第十七話 第五、第六階層
第五階層に上がった直後だが、休息だ。
いつも通り〈栄養棒〉を使い……そして別のアイテムも取り出す。
「アルマ、それは?」
「〈妖精の揺り籠〉ってアイテムだよ」
取り出した石を見せながら、ザシャに答える。
ほのかに光を帯びた、綺麗な石だ。
「〈妖精の揺り籠〉? 揺り籠には見えないが」
「あはは。そうだよね。……これ自体が揺り籠っていうより、この石に宿っている魔法の力が揺り籠っていう感じかな。このアイテムを使ってから眠ると、疲労回復と魔力回復の効率が大幅に上昇するの」
「ほう? いいアイテムだな」
「有用そうなアイテムなのに、初めて聞きました。そのアイテムがあまり知られていない理由は何なのでしょう?」
ヴェイセルが関心を示したのも、アウラが疑問を持ったのも理解できる。
このアイテムは大変だ有用だ。だが、あまり存在を知られていない。
理由は単純だ。
「〈妖精の揺り籠〉はあまり見つからないんだ。そうだろう? アルマ。……結構値が張るのではないか?」
レティは妖精の揺り籠を知っていたらしい。レティは物知りだからなぁ。
「うん、そうだよ。〈妖精の揺り籠〉はあまり見つからないとされている。だから買うなら値が張るよ」
「そういう言い方するっつーことはだ……お前はそれを買わずに手に入れたってことか?」
「そうだよ、レオン。……私にとっては野外の依頼中に、割よく見かける程度のアイテムなんだ」
「滅多に見つからないとされているが、アルマにとってはよく見かけるアイテム。……つまり、例の認識拡張と探知のコンボがあればすぐに見つけられるってことか」
「うん、正解。このアイテムはね、普通の石に対して妖精が魔法を込めることで生まれるんだ。その魔法を掛けられた石は一時的に妖精にとってのベッドのようなものになる。で、妖精はその魔法をかけた石のなかで眠るの。……それで、石の外側は最初に妖精が寝た時点で力を失うんだけど、中心部には妖精の力が残る。その中心部が〈妖精の揺り籠〉になる。つまりアイテムとして使うのは石の中心部だけ。だから、妖精の揺り籠を探す場合は、その辺にある石を片っ端から割って確かめないといけないんだ」
「あー……それは大変だな。そして、アルマならそれをピンポイントで見つけることができるわけだ」
「正解!」
依頼のために【道具探知Ⅱ】を使うと、たまに発見するのだ。
そんなときは石を確保し、時間があるときに割って中身を取り出す。
「……『光輝の剣』にいた頃、それを売ってお金にしたりはしなかったのですか?」
「あはは、確かに売ればいい臨時収入になっただろうけど……ね」
「察したぞ。もしアンガスに、収入源を知られたりすれば、金儲けに利用されると思ったんだろう」
「……ザシャ正解。お金を得ても、アンガスに知られるとまずいから、あまりおおっぴらには使えない。それに売ってるところを見られたりするのも危なかったから」
いや、もう、ホント……毎度毎度アンガスに抑圧されていた話ばかりで申し訳ない。
まぁでも、それだけが理由でもない。
「それに、本当ならお金払ってでも買いたいような有用なアイテムだからね、持っておけばいずれ使えるだろうとも思っていたんだ」
「なるほどな。……じゃ、今回はそいつを有効活用させてもらおう。頼むぞ、アルマ」
「うん。……次に眠るときまで有効だから、最初の不寝番のザシャにもかけるね」
「頼む」
「じゃ、【道具使用】……そしてもう一個【道具使用】」
私は【範囲道具使用Ⅱ】までしか取っていないから、三人対象にしかアイテムを使えない。パーティ全員に掛けるのに二個使用する必要があるのはちょっともったいない気もした。
……とはいえ、全員に同じアイテムを使う機会というのは案外少ない。軍隊規模とかにアイテムを使う機会があるならともかく、私のようなパーティ戦の補助役なら、三人に掛けられれば十分な場合が多い。だから、【範囲道具使用Ⅱ】をⅢに上げるよりは、他のスキルを優先することにしている。
……たぶん、私が追い出されたときにアンガスが話していた公爵令嬢さんは、騎士団などにアイテムを使うことも想定しているのだろう。
「〈鍛冶神の爪〉とかあるけど、使う人いる?」
〈鍛冶神の爪〉というのは、壊れた武器を修理する消費アイテムだ。
地中から鉱石の形で見つかるアイテムであり、削って振りかけるだけで武器がみるみる修復される優れもの。……なお、当然【道具使用】で使う場合は削る必要も振りかける必要もない。
ちなみに、ただの手入れにも使えるが、そのために使うにはもったいないアイテムだ。基本は破損の修復用である。
「いや、俺の武器は問題ない」
「俺の盾もだな」
「俺も大丈夫だ」
「私も問題ありません」
「私はまだ杖に負荷がかかるようなことはしていないな」
「了解。じゃあこれは温存だね」
