第二十七話 反響
【とある冒険者視点】
冒険者ってのは噂好きだ。
それは情報収集の為という面もあるし、ゴシップ好きな、品のないやつが多いせいでもある。
そういうわけで、『導の煌星』が第十一階層に到達したという噂は瞬く間に広まった。
「こりゃ、トップは入れ替わりだろうな」
「『光輝の剣』から『導の煌星』にか? だが、まだ『導の煌星』は『光輝の剣』の最高到達階層である第十二階層には到達してないぞ?」
「それでもだよ。『光輝の剣』は直近の探索を第八階層で引き返し、『導の煌星』は最高到達階層を第十一階層に更新した。どっちに勢いがあるかは明らかだろ」
こんな感じで、あちこちでは『光輝の剣』と『導の煌星』に関する噂や憶測が飛び交っている。
俺も含め、どいつもこいつも無責任に好き勝手喋っているな。ま、面白けりゃそれでいいからな。
中には合っている憶測もあるかも知れないが……大半は見当違いどころかあり得ない方向に吹っ飛んでいるような話ばかりだろう。明らかにありえないものも多い。面白おかしく脚色しすぎじゃないか?
例えば、『導の煌星』はダンジョン奥の災厄と取引をして、マッチポンプで功績を上げているのだとか。『光輝の剣』のメンバーはヤバい呪いに掛かっていて、それを解除するために必死な状態だとか。……もうちょっと真っ当な説を考えろよと言いたくなる。
「にしても実際のところ、なんで今まで安定して第十二階層を探索していた『光輝の剣』が第八階層で引き返して、逆にずっと第十階層でくすぶってた『導の煌星』が第十一階層まで進めたんだろうな?」
「それ疑問だよなぁ。『導の煌星』の調査結果的には、ダンジョンには何の異常もなかったんだろ? 難しくなっているわけでも簡単になっているわけでもなかったって」
「……お前ら二人共、それマジで言ってるのか?」
こいつら……いや、何も考えてないんだろうな。疑問はあるが、答えを求めてまともに思考を巡らせてはいない。冒険者なんて、大半はそんな奴らばっかりだ。
「……お前こそ、そんな言い方するってことは、理由が分かってんのか?」
「……流石にこの状況なら察しが付くだろ?」
「俺達二人はお前ほど頭良くねぇんだよ。……で? どういうことなんだ? 教えろよ」
その答えを与えてもらおうという姿勢に溜息を付きそうになる。ま、仕方ないから教えてやるか。
「簡単な話だ。……『光輝の剣』と『導の煌星』。両方のパーティの顔ぶれが変わっただろうが」
「え? そうなのか?」
「あー……なんだっけ? 女が一人抜けたとか入ったとか?」
……そもそも情報収集不足なのかよ。
「はぁ、『光輝の剣』に所属していたSランクアイテム士のアルマって女が追い出されたんだよ。で、『光輝の剣』には後釜としてSランク付与術士のクラウスって男が入った。同時に、その追い出されたSランクアイテム士の女を『導の煌星』がパーティに入れたわけだ」
「おいおい、それって……」
「それで『光輝の剣』が落ちぶれて『導の煌星』が伸びたってことは、アイテム士の女がめちゃくちゃ有能だったってことか? でもそれなら、なんで『光輝の剣』は追い出したりしたんだよ」
当然の疑問だな。普通、有能なやつを追い出したりなんてするわけがねぇ。
「どうやら『光輝の剣』はそのアルマって女が無能だって触れ回ってたらしい。だから、もし仮にアルマって女が有能だったとすれば……その有能さの恩恵を受けていたのに気付けず、無能扱いして追い出したバカってことになる」
「うっわマジかよ。ダサ」
「『導の煌星』の方はその有能さに気付いてたってことか。なるほどねぇ」
有能な人材の価値に気付かない。それは冒険者としては致命的だ。
……この話が広まると、『光輝の剣』は見くびられるようになるかも知れない。……恨まれるかもな。
ちょっとだけフォローもしとくか。
「ま、『光輝の剣』がそのアルマって女の価値に気付けなかったのは、その状態に慣れすぎてたからだろうな」
「っていうと?」
