第二十二話 第十階層・後
第十階層の敵は強い。
油断しているとオリハルコン級冒険者でも危ない。
なので、探索時はかなり緊張する。
緊張を強いられる探索は体力を削る。
宝珠を使用してから、更に数回の戦闘を経て、二日目の野営部屋が近づいてきた。
割とクタクタ。
中々に疲れた。
「はぁ……休息の前にもう一戦かい?」
「ああ、その通りだ」
ザシャが足を止めた直後、レティが一つため息をついた。
「気合を入れよう。この後はもう野営部屋だ」
ヴェイセルの言葉に従い、気持ちを切り替える。
さぁ、倒そう。
現れたアンデッド系モンスターたちを見据え、私は〈聖水〉を準備した。
※※※
そうして、たどり着いた野営部屋。
みんなには食事を準備しつつ、〈栄養棒〉も使用。
〈栄養棒〉もかなり細かく砕いて使っていく。……過剰に使うとむしろ不利益があるし。今は普通に食事も摂っているからね。〈栄養棒〉は本当に栄養とカロリーの補助だ。
みんなにいつも通りのアイテムを使い、私も保存食を食べる。
〈栄養棒〉があるから、栄養よりも味重視で買った保存食だけど……本当に美味しい。
探索で歩き回ったり戦闘したりした後は体が塩分を欲する。だからこそ塩味強めの味付けなんだろうなぁ。
食べ終わった後は、寝る前にアイテムの整理。
一応自分のカウントと数が一致しているかを確認。
その後はポーチ内のポーションを背嚢に移していく。……背嚢からしか【道具即時取り出し☆】が使えないからね。
準備を整えたら、明日に備えて眠りにつく。
いつも不寝番をやってくれているザシャ、レオン、ヴェイセルありがとう。
明日は第十階層のボス戦だ。できれば夜の襲撃がないとありがたいけれど。
※※※
ありがたいことに、昨晩は魔物が襲いかかっては来なかった。
ゆっくり眠れたので、コンディションが良い。
みんなサクサク魔物を屠っていく。
これなら、ボス戦も心配なさそうだ。
……まぁ、元からほとんど心配していないけれど。
それでも一応、皆はここのボス戦からは未知の領域だ。長い事第十階層で頑張っていた事もあって、完全に未知の相手との戦いというのは久しぶりだろう。
そんなことを考えつつ、皆に適宜ポーションなどを使っていく。
ここまで節約して来ているから、ポーションにはまだまだ余裕がある。ポーチのお陰でそもそも持ち運べるポーションの数自体も増えているしね。
そして、ボス部屋の前まできた。
ここで一度ミーティング。
「さて、第十階層の試練獣だが、相手はケルベロスだ」
「三ツ首の巨犬だね。身体能力が高い上に火を吐く」
ヴェイセルとレティの言う通り。試練獣はケルベロスだ。
キマイラより基礎スペックが高い。火力も高い。頭が三つあるので、それぞれ別々に火や毒を吐いてきたりして厄介だ。
「一応アルマが言うにはケルベロス相手によく効くアイテムがあるらしいが……今回はそれは使わない」
「そういう話だったな。あまりにケルベロス戦が楽になりすぎるから、ダンジョンの試練の意味がなくなるつってたか」
「うんそうだよ。私は普通に使っていいと思うけど……」
「次回からは使おう。今回は俺達の実力が間違いなく第十一階層に通用することを確認したいから無しだ」
使っていいと思うんだけどなぁ。
心配しなくても、皆の実力なら第十一階層にも余裕で通用するよ。
「キマイラ戦と違い、三つの首がそれぞれ火を吐くし、抵抗力も高い。初手《氷獄》は今回は無しだ。堅実に戦おう」
「了解」
「それじゃ、行こう」
皆がヴェイセルの言葉に頷き、進む。
ボス部屋の大きな扉を開けた。
大きな部屋。その部屋の中央に魔力が集まり、三ツ首の番犬が現れた。
その巨大な犬へ、即座にレオンとヴェイセルが走り出す。
ザシャは横に逸れるように走り出したが、一つの首がザシャの動きを追っている。
「【魔力矢生成Ⅴ】【閃光矢Ⅴ】【貫通射撃Ⅴ】」
そのザシャの動きを追っていた首に、アウラの矢が迫った。慌てて首をそらしてよけようとしたが、顎下を掠った。掠った箇所が抉れ、血が飛び散る。
アウラはその結果を気にしていない様子。目的であるザシャから注意を逸らすことには成功したからだ。
ケルベロスは毒に耐性がある。今回は〈サイレントビーの猛毒〉は使えない。
それでも、ザシャの攻撃は狙い所によっては有効だ。その有効打を与えられる瞬間を待ってもらおう。
「【光輝の盾Ⅴ】!」
レオンがスキルを発動すると、凄まじい光量で盾が輝き始めた。……だが、不思議と私達はその光に眩しさを感じない。
もちろんケルベロスは光量に見合った眩しさを感じており、すべての首が目を逸らした。
左前足付近にヴェイセルが潜り込む。
「【致命刃Ⅴ】【剣嵐Ⅴ】!」
禍々しい色に輝き出したヴェイセルの双剣が、ケルベロスの左首に嵐のような勢いで襲いかかる。
ケルベロスはそこに死の気配を感じたのか、大きく跳び退いた。……だが、ヴェイセルの連撃は既に数発その首を捉えており、左首にはその中ほどにまで幾多の傷が刻まれている。ドバドバと流れ出る血が、その威力を物語っていた。
