第二十一話 第十階層・前
ついに第十階層。
現状の『導の煌星』の最高到達階層だ。
はっきり言うと……余裕だ。
現状、十一階層攻略を目標に準備したアイテムは……十二階層探索時の『光輝の剣』よりも余裕がある。
いや、うん、ある程度は予想はできたよ?
準備資金は『光輝の剣』にいた頃よりずっと多かったし、『導の煌星』の方が『光輝の剣』よりリソース管理がしっかりしているのは分かっていたから。
だからこそ、余裕がある今回、始めて使ってみるアイテムなんかもたくさん持ってきた。お試しで持ってきたそれらが仮に使えなくても、第十一階層探索ぐらいまでなら余裕だと想定していた。
だけど、いくらなんでもここまで余裕があるのは計算外。
お試しのアイテムが有用だったというのもある。確かにある。
だけどそれ以上に、『導の煌星』の動きに無駄がない。
いや、全く無駄がないわけじゃない。
けれど、それらの無駄は必要な無駄だ。
人は全く無駄のない生活はストレスを感じる。ストレスがかかればパフォーマンスは落ちて、結果的に無駄に消耗する。
その点、『導の煌星』はかなり理想に近いんじゃないだろうか?
「この階層は予定通り三日で通過するペースで行く」
「了解!」
この階層では強力な敵が多数出現する。
それらを相手しながら突破するのは二日では厳しい。
一戦一戦の疲労が、段々増してきたのが目に見えてわかる。
「それじゃ、ここからが本番だ、気を引き締めて行くぞ」
「おうっ!」
レオンの気合のこもった返答。他のみんなも頷いている。
そうして、第十階層攻略の一日目が始まった。
※※※
とはいえ、既にみんなもかなり慣れたものではある。
今までも、『導の煌星』は何度もこの階層に挑み、リソースが足りずに諦めるを繰り返していたのだ。
その繰り返しの中で、少しずつリソースを残しながら進めるようになり、あと一歩で第十一階層というところまでは迫ったらしい。
五人でそこまで行ったのは偉業と言って良いのではなかろうか?
その経験もあって、リソースの温存が上手いのだろう。
「敵が来る。この感じ、スライム系ばかりだな」
「凍らせるから、一気にお願い」
「了解!」
ザシャの警告の直後、五体のヴェノムスライムが現れた。
ザシャが敵に気付いた動きを見せた時点で、レティは魔力を練り始めていた。なので、すぐに魔法の構築が終わる。
「【氷魔法限界突破Ⅴ】《凍結》」
氷魔法の威力を大幅に上昇させる【氷魔法限界突破Ⅴ】。それによって強化されたのは、氷魔法の中でも比較的簡単な魔法である《凍結》。
この魔法は《氷獄》などと違い、敵を氷で覆うような効果はない。対象の水分をそのまま凍らせる魔法だ。
スライム系のような液体に近い生物相手に有効な魔法だが、魔力の多い相手には中々決まらないのが欠点だ。
無論、第十階層で出てくるようなスライムは大量の魔力を持つ。ただの《凍結》では分が悪い。だからこその【氷魔法限界突破Ⅴ】だ。
余談だが、普通の生物相手の《凍結》は決まればほぼ即死する。その代わり、対象物である液体が見えずイメージもし難いため、発動が困難だ。
ゆっくり近づいて来ていたヴェノムスライムが少しずつ凍っていき、ついには完全に停止した。
「【爆裂矢Ⅴ】【貫通射撃Ⅴ】」
すかさず飛んだのは、アウラの矢。
二体のヴェノムスライムを貫通した矢は、三体目に直撃する瞬間に爆発した。
爆発に巻き込まれたヴェノムスライム達が粉々に砕け散っていく。
スライム系は斬ってもちぎっても叩いても再生する厄介な敵だ。
だが、どういうわけか、元のサイズから一定以上の体積が失われると、再生できずにそのまま死滅する。
なので、スライムを発見したら、粉々に砕いたり、バラバラになるまで切り裂いたりすることで倒すことができるわけだ。
……スライムがこのように死ぬ理由は現在も研究中らしい。一説では、スライムの成長の仕方と関連シているのではないかと言われている。
スライムは大きくなると、その分魔力総量が増える。そして、魔力総量が増えるほど、一つ一つの細胞が強くなる。
このとき、魔力総量に合わせて細胞が強くなる代わり、細胞の維持に必要な魔力量も増大するのではないかと言われている。
そして、攻撃などを受けて体積が急激に減った場合、魔力総量も同時に急激に減る。細胞の維持に必要な魔力が増えていると、この魔力総量の減少が痛手になる。必要とする魔力量が増えた結果、体積減少で魔力総量が減ると細胞が維持できなくなるというわけだ。
……まぁ、説ってだけで、それが真実と確定したわけではないけれど。
