第十四話 調査依頼
「さて、予定通り明日からダンジョンに入るわけだが……今回の探索について、ギルドから調査依頼を請け負うことになった」
「突然ですね。それは一体なぜ?」
高位の冒険者は、その所在をギルドが把握する必要がある。そのため、白金級以上の冒険者は、ダンジョン探索に赴く場合などは、出発日と帰還日の見込みを連絡をすることが推奨されていた。
そのため、ヴェイセルが冒険者ギルドにダンジョン探索へ行くことを連絡してきたのだが……何故か調査依頼を受けることになったらしい。
「『光輝の剣』が八階層で引き返した件の影響だな。普段十二階層まで潜る『光輝の剣』が八階層で引き返して来た。その話が広まってしまった結果、ダンジョンで何か良からぬことが起きているんじゃないかって噂になっているんだ」
「だが、『光輝の剣』は何かやべぇ状況にぶち当たったわけじゃないんだろ?」
レオンは疑問符を浮かべている。
当然だ。『光輝の剣』が八階層で引き返し……なおかつギルドに居た冒険者達に当たり散らした話は、既にかなり広まっていた。
そうなると、事の顛末は気になるもの。
多くの者達が『光輝の剣』が引き返すことになった原因に注目したしたのだが……結局、報告書に記されたのは、準備の不手際という単純な理由だった。
私はそれで話は終わったものだと思っていた。
だが、ヴェイセルによるともう一歩踏み込んだ噂が広まっているらしい。
「『光輝の剣』の報告だと、確かに準備に不手際があったことが原因となっているな。だが、その報告の様子がだいぶ投げやりだったらしくてな。例のギルドでの騒動があった翌日に、改めてアンガスが報告に行ったらしいんだが……別室でギルド長に直接報告してくれと言われたのに、その場で吐き捨てるように準備の不手際が原因だと言って、そのままギルドを去ったらしい。……そのせいで、本当は別の原因があるんじゃないかって噂になっているんだよ」
「なるほど……私達からすると、アンガスの態度はただ不貞腐れているだけで、八階層から引き返した原因はアルマが抜けたからだろうと想像できる。……だが、確かに他の者達はそういう考えには至らないだろう」
レティは納得した表情だけれど……遠回しに私が有能だと言われているようで、ちょっとむず痒い。
……それにしても、アンガスは相変わらずだ。
「低階層に異変が起きていないことはギルドも既に把握しているが、六階層以降は現状では調査できていないらしい。他のパーティも六階層以降に踏み込むのは今は避けているらしい。……で、今回十一階層へ挑む予定の俺達に、六階層以降に異変が無いかの調査依頼が回ってきたわけだ」
「報酬は?」
「金貨五十枚」
「中々美味しい話だな。……俺達からすると、特に問題が無いであろうことはわかっているわけだし」
ザシャの言葉に、私以外のみんなが頷いた。
私は……少しばかりギルドに申し訳無さを覚えている。
この状況は、私が『光輝の剣』のみんなに黙ってアイテムを使っていたことが遠因になっているかもしれない。そのせいで依頼が出されることになったのに、私が報酬を受け取る側に回ると、マッチポンプで稼いでいるような気分になる。
「調査は私達が体験した情報を報告書にまとめるだけで良いのですか?」
「いや、魔力サンプルを取るための宝珠を十二個渡された。これを使って、各階層の魔力サンプルを取って提出しなければならない。それと、当然報告書は報告書で必要だ」
「わかりました」
「そういうわけでアルマ、宝珠は預ける」
「〈魔力保存の宝珠〉だね了解だよ。確かに私なら、スキルですぐにサンプルが取れるからね」
この手の宝珠は普通は使うのにそこそこ準備がいる。
だが、アイテム士の【道具使用】なら一瞬だ。使ったら即座にサンプル取得済みの宝珠に変わってくれる。
「それを入れても荷物は問題ないか?」
「必須アイテムは問題ない。ただ、いくつか予備とかを減らさないといけないかな」
「わかった、その辺りの調整は任せる」
「了解」
そうして、必要な情報の共有も終わり、解散となった。
後は明日の出発に向け、各人毎最終確認だ。
※※※
そうして翌日。
私達の出発の日だ。