しかも、ケルベロスの跳び退いた先にも追撃は飛ぶ。
「《氷槍》」
「【爆裂矢Ⅴ】【貫通射撃Ⅴ】」
最初に飛んだのはレティの《氷槍》だった。多数の氷の槍が殺到し、ケルベロスは警戒心を強め、回避の体勢を取ろうとした。
だが、レティの《氷槍》は牽制、そして目隠しでしかなかった。
直後にアウラの放った矢が、《氷槍》を砕きながら追い越し、左首の付け根に突き刺さる。
半ばまで断たれていた左首はソレを避けきれなかった。
そして、【爆裂矢Ⅴ】の効果が発揮される。
爆発。それによって吹き飛ぶ左首。
怒り狂うケルベロスの咆哮。
その中央の口には炎、右口には毒のブレスが準備されているのが分かった。
だが、右首がそのブレスを吐く機会はない。
溜めていた毒を僅かに口からこぼしながら、右首が苦しみもがきだした。……首から大量の血を流しながら。……血だけでなく毒も混ざっているのか、瘴気のようなものを立ち上らせている。
いつの間にかケルベロスの下に潜り込んでいたザシャが、右首の動脈……そして喉を斬ったようだ。恐らく、普段の【不意打ちⅤ】と【死人に口なしⅤ】だけでなく、何かしら他の戦闘用スキルの効果も乗っているのだろう。
前足の攻撃をかいくぐりながら、ザシャがその場を離脱する。
残る首をは一つ。
その首が強力な炎を吐き出した。
「《氷壁》《氷壁》《氷壁》!」
レティが三枚の氷の壁を作り出す。
炎の範囲外にいるザシャを除いて、全員がその後ろへ。先頭はレオン。
一枚目の氷は最初の勢いを止めた代償として一瞬で蒸発した。
続く二枚目はしばらく持ちこたえているが、段々と融けていき……まずはその壁の中心だけが融け切って炎が貫通してきた。そして、中心部からあぶられていき、そのまま融けてなくなる。
最後の三枚目はかなり耐えてくれているが、ケルベロスの方も懸命に火を吐き続けている。これだけで耐えきることは難しそうだ。
「【属性防壁Ⅴ】【守護者Ⅴ】【要塞盾Ⅴ】!」
三枚目の氷を突破してきた炎。それをレオンが防いだ。
スキルの力により、私達に炎の熱は届かない。
レオンとケルベロスの根比べ。
だが、それはさほど時間が経たないうちに、レオン側に天秤が傾く事となった。
既に氷三枚を融かすのに力を使ったケルベロスは、レオンと勝負するには消耗しすぎていた。
ブレスの直後、ケルベロスは息切れした様子。モンスターも息切れするんだ、とどうでもいい考えがよぎった。
「【氷魔法高速行使Ⅴ】《氷の神枷》」
疲れ切ったケルベロスを、氷の鎖のような物が拘束する。
そこに、ヴェイセルが踏み込んだ。【致命刃Ⅴ】の効果はまだ残っている。
「【剣嵐Ⅴ】!」
そして、ヴェイセルの得意技が炸裂した。
超高速の連続斬撃がケルベロスの首肉を削ぎきり……ついには頚椎も断ち切って、最後の首を刎ねた。
ゆっくりと倒れていく、ケルベロスの体。
その体と首が、魔力に変わり、集まって魔力結晶となる。
沈黙。
瞬きほどのだけ。
「勝った?」
「……ああ」
アウラの疑問の声に、ヴェイセルが頷く。
そして──
「俺達の……勝ちだ!!!!」
「うぉぉおおお! よっしゃああああ!」
「やりましたね! ようやく第十階層突破です!!」
「長かったな」
「ああ、本当に長かった」
「あはは、今回私何もできなかったよ。皆の気合すごかったから」
本当に、皆この一戦にすべてを賭けていたのではないかと言うほど、集中して戦っていた。
ようやく念願の十階層突破。喜びもひとしおらしい。
「何もできなかったなんてことはない。戦闘に参加せずとも、ここを突破できたのは間違いなくアルマのおかげだ」
「え!? 私!? いやいや、私はただ単に物資運搬をしただけだよ。皆の実力は元からここを突破できるぐらい高かったんだから」
「それが大事なんだよ。アルマは俺達にできないことをやってくれたんだ。ありがとう」
皆が頷く。私を見て。
うーん……いや、わかるよ? 今まで一緒に来て色々評価してもらったし。
けどさぁ……今回戦闘に参加してない私がそこまで評価されるのもなぁ。
今回の頑張りは皆のものでしょ?
「そう評価してくれるのは嬉しいけど。私はやっぱり皆が評価されるべきだと思う。ケルベロスをこうもあっさり倒せたのも、ここに来るまでかなりのアイテムを温存できたのも、これまでの皆の積み重ねの結果なんだから」
そう言うと、ヴェイセルは目を見開いた。
そして、頷いて、こちらに微笑む。
「そう、思うか?」
「思うよ。思わなければ言わないよ」
「そうか……アルマがそういうのなら、そうなんだろうな。……ありがとう」
ヴェイセルの微笑みは、今までで一番輝いて見えた。
そこからは、宴会でもするかのような勢いで、皆ではしゃいだり、胴上げをしたりした。
まだ探索は終わっていないというのに……でも、それだけ嬉しかったのだろう。
その喜びに少しでも貢献できたということが、私も嬉しかった。




