第三話 自己紹介
「さて、そういうわけでこれからダンジョンに入る。その前に、改めて自己紹介をしよう。まずは俺、リーダーを務めているヴェイセルだ。Sランクの剣士。ビルドの特徴としては二刀流型ってことだな。一撃の重さより、連撃に主眼を置いている」
「アウラティアです。見ての通りエルフのSランク弓使い。一応、エルフの嗜みとして精霊術は覚えていますが、当然ながら精霊術師ジョブ用のスキルはありません。弓使いとしての特徴ですが、貫通力に特化しています」
「俺が手数で攻撃するタイプだから、アウラティアには火力を上げるスキルを取ってもらったんだよ」
「私自身、速射型のような忙しないのは好みではなかったので、この構成は気に入っていますよ」
ヴェイセルさんとアウラティアさんが笑い合っている。
……スキル構成を味方に合わせて相談したりしていたのか。『光輝の剣』ではそんなこと全然してなかったなぁ。
「よろしくお願いします。ヴェイセルさん、アウラティアさん」
「さんは付けはしなくていい、敬語も不要だ。今後仲間としてやっていくんだから、堅苦しいのはなしにしよう。なぁ、みんな」
ヴェイセルさんの言葉に、皆が頷いた。
「私のように敬語を使うのが性分ということならわかりますが、『光輝の剣』のメンバーとの会話では、特に敬語は使っていなかったようですしね。……あ、私の名前は長いですから、アウラでも構いませんよ」
「あはは……そういうことでしたら……ううん、そういうことなら、もうちょっと崩して話そうかな。よろしく、ヴェイセル、アウラ」
お言葉に甘えることにした。早く皆に馴染めるように頑張ろう。
「次は俺だな。守り手のレオンだ。俺だけこのパーティでAランクジョブだ。とはいえ、防御力には自信がある。お前に攻撃が行かないよう、しっかり護ってやるぜ」
Aランクでオリハルコン級……それだけ経験を積んでいる熟練の守り手なのだろう。尊敬する。
短く切りそろえ刈り上げた黒髪、がっしりとした体つき、体のあちこちにある傷跡……もう見た目からして歴戦感満載。
「ザシャ。種族は影人。Sランクの密偵だ。数少ない密偵の戦闘系スキルは取得済み。あとは罠感知と広範囲索敵に振っている。戦闘では主に遊撃担当」
密偵は一応非戦闘系に分類されるジョブだ。主に情報収集に特化している。ただ、完全な非戦闘というわけでもなく、一部戦闘スキルも存在するらしい。冒険者をやっているなら、そういった戦闘スキルを取得するタイプなのは納得だ。
容姿についてはフードでよくわからない。ただ、浅黒い肌に銀色の鋭い目が印象的。
「レティシアだ。種族はフィルギャ。Sランクの氷魔法使い。氷以外の魔法も使えるけれど、スキルの効果が適用されるのは当然、氷魔法だけ。凍結による足止めを重要視したビルドをしているよ」
頭頂部から獣耳が生える獣人と違い、側頭部……人間の耳が生えている位置から獣の耳が生えた種族フィルギャ。戦士系のジョブが生まれやすいらしいけど、レティシアは魔法使い。まぁ、魔法使いも少ないわけじゃないらしい。だから、フィルギャの中でも別に珍しいというほどではないとか。魔法使いの場合は氷魔法使いが一番多いらしいし。
……まぁ、氷魔法使いが多いとはいっても、そもそもフィルギャという種族自体が希少種なので、氷魔法使いのフィルギャの絶対数はかなり少ないだろうけど。
フィルギャは別に背が低い種族というわけじゃないらしいけど、レティシアは伸びなかったらしい。見た目は小さい女の子っていう感じなのに、これで成人しているんだ。……かわいい。
銀色の髪を三つ編みにしている。また、服はフィルギャの魔法使いが着る伝統的な民族衣装とのこと。袖口や裾の広い神秘的な衣装だ。レティシアの背丈程もある杖もまた、同様にフィルギャの魔法使いの伝統的なものらしい。
さて、最後は私の番だ。
「今回パーティに入れてもらったアルマです。よろしくお願いします。……えっと、私のビルドは……貧乏型? って言う感じかな。高級品を少数使うんじゃなくて、安価なアイテムを沢山使う感じだよ」
「なるほど。まぁ正直、ダンジョン探索なんかだと、高価なアイテム少数より安価なアイテム多数のほうが助かる。よろしく頼むよ、アルマ」
ヴェイセルに言われたことに頷く。他の皆も口々に「よろしく」と言ってくれて、嬉しくなった。ちゃんと皆の役に立てるように頑張らないと。
※※※
王都地下には封印の扉があり、その奥にダンジョンがある。
ダンジョンの最深部は十五階層であり、その第十五階層には厄災が封印されているという。
その厄災はかつて稀代のペテン師だったらしい。神殿の巫女を騙し、精霊を騙し、神を騙して、『神に直接裁かれない契約』と『不死の肉体』、『神にすら負けない力』を手にしたらしい。