前回は私のための突発的な探索だったが、今回は本腰を入れた探索。
王都の冒険者にとって、一番の”冒険”はやはり王都地下ダンジョンの探索だ。
つまり、花形というやつだ。
今回は新たな階層に踏み出すことを目的とした、一番盛り上がるタイミングでもある。
冒険者は色々と裏で後ろ指を差される仕事ではあるが、こういうときのロマンは他の仕事では得られないものだ。
気合が入る。
無論、昨日突発で生えてきた仕事も忘れない。
熟せば臨時報酬も得られるのだ、ラッキーだと思おう。
……マッチポンプかもしれないけれど、許して欲しい。
なお、王都地下ダンジョンの入口は冒険者ギルドの管轄ではない。
王都地下ダンジョンは王家が直接管理しており、冒険者はそこに立ち入らせてもらっている感じだ。
王都の中心部に近い場所にダンジョン管理所というそのままの名前の建物があり、そこから地下へ降りる。
そこにある巨大な扉から、ダンジョンに入るのだ。
ダンジョン管理所の職員や衛兵とは、私達全員とっくに顔見知りだ。
だが、それでも毎度必ず律儀に手続きをして入ることになる。
まぁ、手続きといっても名前を書いて冒険者の証を見せるだけだけど。
今回もいつも通り手続きをして、私達は地下にある扉の前に立った。
「さて、じゃあ、行くぞ!」
「ええ、行きましょう」
「おう!」
「ああ」
「行こう」
「はい!」
言葉と共に、第一階層へと足を踏み入れる。
扉が開き、見慣れた地下迷宮が現れた。
人工のダンジョンであるため、洞窟などの天然系のダンジョンに比べると、造りがわかりやすい。
角は直角、部屋は四角。
床も壁も天上も、同じサイズの四角い石を組み合わせて作られている。
世界には、数日おきに廊下や部屋の位置が変わるという悪辣な魔法のダンジョンもあるそうだけれど……このダンジョンにはそんな仕掛けもない。
何度も来ていれば、道は覚える。
第一階層や第二階層ぐらいなら、目を閉じていても通過できるかも知れない。
「アルマ、魔力サンプルはある程度進んだところで取ろう」
「了解」
「それじゃ、行くぞ!」
言葉と共に歩き出す。無駄に走ったりはしない。無理をしないペースで進む。
第一階層の傾向だってみんな分かっている。どの辺りで魔物が襲いかかって来るかも。
「そろそろ最初のが来るかな」
「そうですね」
果たして、ヴェイセルとアウラの言う通り……ほぼ丁度のタイミングで、ゴブリン達が現れた。
「一応調査でもあるから、動きや強さがおかしくないかは注意しながら戦ってくれ。……まぁ、低階層は異常なしとギルドも判断しているから、この辺りは気にしすぎなくていいがな」
「了解! んじゃ、やりますかねぇ!」
ヴェイセルの注意を聞きつつ、レオンが走り出した。
合わせてみんなも動き出す。
今回はゴブリンが少なめだ。無理に私が前に出ても、邪魔になるだけだな。それよりは観察に専念しよう。
ゴブリン達はみんなの動きに全くついていけてなかった。
攻撃があたった際のダメージの受け方も、特に異常なし。
予想はできていたが、普通のゴブリンたちだ。何も変わったところはない。
「特に何もなさそうだな」
「予想通りにね」
肩を竦めるレティ。みんなもそれに頷いている。
ヴェイセルはそれに同調する。だが、すぐに弛緩しかけた雰囲気を引き締めるための言葉を続けた。
「とはいえ、まだ第一階層だ。今後がどうか、確定しているわけじゃない。油断せずに進もう」
そう、ここはダンジョン。一つのミスで命を落としかねない危険な場所だ。
適度な緊張感は保たなければならない。
改めて気を引き締めた私達は、ダンジョンの先へと進む。
そして、第一階層の中程で、私達は一度足を止めた。
「そろそろ良いか。……アルマ」
「うん、【道具即時取り出し☆】【道具使用】」
取り出した宝珠が、輝き出す。
元来簡易的な儀式を必要とするはずの宝珠は即座に効果を発揮し、元々の薄水色から、紫色へと変化した。
「これでサンプル一個目だな。よし、それじゃ後はいつもどおり第二階層を目指すぞ」
第一階層のサンプルを手に入れた私達は、次の階層へ向けて歩みを再開した。
調査依頼も、『導の煌星』到達階層更新も、まだまだ始まったばかりだ。




