第十八話 第七階層
第七階層。この階層からは一階層辺り二日かけて進む方針だ。
……『光輝の剣』ではその半分、一日で進むというペースだった。そのペースを維持するために、私が準備したポーション類はガンガン使う羽目になっていた。
普通ならどう考えても無理な、そんなペースでの探索をすると言い出したのはアンガスだ。で、上手く行かなければ機嫌が悪くなって文句を言う。主に私の補助が悪いと文句を言われていた。……なので、結局仕方なく無理やりそのペースを可能にするような補助を行っていたわけだ。
ダンジョンの探索に『導の煌星』は二十枚の金貨を使って準備していたらしい。それなのに、私が金貨五枚分の準備で『光輝の剣』を支えていた事に、レオンなんかは驚いていた。
だが、私からするとそれは特にすごいことではない。
なにせ、消耗品をアイテム士が使用する場合と、アイテム士以外が使用する場合とでは、バリューが全く違うからだ。
私は【道具効果上昇Ⅴ】というスキルを取得している。この効果により、私が使うアイテムの効果は実質二倍近い効力を発揮する。
加えて【範囲道具使用Ⅱ】によって一つのアイテムを三人に使用可能。
……つまり、私がアイテムを使えば、それだけで通常の六倍の効果を発揮する。
まぁ、効果が六倍だからそのままコストが六分の一になるわけでもない……六倍相当の効果を発揮できるかどうかは場面にもよるしね。三人に使えるからって、毎回全てのアイテムで有効な対象が三人いるってわけでもない。
とはいえ、効果の差は歴然だ。だからかなりの節約が可能になる。
更にいうなら、高価なアイテムというのは効果量が高く緊急性に優れるけど、その分コスパが良くない。複数回に分けて使用する余裕……そして持ち運ぶ荷物の余裕があるのなら、安価なアイテムのほうがコスパがいい。
……一応、ポーションなどは連続で使うほど効果が薄くなるという問題があり、そこが安価なアイテムを多数購入する事の欠点でもある。けれど、私の場合は【道具効果減衰緩和Ⅴ】を取っている。
このスキルのおかげで、安価なアイテムを連打する場面があっても、ほとんどアイテムのバリューを下げずに使える。だから、安価なアイテムのコスパの良さが、ほぼそのまま準備コストの低減に繋がっていたはずだ。
加えて、私は【道具認識拡張☆】と【道具探知Ⅱ】によって、通常では高価なアイテムを無料で入手できたりもしていた。それこそ〈妖精の揺り籠〉などはその代表例の一つだ。
そういった諸々を合わせて考えると……恐らく、アイテム士無しかつ高価なアイテムで準備する場合に比べると、十分の一以下のコストで準備できていたはずだと思う。……このコスト低減能力は貧乏型ビルドの面目躍如というところだ。
にも関わらず、『導の煌星』が二十枚で準備していたのに対し、『光輝の剣』は五枚かかっていた。
いくら『光輝の剣』のほうが深い階層まで潜ると言っても、この差は大きい。恐らく『導の煌星』なら『光輝の剣』と同じ階層まで進むとしても、三十枚分の準備で行けただろう。『導の煌星』のペースだとダンジョン滞在期間がかなり伸びることになるが、それでも恐らくはプラス金貨十枚分ぐらいの準備で第十二階層まで行けるはずだ。……私の計算では。
まぁ、残念ながら、私が入る前の彼らだと、仮にそうやって準備してもアイテムを持ち運ぶ手段がなかったみたいだけれど。
私がコストを十分の一まで低減できると仮定して……実質金貨五十枚分ぐらいの準備で潜っていた『光輝の剣』と、おそらくは金貨三十枚分の準備で同じぐらいの深さまで行けるであろう『導の煌星』。
一目瞭然だ、『光輝の剣』は『導の煌星』より遥かに効率が悪かったといえる。
これは『光輝の剣』の効率が悪すぎるのか、『導の煌星』の効率が良すぎるのか……恐らく両方だろう。
※※※
第七階層では途中で一泊する。
サンプル取得を終えた私達は、予定している野営部屋までやってきていた。
「そう言えば、アルマは魔道具は使わないのか?」
食事中にヴェイセルに突然訊かれた。
魔道具というのは、一部の遺跡型ダンジョンなどで稀に見つかる魔法の込もったアイテムだ。
単純に魔法を帯びている、魔法の効果を発揮するだけのアイテムは魔道具と呼ばない。
魔道具と呼ばれるのは、一定手順を踏んで魔法の効果を発揮するものの内、何度でも効果を使用可能なものを指す。つまり、消耗品ではいけない。
例えば、特定の構えで特定のキーワードを唱えると炎の塊を発射する剣や、祈りを込めて祝詞を唱えることで魔力防壁を張る首飾りなどだ。
アイテム士にはこの魔道具を、【魔道具励起Ⅰ~Ⅴ】というスキルによって、【道具使用】でアイテムを使うのと同じように手順を無視して扱うことができる。
実のところ、何度でも扱えるということもあって、本当にコストをかけたくないなら、ちょっと初期費用が高く付くとしても魔道具を使うべきだ。
だが、私は使っていない。
理由は単純……いつものだ。
「理由はいつものだよ」
「だろうな。どうせ、アンガスから「アイテム士が魔道具を持つぐらいなら、他のパーティメンバーに金を回して装備を充実させた方が良い」とか言われていんだろ?」
「すごい、正解。一度ダンジョン内で魔道具を見つけて、うきうきで【魔道具励起Ⅰ】を習得したんだけどね……ザシャが言った通りのことを言われて売り払われちゃった。以降魔道具を買うこともなかったよ」
