第二十八話 そして予期されていた未来
第十一階層、試練獣スフィンクス。
数多の魔法を操る上に、近接戦闘能力も高い。
かなり厄介な相手だ。
だが……皆なら、問題なく倒せる。
「《氷槍》!」
「《炎槍》」
「くっ、《氷壁》!」
「レティだけじゃねぇぞ! 【盾突撃Ⅲ】!」
レティの《氷槍》をスフィンクスの《炎槍》が貫通、それをレティは《氷壁》で防いだ。その《氷壁》の横から接近したレオンが攻撃を仕掛けるが、それも前足一本で止められ、弾かれる。
滑るように後退させられたレオン。入れ替わるようにヴェイセルが近づいていくが……スフィンクスは別方向に前足を振るった。
「くそっ」
その振るわれた前足を回避するため、ザシャが飛び退く。隠密行動をしていたが、どうやらスフィンクスに気付かれてしまったらしい。
だが、スフィンクスがザシャを迎撃しようとする一瞬は、確かな隙だった。
そこを、ヴェイセルとアウラが突く。
「【貫通射撃Ⅴ】!」
「《矢避け風壁》……!?」
スフィンクスがアウラの矢を防ぐために風の魔法を発動したようだけど……アウラの【貫通射撃Ⅴ】がソレを上回った。さすが貫通特化のアウラの一撃。風の壁を貫通した矢を、スフィンクスが慌てて回避する。
それで、体勢が崩れた。
そこをヴェイセルが狙う。
「【致命刃Ⅴ】【剣嵐Ⅴ】!」
禍々しく輝く連続斬撃。それがスフィンクスに襲いかかる。
「《障壁》!」
とっさにスフィンクスは魔法で防御したが……ヴェイセルの斬撃はその程度では止まらない。
まるで、熱したナイフでバターを切るような容易さで、スフィンクスの作り出した防壁は破壊された。
……それでも、そのほんの一瞬でなんとか回避行動を取ったスフィンクスは、右前足の犠牲だけで窮地を脱し、大きく飛び退いた。
「強い。一筋縄ではいかない」
「けどまぁ……本気だしゃなんとかなるな」
「前回の探索でディープアビススライムレギオンと戦ったときは、レティとアウラに良いところを譲ったからな……今回は俺が仕留めよう」
ヴェイセルの纏う空気が変わった。
静かな殺気を感じる。
「アウラ、レティ、ザシャ、アルマ牽制を頼む。レオンは俺のサポートを」
「「「了解!」」」
言葉の直後、全員が行動を開始した。
スフィンクス側も迎撃体制に入る。
……なら、まだヴェイセル達とスフィンクスとの距離がある今、使っちゃおう。
「【道具即時取り出し☆】【道具使用】」
取り出したアイテムは〈マジッククラッカー〉。見た目はただの丸い石だが、叩きつけると凄まじい音を出す。
それを、魔力を練り始めたスフィンクスの片耳の近くの位置指定で発動させた。
突如鳴り響く轟音。
「!?」
その突然の音に、スフィンクスは驚き怯み、魔法の準備が停止する。
そこを皆が狙い撃つ。
「【氷魔法限界突破Ⅴ】《氷槍》」
「《炎槍」
怯んだ状態からなんとか迎撃しようとしたスフィンクスだったが、間に合わない。
そのまま左前足に《氷槍》が直撃、スフィンクスが叫び声を上げる。
「【貫通射撃Ⅴ】」
続けて撃ち放たれるのはアウラの【貫通射撃Ⅴ】。
スフィンクスは痛みに悶えながらもこの攻撃はなんとか回避。
……だが、直前の攻撃を受けた後の体勢的に、回避可能な方向は絞られていた。
「【盾突撃Ⅲ】!」
レオンの一撃。ダメージは大したことなさそうだが、衝撃は大きい。更にスフィンクスの体勢を崩した。
そして、ここぞとばかりに跳び乗ったのであろうザシャが、その首に短剣を刺す。
同時に私も〈サイレントビーの猛毒〉を【道具使用】した。
だが、〈サイレントビーの猛毒〉でもスフィンクスは止まらないらしい。
若干は動きが鈍ったように見えるが、暴れるスフィンクスからザシャが振落される。
「【剣嵐Ⅴ】!」
その暴れるスフィンクスの左前足を、ヴェイセルが切り刻んだ。あれはもう、左前足は使えないだろう。
怒りで咆哮するスフィンクス。
直後、凄まじい魔力が一瞬で集まり、魔法が構築された。
「《獄炎》《竜嵐》」
死を予感させる魔力。
それが……ヴェイセルではなく私達を狙っているのがわかる。
