第二十五話 帰還と報告
第十一階層の激闘の後、私達は帰還の途に就いた。
帰り道は試練獣も現れない。階層を上がるほど敵も弱くなっていく。
楽な道のりだ。……今の私達みたいに、物資に余裕があるなら、だけど。
物資に余裕がない場合、試練獣が現れないとしても、敵が弱くなっていくとしても、かなりのプレッシャーを感じる帰路になる。
ディープアビススライムレギオン討伐後の回復に使ったポーション、戦闘中の〈スライム殺し〉の消耗、〈鍛冶神の爪〉も使ってしまった。
それなりに物資を消耗しているだけだけど、更に深くに潜るならともかく、帰る分には余裕も余裕。
そんなわけで、予定通りの日程で私達はダンジョンから帰還した。
「……『導の煌星』、帰ってきたか!」
帰ったことを告げると、わざわざギルドマスターのロドリゲスさんがやってきた。
調査依頼の件があるからだろう。
「おう、ギルマス。……報告はどうする?」
「別室で頼む。全員来てくれ」
帰還後はギルドに直行。調査結果の報告だ。
汚れや匂いを落とすアイテムは使っているので、ダンジョン帰りとは思えない程清潔な状態で来ている。
ギルドマスターに案内された部屋。
ギルド側はマスターと書記役の職員さん。こちらは『導の煌星』のダンジョン探索組全員だ。
「じゃ、ギルマス。単刀直入にまずは結果から。……ダンジョン内には特に異常は見られなかった。宝珠はこの通りだ」
既に前もって纏めて渡しておいた宝珠を、ヴェイセルがギルドマスターへと手渡す。
「……本当に、特に何の異常もなかったのか?」
「そうだ」
「……なら、なぜ『光輝の剣』は第八階層で引き返したと思う?」
「あいつらが言った通りだろう。準備不足だ」
「準備不足というが、今までそんなことはなかったんだぞ?」
「……ギルマス。分かっていることをわざわざ訊くな。それ以前と、パーティに変化があっただろう?」
ヴェイセルがそう言うと、ギルドマスターが私に視線を向けた。
そして、私に対して問いかけてくる。
「アルマ、お前は『光輝の剣』に属していたな。……アンガス達はお前のことを足を引っ張るばかりの役立たずだと言っていたが、実際のところ、どんな役割を担っていたんだ?」
そう訊かれ、周りを見る。
みんな、私に対して頷いていた。
だから、ちゃんと答えることにする。
「私はアイテム士です。ですから、『光輝の剣』でもアイテムの管理を行っていました」
そこから、私はギルマスに対し、『光輝の剣』で私がやっていたことを説明した。
※※※
「……そうか。そういう状況だったか。……まぁ、アルマの言い分を全面的に信じるわけにはいかないが……今の説明が本当なら筋は通るな」
「ちなみに、俺達からしても、『光輝の剣』のペース配分は異常だぞ。以前合同で依頼を受けたときには、『光輝の剣』がいつスタミナ切れになるかと戦々恐々としていた。……結局、最後までアイツラがスタミナ切れになることはなかったがな」
「……それを支えていたのがアルマだと?」
「そうだ。……実際、今回一緒に冒険していて実感した。物資の余裕がそれ以前の比じゃない。しかも、戦闘中も的確なタイミングでアイテムによる補助を受けられる。敵への牽制も、仲間の回復も、その他特殊な補助なんかもな」
ヴェイセルの話を聞き、ギルドマスターは悩むような表情を見せる。
……何を悩んでいるのだろう?