ザシャはアンガスの思考を読むのが上手いなぁ。
「なるほどな。……今なら魔道具を買っても当然俺達は文句を言ったりしないが……」
「お察しの通り、私は魔道具を使わないビルドでほぼ完成しちゃったから、今更魔道具を買うことはないかなぁ」
「そうかぁ……ま、しょうがないか」
「そもそも魔道具っつーのはどれもクソ高ぇだろ? 多くの場面に対応できるぐらい買い揃えるのは、かなりの金持ちじゃねぇと無理だ。冒険者やってるアイテム士が魔道具型をやっても、大抵が中途半端になる。アンガスが真っ当だったとしても、魔道具関連スキルは補助程度に留めることになっていただろうよ」
「レオンの言う通り。最初からミスリル級以上の収入があるならともかく、そこに至るまでに実績を積むことが、魔道具型のアイテム士は難しいだろう。Sランクアイテム士でも、魔道具を中心に運用できるのは、それこそ金持ちの貴族や商人ぐらいではないか?」
残念そうにするヴェイセル。そこにレオンとレティが現実的な話をしてくれた。
実際、私は魔道具型だと厳しかったと思う。魔道具は一度使うと、再使用可能になるまでのチャージ時間が必要だ。だから、魔道具型でやっていくなら多数の魔道具を集めるのは必須事項。……再使用時間短縮のスキルもあるようだけど、それを取ってもなお、だ。
実戦的な魔道具は非情に高価であり、よほどの金持ちでないと難しいだろう。
「すまないな、アルマ、気にしないでくれ。ちょっと気になっただけだからな」
「あはは、ご期待に添えず申し訳ないよ」
「いや、本当に悪い。変なことを聞いて。魔道具の話は本当に気にしないでくれ……今までの探索でもアルマは想像以上に頑張ってくれている。ありがたいよ」
私もここまで一緒にやってきて、少しはみんなのことが分かってきた。
ヴェイセルには本当に悪気などは無いのだとわかる。だから、特に気にはならなかった。
むしろアウラがヴェイセルをたしなめている。
私はそんな様子を微笑んで見つめた。
※※※
【ヴェイセル視点】
第七階層の試練獣はトロールグラディエーターとトロール四体だ。
いつもに比べて随分戦いやすい。
前回も思ったことだが、いつもより疲れが少ない。体が動かしやすい。
加えて今回は、アルマのアイテムによる援護があった。
アルマは自覚が薄そうだが、アイテムを使うタイミングや使い方が非情に上手い。
無駄使いはしないが、必要なときにはためらわない。
温存した結果、余計な消耗が発生するなんて場面が……少なくとも今回の探索では全く発生していない。
例えば六階層でオークの足止めに使った〈粘着玉〉。
アレは非情に安価だが、大した足止めにはならない。
アイテム士であるアルマが使ったからこそ、オークをほんの一瞬だけ足止めできた。
……アルマはその一瞬で十分だと分かっていた。
本来、初撃で仲間をやられたオークは、二撃目の矢には回避行動をとったりして、もう少し戦闘が長引いたはずだ。
アルマは安価なアイテムの一瞬の足止めだけで、それをさせなかった。
そういったことが、戦闘の度にあった。
そうすると、俺達戦闘要員の消耗もリスクも低減される。
それは結果的に、〈粘着玉〉なんかよりもずっと高価なポーション類の消費を抑えることに繋がっているはずだ。
今もまた、アルマはちょっとした小道具のようなアイテムで、取り巻きのトロールを転ばせて、他のメンバーが戦いやすい状況を作ることに貢献していた。……アレは〈道化神の油〉か?
大仰な名前だが、割と簡単に作れることで有名な、凄まじく滑る油だ。かつて道化神が作り方を人に教えたらしい。
俺達はアルマの補助もあって、第七階層のボス戦を非情に楽に終えることができた。
……ここまで来て、確信する。アルマは確かに、金貨五枚あれば十分な準備ができるだろう。
スキルによるアイテムの効率アップ。安価なアイテムを大量に持ち運べる、連続使用できることによるコスト低減。それは確かに大きい。
だが、それだけではない。
アルマはアイテムを使うという点で、他者よりかなり判断力が高い。
恐らく、普通にアイテムを使うより、アルマの判断で使うほうが五割増し程度には効率的にアイテムを使えるのではなかろうか? 下手すると倍近い差が付く可能性がある。
総合的に判断すると、アルマが扱う金貨五枚分のアイテムの価値は……下手をするとそこらの冒険者が金貨百枚で準備したアイテムに匹敵するかもしれない。
……アルマはこのことにどの程度自覚があるのだろう?
彼女が仲間になってくれて本当によかった。
「あれ? もしかして……『ダンジョンの激励』?」
アルマの声が聞こえ、倒したボスの位置に目を向ける。
そこには、魔力結晶といっしょに、一つのペンダントが出現していた。
ダンジョンの激励。……ここは災厄を封印する役割を持つダンジョンであり、冒険者を「漏れ出た災厄の力を処理する存在」と認識しているらしい。
そして、漏れ出た力の処理に役に立ちそうなものには、ダンジョンが激励としてアイテムを送ることがあるという。
それが出現するのが試練獣撃破時なのだ。
「珍しいな。ありがたいことだ……アルマなら、それがなにかわかるか?」
「ちょっとまってね。【道具鑑定Ⅴ】……え?」
「どうしたのです? アルマ」
「あ、いや……タイムリーだなーって」
タイムリーという言葉に首を傾げる。
だが、その疑問はすぐに氷解した。
「丁度昨日話してたけどさ……これ、魔道具みたい」