「『光輝の剣』はパーティ結成から、そのアルマって女を追い出すまでずっと同じメンバーで活動してたんだよ。だからそのサポートがあるのが当たり前に……それこそ意識すらしないほど当たり前になってたんじゃないかねぇ」
「当たり前過ぎて価値に気付けなかったと? んなことあるのか?」
「ははっ、お前駆け出しの頃、冒険者になってようやくお袋さんの苦労を知ったっつってたじぇねぇ。似たようなもんだよ」
「あー……それ言われると反論できねぇな」
人間、慣れてしまい、当たり前だと思うようになると、ありがたみも感じなくなるものだ。……中々怖い話だな。
「にしても、その女ってアイテム士なんだろ? アイテム士を付与術士に入れ替えたんなら、パーティの戦力は上がるのが普通じゃないのか?」
「実際戦力は上がってたんだろうよ。付与術士が入った当初は、調子良さそうだったしな」
「そうなのか? でも探索は第八階層止まりだったんだろ?」
「その前にジズの討伐とかやって成果を上げてたんだよ。だから、ダンジョンでケチが付くまでは、アイテム士の女の子とは無能扱いを続けていたはずだ」
「だがそれなら、今度はなんでダンジョンは第八階層止まりだったのか疑問だ。戦力が上がってたんなら、今までより深くまで潜れるもんじゃないのか?」
……ま、俺達みたいな底辺冒険者なら、それも間違いじゃないんだがな。
「『光輝の剣』や『導の煌星』は、俺達みたいな奴らとは潜ってる階層が違うからな。俺達とはアイテム士みたいなジョブの価値が違う」
「はぁ? 階層が違うって深いってことだろ? 敵が強いんだからそれだけアイテム士みたいなジョブの価値は下がるんじゃねぇのか?」
「それがそうでもない。……よく考えてみろ。十日もかからず往復できる場所に行くのと、往復二十日以上かかる場所に行くの、どっちのほうが物資が必要だ?」
「当然二十日以上の方だろ。……ああ、そういうことか?」
「俺達みたいな浅層の冒険者なら、自分でそれなりの荷物を持ってダンジョンに入れば、往復に必要な物資は持ち込める。だが、第十階層を超えるともなるとダンジョン滞在期間が二十日を超えるのも当然になってくる。そうなったら、強いだけのメンバーでは攻略は困難になる」
「つまり、アイテム士の女はめちゃくちゃ有能な荷物持ちだったってわけか」
その言葉に頷いた。
実際、アイテム士には収納術なんかのスキルもあるらしい。恐らくそういうスキルを持っているのだろう。
「ま、単なる荷物持ちとしては、ジョブ自体が荷物持ちのヤツのほうが上だろう。だが、アイテム士は当然アイテムの扱いに長ける。アイテムを使えば、荷物持ちよりは戦闘にも貢献できたんじゃないか? 」
「だが、『光輝の剣』はその価値に気付いていなかった、と」
「ああ。大方、駆け出しの頃に仲間にアイテム士がいるのを馬鹿にされたり、他のパーティが全員戦闘メンバーなのを見たりして、コンプレックスみたいなものでも持っていたんじゃないか?」
「はー、なるほどねぇ。それだと視野も狭まるか。……んで、そうなると、今後『光輝の剣』はどんどん落ちぶれて行って、『導の煌星』はどんどん躍進していく感じか」
「それはわからんぞ。『光輝の剣』だって、純粋な戦闘能力は伸びているはずだ。ダンジョン探索を諦めて、討伐依頼に絞ればオリハルコン級冒険者にふさわしい活躍をするだろうさ。……『導の煌星』の方は、確かに躍進していくかもしれんがなぁ」
ふぅ、少しばかり喋り疲れたな。
安い代わりに薄くて大して美味くないエールを喉に流し込む。
「でもそれで、あのアンガスが納得するのか?」
「……しないだろうなぁ」
アンガスはプライドが高い。自分たちの失敗を認め、今の自分達に合った活動をするなど……恐らくできないだろう。
「オリハルコン級冒険者同士でトラブルとか起こさないでくれよ……」
「確かにな」
「『光輝の剣』と『導の煌星』が戦うなら正直見てみたくはあるな」
まぁ、安全圏から観察できるなら面白いかもな。……いや、巻き込まれそうだやめておこう。
「ま、今日話したのは所詮俺の憶測だ。忘れてくれ」
「はっ、お前の憶測が当たってないことを祈っておくよ」
「だな」




