考える」
そう言って、私達はギルマスとのやり取りを終えた。……まぁずっと、話してたのはヴェイセルだったけれど。
ギルドマスターの部屋を出て、パーティハウスに帰る。
その帰路で、ため息混じりに皆は話した。
「正直、ギルマスにも同情はする」
「ですね」
「アンガス達が完全に無能なら、ここまで悩むことは無いのだけれどね」
「戦闘能力だけはあるバカどもだからな」
レティとザシャの言う通り、アンガス達は完全な無能ではないのが問題だ。戦闘能力が無駄に高い。
ギルドマスターも元オリハルコン級冒険者だが、現役を退いて長い。アンガス達を力で抑え込むのは困難だ。
そんな、抑え込むのが難しい連中が、いつ暴れ出すかもわからないというのは、ギルドマスターにとっても大変なストレスだろう。
「でも、二十日で対応方法見つけるなんて無理じゃないかな?」
「無理だろうな。だが、それで俺達がいつまでも足止めを食らうのも納得できる話じゃない」
私の問いに応えるヴェイセルの声も気だるげだ。
まぁ、確かにそうなんだよね。『光輝の剣』をどうするかが決まるまで待っていたら、いつまで経っても私達は第十二階層へ向けて踏み出す事ができない。
「いっそ俺達が潰すか?」
「それこそ大問題ですよ」
「だが、いつまで経っても解決しない問題を放って置くより良くねぇか?」
レオンの自棄っぱちに近い案は……だが確かに、唯一の解決方法の可能性がある。
でもさ……確実にこちらが犯罪者となってしまう案だから当然気乗りはしないよ。
ほんと、なんとかならないかなぁ?
そう思っているうちに、パーティハウスに帰り着いた。
「ただいま」
ヴェイセルがそう言いながら中に入ると、奥からアンネが出迎えに来てくれた。
「おかえり皆。……お客さん来てるよ。応接室で待ってらっしゃるから。……アルマに対する要件だけれど、一度他のメンバーとも会ってみたいって」
「? そうか、わかった」
「あ、先に着替えてきて。できるだけちゃんとした格好で」
「ん? 来てるのって誰なんだ?」
ヴェイセルの疑問。私も答えが知りたい。私に会いに来る人なんているかな?
そして、アンネからの回答は全く予想もしていなかったものだった。
「オースヴェリア公爵家のご令嬢、エレオノーラ・オースヴェリア様だよ」
※※※
「はじめまして皆さん。私がエレオノーラ・オースヴェリアですわ。以後お見知りおきを」
「はじめまして、『導の煌星』のリーダーをしているヴェイセルと申します」
「『導の煌星』後衛のアウラティアです」
「前衛の防御役をやっているレオンだ」
「斥候担当のザシャだ」
「魔法使いのレティシア」
「物資準備や運搬を担当しているアルマです」
「貴女がアルマなのね!?」
それぞれ名乗ると、私の名前を聞いた直後に、エレオノーラ様は飛びついてきた。
「貴女、私と同じSランクアイテム士なのでしょう? 色々話してみたいと思っていたの! どんなスキル構成に……っと、失礼。アルマさん、後で二人でお話しましょう。……『導の煌星』の皆様、自己紹介いただきありがとうございますわ。私、皆さんとは仲良くしたいと思っていますの。ですので……こちら、お近づきの印ですわ」
そう言ってエレオノーラ様は、何かの箱を取り出した。
……ヴェイセルがアンネを見る。それに対して、アンネは頷いた。
ヴェイセルはアンネに頷き返し、箱を受け取る。
たぶん、アンネのスキルにあの箱が危険かどうかを判別するものがあるのだろう。
「お気遣い痛み入ります」
「ふふ……大事に使いなさい? それにしても、貴方達は冷静で、そして物腰が柔らかいわね。乱暴者の多い冒険者の中で、貴方達のような人は浮いてしまうのではないかしら?」
「オリハルコン級が粗暴なままであれば、そちらのほうが問題では?」
まぁ、実際問題になってるよね、どこかの誰かさん。
「あら、たしかにそれはそうね? ふふ、等級相応の自負があるようで、良いことね」
言いながら、エレオノーラ様は紅茶を口にした。
そして、目を見開く。
ふふふ……アンネの淹れたお茶は美味しいからね。驚くのも無理はない。
「今回私は皆さんへのご挨拶と……アルマさんとお話をしてみたくてこちらに寄らせていただきましたの」
「そうなのですか? ……アルマ、この後時間はどうだ?」
「えっと……空いてます」
「それは良かった! ふふふ! 一緒におしゃべりしましょ!」
またエレオノーラ様、一気に距離を詰めてきた。……物理的にも精神的にも。
……というか、今の動きすごかったな。ほんとは戦闘系ジョブだったりしない?
※※※
そうして、いつの間にか私とエレオノーラ様の二人っきりに。
「それで、アルマはどんなスキル構成にしているの?」
いつの間にか呼び捨てで呼ばれているし。
「えっと、簡単に言うと貧乏人用のスキル構成ですね」
「貧乏人用? あまり想像つかないわ」
「んー、エレオノーラ様って──」
「エレオノーラ」
「……はい?」
「私の事はエレオノーラって呼んで? 様は要らないわ」
「え、でもそんな恐れ多いと言いますか……」
「貴女と私はもう友達でしょう? だから呼び捨てにするべきよ」
いつの間にか私はエレオノーラと友達になっていたらしい。
「えっとそれじゃ……エレオノーラ」
「ええ、それでよろしいわ。それじゃ、今度こそ貴女のスキル構成について教えて?」
そうして、私とエレオノーラはなし崩し的に友達になった。