「続いて後方からも来ている。速いな……恐らくオルトロス」
「了解!」
「さっき後方はあらかた倒したと思いましたが、流石十階層、新たな魔物の発生も早いですね」
「それでもこれほど早いのは珍しい。今回は運が悪かった」
レティの言う通りだ。これまで敵を倒してきた後方から、こんなに早く新たな魔物が生まれて襲撃してくるなんて滅多にない。
「うおらぁ!」
後ろから走ってきた四体のオルトロス。その先頭をレオンの盾が弾き飛ばした。
弾き飛ばされたオルトロスは、立ち上がって炎を吐こうとしたようだが。その着地点に接近していたザシャが首を狩った。
二体目はアウラの矢を躱し、そこをヴェイセルの双剣に狩られる。
「《氷槍》」
レティから氷の槍が飛んでいくが……さっきの矢といい、このレベルの敵は普通に回避してくるなぁ。
それでも、着地の隙などを狙い、ヴェイセル達が順調に処理した。
「よし、進もう」
私はオルトロスから取れる素材を手早く回収。
ヴェイセルの言葉に従って先へ。
だが、暫く進むと再び敵。
「フレッシュゴーレムとブロブか」
フレッシュゴーレムというのは、肉の塊でできたゴーレムだ。気持ち悪い。
ブロブは消化能力が極めて高い肉食スライム。かなり厄介で、一瞬触れるだけでもかなり危ない。
「フレッシュゴーレムは俺達がやる」
「わかった。ブロブはこちらが受け持とう」
レオンとヴェイセルがフレッシュゴーレムへ突撃する。
「【道具即時取り出し☆】【道具使用】」
フレッシュゴーレムとブロブの間に、スライム殺しを撒いた。
レオンに近づこうとしたブロブが、一瞬スライム殺しに触れ、すぐに方向転換した。
「素晴らしいなアルマ、感謝する。……後は任せてくれ【氷魔法限界突破Ⅴ】《凍結》」
さっきのヴェノムスライムを倒したときと同じだ。
スライム系相手の必勝パターン。
「【爆裂矢Ⅴ】【貫通射撃Ⅴ】」
今回、貫通射撃の威力を絞ったのか、あるいは爆裂矢の感度を上げたのか、矢はブロブの体を貫通しきる前、その体の中心付近で爆発した。
厄介な敵であるブロブもあっさり始末。
地力が高い。
「【要塞盾Ⅴ】」
「【剣嵐Ⅴ】」
レオンたちの方も問題なさそうだ。振り抜かれたフレッシュゴーレムの片腕をレオンが防ぎ、その防がれ勢いを失った腕をヴェイセルが細切れにしている。
更に、敵の片腕を粉微塵にした勢いのまま、ヴェイセルは相手の体の下に潜り込んだ。
そして、再び──
「【剣嵐Ⅴ】!」
攻撃スキルによる連打を見舞う。
この階層の敵はそれにも反応して片腕でガードしてみせるが、その結果残る片腕も失った。
敵にはもう、両腕がない。
後は攻撃手段の大部分を失った相手を仕留めるのみだ。
「流石に第十階層は敵が多い」
「だな……前方にはまた敵だ。次はスライム系とアンデッドの混成だな」
「本当に多いね」
本当に面倒だが、この階層ではいつものことだ。仕方ない。
諦めて対処する。
と、その前に。
「【道具即時取り出し☆】【道具使用】【道具使用】【道具使用】」
〈下級スタミナポーション〉二つと〈下級マナポーション〉を一つ。みんなの回復に充てた。
「ありがとう」
「これがあると本当に安心するよ。ありがとう」
「……この回復量で下級ポーションなんだよな? よく効く」
「ありがとうございます、アルマ」
みんなの感謝の言葉に微笑みを返す。
だが、ゆっくりもしていられない。
さぁ、次の相手だ。
※※※
第十階層一日目の野営。
野営部屋で軽く食事を準備していると、敵の襲撃があった。
それも問題なく倒し、〈栄養棒〉の使用後にみんなにスープと、ちょっとお高めの保存食を配った。
……今回は資金に余裕があったからね、こういう贅沢もちょっとは良いでしょ。
探索のモチベが上がるだろうし。
「こんな美味いものよく準備していたな」
「今回はお金に余裕があったからね。他で節約してる分、ちょっとぐらいの贅沢はありでしょ」
「ありだね、かなりありだ。満足感が素晴らしい」
レオンの言葉に応えると、ヴェイセルは保存食を噛み締めながら、実感の込もった言葉をくれた。
次回も買おう。
その後は片付け。そして、〈妖精の揺り籠〉を使って休息。
今回は休息中の襲撃が二回もあったが、それでも〈妖精の揺り籠〉のお陰でそれなりには体力を回復し、翌日に臨めた。
翌朝、少し進んだところで宝珠を使用。
やはり問題なし。……八階層の時点で分かっていたことだけれど、『光輝の剣』は本当に、ただ単純にリソース管理を失敗したんだね。