しかし、そのペテン師は一つミスを犯した。『神にすら負けない力』は神ならざる肉体には強すぎたのだ。
普通なら死ぬところを、『不死の肉体』のため死ねず、最終的にはドロドロとした粘液の塊のような姿になったらしい。どこか人型にも見える、粘液の巨人だ。
その粘液の巨人が、当時の王都の人々を襲い、多くの死者が出たという。
ペテン師の得た不死は、不死の中でも最上位のものだったらしく、その不死を無効化して命を奪うには死の神の力しかない。だが、死の神も契約により直接神罰を下すことは出来ない。
結局、当時の神殿は、ペテン師に騙された巫女を生贄として、神々に助力を求めたそうだ。そうして、神々より封印の聖剣が与えられたという。……『神に直接裁かれない契約』は、神の力の宿った武器や道具を人間が使用することについては、契約の対象外だったのだ。
そうして、厄災は王都地下に封印された。ダンジョンは厄災の封印の補助をする十五重の結界であり、ダンジョンに溢れる魔物は封印から漏れ出る厄災の力によって生まれた存在らしい。
王城にはその厄災を封印するのに使われた聖剣があるらしい。
『光輝の剣』は、いずれアンガスが聖剣に認められ、聖剣の勇者になることを目指してつけられたパーティ名だったりする。
というわけで、現在そんな王都地下ダンジョンの第一階層。
このダンジョンは封印のために作られたものであり、洞窟型ではなく石造の迷宮型だ。
最も浅い第一階層は、当然ダンジョン内で封印から最も遠い。ここまで漏れ出てきている災厄の力も少なく、もちろん現れる魔物も弱い。ダンジョン自体の腐食も少ない。
ダンジョンの魔物は、ダンジョン外の魔物と同じ姿のものが多い。それは、厄災となったペテン師の中の魔物のイメージによって形作られているから、というのが有力な説らしい。そして奥に進むほど、厄災の性質に近い魔物……粘液状の魔物や、ある程度の不死性を持つ魔物などが増える。
第一階層に現れる主な魔物はゴブリンだ。
雑魚だ。
私でも容易く倒せるぐらいの。
「アルマ!?」
皆がゴブリンを倒す中、同様に飛び出した私に対して、焦ったようなヴェイセルの声が飛んだ。
何を焦っているんだろう?
私には、戦闘系ジョブの人と違い、スキルによる身体能力への恩恵はない。
それでも高々ゴブリンぐらい、瞬殺できて当然という程度には、冒険を経験している。
ソロ活動中はもしものときに助けてくれる人がいないから、戦闘はできるだけ避けていた。けれど、仲間がいる状況でなら、オークぐらいまでなら普通に戦う。
……このダンジョンで言えば第三階層辺りまで。そのぐらいまでは、『光輝の剣』のときも戦闘に参加していた。
ゴブリンの首に魔法のナイフを突き立てる。かつて素材剥ぎ取り用に買った、私の唯一の魔法の装備だ。
別のゴブリンが振り下ろしてきた棍棒を躱しつつ、今度は心臓に一撃。
そうやって私が二体倒している頃には、三十体近い群れは一掃されていた。
流石、早い。
「アルマ、まさか戦おうとするとは思ってなかったよ。びっくりした」
歩み寄ってきたヴェイセルにそう言われて、私は固まってしまった。
「え? ……そうなの? なんか、戦うのが当たり前だと思っていたから……ごめん、悪いことしちゃった?」
「いや、戦うのは構わないんだが……どのぐらいまで戦うつもりなんだ? 流石に中階層以降は厳しいだろう?」
「えっと、『光輝の剣』では三階層まで直接戦闘に参加してたよ。四階層以降はアイテムを使ったサポートをしてた。……たぶん、五階層ぐらいまでなら戦いに参加できると思うけど、どのぐらいまで参加したほうがいい?」
「……正直、一階層時点でも別に参加は不要だ。非戦闘ジョブに求めているものは戦闘じゃないからな。ただ……アルマ自身は戦いたいか?」
……ん? なんだろ、噛み合ってない気がする。
私としては、三階層程度の雑魚までなら非戦闘ジョブだろうが戦って当然って思ってたんだけど?
「えっと……戦わなくてもいいの? ……三階層ぐらいまでの雑魚なら戦って当然なんじゃ?」
「いや、当然じゃないだろ。いくら相手が弱かろうと、非戦闘ジョブに戦わせるのはおかしいと思うが?」
「……『光輝の剣』だと戦えって言われてたよ? 確か、プラチナ級からミスリル級に上がった頃からかな? ミスリル級以上なら非戦闘ジョブでも戦って当然って言われてた。それこそ、第三階層ぐらいまでなら相手も雑魚なんだから戦えって。非戦闘ジョブだからって言ってサボるなって」
「……マジか。……それは忘れろ。アイツラが馬鹿なだけだ。普通、非戦闘ジョブに戦わせたりはしない」
「むしろ、そうやって非戦闘ジョブにまで戦わせるのは、戦闘ジョブ側のサボりですね。愚かしい」
……マジか。
そっかー、これ、普通じゃなかったのかー。