ま、分かっていた。みんなの武器はもっと深い階層で戦うためのものだ。単に〈鍛冶神の爪〉を持っていることを伝えておきたかったことと、みんな武器に問題が無いことを共有したかっただけだ。
「それじゃ、明日に備えて休もう」
ヴェイセルの言葉に従い、そのままみんな休む。うーん、やっぱり楽ばっかりしちゃってる感覚がしてくるなぁ。
※※※
第五階層はオークの群れがでてくる。
だが、数自体ははっきり言って少ない。
つまり、容易い相手だ。
みんなの得意なスキルが飛び、簡単に屠っていく。
ここでもサンプルを取得したが、やはり特殊な変化はなさげ。
そのまま予定通り進んで第五階層の試練獣。
何がでてくるかというと、オーガだ。
オーガの戦闘能力はここまでに出てきた敵とは一線を画す。
『導の煌星』のメンバーでも、スキルなしだと一対一では瞬殺できないだろう。
……まぁ、高位スキル使えば瞬殺だろうけど。
そういうわけで、みんな結構真面目に挑む。
で、『導の煌星』の面々が真面目に挑むのだから……哀れなオーガは瞬殺されるという結果になる。
一対一で瞬殺できなくても、五対一なら当然瞬殺だ。問題なく処理された。
※※※
第六階層に上がって再び休憩。栄養棒と妖精の揺り籠を使う。〈鍛冶神の爪〉は今回も不要。
第六階層の敵は基本的にはオークで、稀にオーガが混じる。
途中でオーガ一体とオーク八体という中々厄介な群れに遭遇した。
即座にオーガに対応するのはレオンとヴェイセル。
アウラはすぐにオークを一体仕留めた。ザシャも攻撃体勢に入っていることだろう。
「《氷束縛》」
「【道具即時取り出し☆】【道具使用】」
レティは視線を向けていた方向的に、恐らく四体のオークを足止めする気だろうと分かっていた。
なので、私が狙ったのは残り三体のオーク。恐らくどれかその内一体はザシャの標的だろうが、それがどれかは読み切れないので、三体全員が対象だ。
使ったアイテムは〈粘着玉〉。文字通り、対象を粘着させるアイテム。対象三体のオークの足を床に粘着させた。
レティの氷に比べればかなり弱い拘束だが……『導の煌星』の戦闘能力ならそれで十分。
ザシャとアウラは、レティの魔法を受けた四体はしばらく拘束できるので一旦無視して、私のアイテム効果を受けたオークを処理。その後でじっくりレティの魔法を受けたオークを処理した。
オーガの方は鉄壁の守りを持つレオンと、リーダーにしてアタッカーであるヴェイセル、二人の連携で簡単に処理された。無論、五人がかりだった五階層のボス戦よりは時間がかかったが、どうせほかメンバーはオークの処理をしていたので急ぐ意味はない。
「アルマ、いい援護だった」
「そうですね。レティとは狙う相手を相談していたのですか?」
「いや、アルマは私の視線から対象を読み、自分の攻撃対象を調整してくれたようだ。ありがとう」
「いやいや、当然のことをしたまでだよ。今までほとんど戦闘は見ているだけだったからね。ようやくちょっとだけ活躍のタイミングがあって良かった」
ちょっとした援護だというのに、優しく声を掛けてくれるみんなの心遣いがありがたい。
その後、この階層でもサンプルを確保。
第六階層のボス部屋へ。
今回の試練獣はオーガバーサーカー。
極めて凶暴かつ強靭な相手だ。
が、バーサーカーの名が示す通り、狂戦士である。
……頭があまり良くない猪突猛進な相手だ。しかも、凶暴かつ強靭といっても『導の煌星』からすると格下。
負ける道理の無い相手だ。
「【道具使用】」
こういう相手に有効なのが〈幻影宝珠〉。幻影を見せるアイテムだ。
【範囲道具使用Ⅱ】は道具効果を範囲化するスキルだが、結局範囲内であってもスキルに応じた上限数までの効果しか及ぼせない。Ⅱなら三つまで。
ここで上限数を超える対象が範囲内にある場合、ランダムな対象に効果が発生する。その効果対象を自分で決められるようにするのが【道具使用対象選択Ⅲ】のスキルだ。
〈幻影宝珠〉の場合は特に対象は無いとされているが、実のところ空間座標が対象だ。【道具使用対象選択Ⅲ】があれば、【範囲道具使用Ⅱ】で指定している範囲のどこに幻影を出すかが選べる。
今回幻影を出したのは、オーガバーサーカーのすぐ近く、正面だ。
こういう馬鹿はすぐにそちらに気を取られる。
大振りで幻影に殴りかかるオーガバーサーカー。
その隙にザシャは気配を消して移動を始め、ヴェイセルとレオンは接近、アウラとレティは攻撃を準備した。
幻影で稼げる時間は一瞬だ。
だが、『導の煌星』の実力なら、その一瞬の準備で圧倒的に優位な状況に持っていける。
幻影がオーガバーサーカーにすべて消された直後には、魔力矢と氷槍がオーガバーサーカーの肩に命中。破壊。
痛みに暴れ狂うオーガバーサーカーの蹴りをレオンが完璧に防ぎ、ヴェイセルが足の腱を切り裂いた。
オーガバーサーカーはそれでもなおも暴れようとしたが、もう手遅れだ。
ザシャのバックスタブでケリが付いた。
第六階層も問題なし。私も一応は戦闘に参加できて、ちょっと嬉しかった。