「ヴェイセル……アルマを『光輝の剣』に戻すことはできないか?」
突然の信じられない発言に、仲間たちが殺気立った。
特に、レティの魔力の高まりが、部屋の温度を一気に下げた。
「お前……何を言っているか分かっているのか?」
ヴェイセルが低い声で問う。
今まで聞いたことのない声だ。威圧感が半端じゃない。
……私は、何故か自分のことだというのに、感情は冷めていた。
……皆が怒ってくれることは嬉しいけれど。
「……すまん、忘れてくれ」
ギルドマスターは目を閉じた後、そう言って謝った。
それでみんなの気配は若干和らいだが、まだまだギルドマスターへの敵意は漲っている。
「どういうつもりで言ったかぐらいは説明しろ」
「……そうだな。簡単に言うと『光輝の剣』がまともに活動できなくなると困るんだよ」
「それぐらいは察せる。それがなぜかを言え」
「……『光輝の剣』には多くの貴族が期待をしていた。だから、『光輝の剣』向けの依頼も多数あるんだ。それなのに、『光輝の剣』が実力不安ともなれば、俺達王都のギルドの沽券に関わる」
ギルドマスターの説明を聞いたみんなの殺気が、再び強まった。
「そんな理由で、アルマを『光輝の剣』に戻そうと言うのですか?」
「お前たちにとってはそんな理由かもしれんが、これは王都の冒険者全員に影響する話だ。自己管理ができない『光輝の剣』の責任……では終わらせられない。そんな軽い問題じゃないんだ」
「だとしても、俺達が助けてやる義理はねぇな。アルマを追い出したのはアンガス達の方だ。そして、そのアルマを受け入れた俺達の方には何の落ち度もないだろう?」
レオンの言葉に、ギルドマスターは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「ならどうしろと言うんだ? オリハルコン級が高々八階層で引き返した上、ダンジョンに何の問題もないなんて……ギルド側の等級認定能力だって疑われかねない。そうすれば、君たちにも影響があるんだぞ?」
「脅しか? それは」
「そうじゃない。事実を言っている。……ともかく、このまま『光輝の剣』を弱体化したままにはしていられないんだ」
「他の人材を当たれば良いだろう?」
ザシャもレティも容赦なかった。
なんとも一触即発。その争いの火種が自分だと考えるといたたまれない。
……というわけで、一つ提案をしてみようと思う。
「あの、良いですか?」
「……なんだ?」
ギルドマスターが、少し警戒を滲まえせてこちらに問う。
一つ深呼吸をして、私は自分の案を述べた。
「『光輝の剣』は弱体化したわけではないと私は思っています。確かに私がいたときに比べると、長期戦が難しくなったでしょう。ですが、私がいた頃、『光輝の剣』だけでジズの討伐は難しかったのではないかと思います。ですので、長期戦に弱くなったとは言っても、短期戦に関しては強くなっているはずです」
「……なるほど」
「ですから、短期で終わるような討伐依頼を受けるよう『光輝の剣』に促したらどうでしょう? で、そうやって討伐依頼を『光輝の剣』がこなしている間に、補充メンバーを見繕っては?」
冒険者のパーティは六人までだ。一部ジョブのスキルにはパーティ人数を参照するものがあり、その上限が自分以外に五人まで、つまり合計六人までらしい。その人数である理由は不明。
だから、普通パーティは六人を越えないようにする。越えるようなら、私のときのように誰か既存メンバーを入れ替える。
だが、例外的なパターンもある。
その一つが、依頼や探索先の内容によってメンバーを切り替えるパターン。今回の『光輝の剣』の場合、強敵の討伐なら今のメンバー、ダンジョン探索ならギルドが見繕った補充メンバーを誰かと入れ替えるようにすればいい。
余談だけど、パーティに限定されない規模のスキルも多くあるから、パーティ人数を考慮せずに大勢で依頼を受ける冒険者もいるらしい。……あるいは大規模な討伐依頼なんかには複数パーティが合同で挑んだりもするパターンも有る。パーティという形の基本が六人というだけで、冒険者は必ず六人だけで行動するというわけじゃない。
閑話休題。
私が案を出したことで、皆の殺気は和らいでいる。
そして、ギルドマスターも頷いた。
ギルドマスターも、ここで話に乗らなければ、よくない展開になることは分かっているのだろう。
「……ま、確かにそうだな。……ひとまずはその方針で行こう。だが、オリハルコン級に紹介できるような人員は、そうそういない。特に物資の調達・運搬に適した人材なんてそう多くはないからな。……いざというときは、一時的にであれ、アルマに協力を頼むことになるかもしれん」
そう聞いて、私の体が強張った。
……そして、私の体が強張ったのをみて、皆の殺気が再び強まる。
「ギルマス、さっきレオンが言ったことを忘れたか? 忘れたならもう一度言う。『光輝の剣』がどうなろうが、俺達が助けてやる義理はない。当然、今言った俺達にはアルマも入る。仮に貴族とのやり取りで何かしら問題が発生するのだとしても、それはギルドが負うべき責任だ。……そのしわ寄せを、アルマに負わせるな」
ヴェイセルはそこまで言うと、席を立った。直後、皆立上がり、部屋を出ていく。……私も遅れてついて行った。
「シエラ、見送りを」
「いらん」
ギルマスが書記の職員さんに声をかけたが、ヴェイセルは短く拒絶した。
そのままギルドを出た私達は、素材の買い取りなども後日に回すことにして、そのままパーティハウスに帰ったのだった。