「【氷魔法高速行使Ⅴ】【氷魔法限界突破Ⅴ】《全周氷防壁》!!!」
レティが発動した魔法により、私達の周囲を囲むように氷の防壁が張られた。
それが、凄まじい炎を含む嵐にどんどん溶かされている。
「《凍結》《凍結》《凍結》!」
レティが《獄炎》で溶かされた《全周氷防壁》を即座に再度凍結させている。……だが、これでは《獄炎》が終わる前に、レティの魔力が尽きかねない。
こんなときこそ私の出番。
「【道具即時取り出し☆】【道具使用】【道具使用】【道具使用】」
取り出したマナポーションを連続で使っていく。
……アウラは攻撃の準備中だなあ。レティが防ぎ切ると信頼しているみたい。
そうして、レティが防壁を何度も凍結させて時間を稼いでいると……炎の嵐が終わった。
レティも防壁を解除する。だいぶ疲れたようだ。この後スタミナポーションも使おう。
スフィンクスはだいぶ傷が増えているようだが、まだ倒れてはいない。……ヴェイセルと戦いながら、こちらの魔法を維持していたのか。あれだけの規模の魔法二種同時に維持しつつ、近接戦闘もこなす。何度見ても凄まじい敵だな。
だが、これで終わりだろう。
「【閃光矢Ⅴ】【貫通射撃Ⅴ】」
凄まじい速度の矢が、ピンポイントでスフィンクスの右後ろ足を穿った。
疲れとダメージのせいか、それを回避できなかったスフィンクスは、これで機動力を失った。
あとは、今回はヴェイセルが美味しいところを持っていくだけ。
「準備は整った……いくぞ【神鳥殺しの終末剣☆】【神匠遺産の呪剣☆】」
ヴェイセルの両手の剣が、それぞれ別の色に輝き出す。
右手は燃えるように赤くきらめき、左手は悍ましさを感じさせるような赤黒い色を帯びた。
それを見て怯えるような仕草をしたスフィンクスが、なにか魔法を使おうとした。
だが、そのとき既にヴェイセルはその懐に入っていた。……遠くから見ているのに、私はその動きが全く見えなかった。
「遅い。【剣嵐Ⅴ】」
ヴェイセルの言葉の直後、轟音が連続した。
世界に幾筋もの光が走る。
真紅と暗紅の光の線。それらが世界に無数の傷跡を付けた気がした。
オーバーキルも甚だしい。
一瞬後、先程光が走った部分がそのまま切り開かれるような形で、スフィンクスがバラバラに切り裂かれた。
死体は光と変わり、その光が集まって魔力結晶となる。
そうして、私達は第十二階層へ足を踏み入れることが可能となった。
※※※
私達が第十一階層に到達できた探索。その探索から帰還した十日後。私達は再びダンジョンに潜った。
今回の目標は第十二階層への到達だったのだが……それも問題なく達成した。
スフィンクスは間違いなく強敵だったが、それでも初見で戦うディープアビススライムレギオンほどの脅威ではなかった。
探索から帰還した私達は、冒険者達に羨望の眼差しと共に迎えられた。
これで、私達の最高到達階層は第十二階層となった。
つまり、『光輝の剣』の最高到達階層に並んだ。
現在王都にいるオリハルコン級冒険者の最高到達階層ということだ。
……『光輝の剣』は、あれからダンジョンには潜っていない。
本人たちは潜りたいようだが、なんとかギルドが押し留め、討伐依頼をやらせているらしい。
だが、その様子を見た一般冒険者達は、『光輝の剣』はダンジョン探索にビビった腰抜け達だ……などと好き勝手言っている。
……正直、やめて欲しい。
アンガスは気が短い。かなりストレスが溜まっているはずだ。ただでさえ、『導の煌星』に最高到達階層が追いつかれたという状況なのに、腰抜けなんて言われた日には激怒していてもおかしく……いや、間違いなく激怒しているだろう。
そして、そのストレスのはけ口は、今は恐らくティーナ。……そして、いずれは私にも矛先が向きかねない。
アンガスが私を狙ったことが原因で、『光輝の剣』と『導の煌星』との間でトラブルが発生するなんて冗談じゃない。
……お願いだから、アンガス達はトラブルを起こさないようにして欲しい。
そんな私のささやかな願いは……たぶん、叶わないのだろうと思った。




