第9話:王都の銀行買収と、カイルの『新・魔法体系』
皆様、第8話での「偽聖女マリアの社会的抹殺」への反響、ありがとうございます。
10億ギルの空売りで敵の資金源を枯渇させたリリアーヌ。
「……次は、この国の『血流』を止めましょうか」
ターゲットは王都最大の「中央王立銀行」。
カイルの「完全記憶」が過去の不正融資のログをすべて解析し、リリアーヌが民衆の「不安」を煽るドミノ倒しを開始します。
10歳の王子と悪役令嬢による、前代未聞の「国家銀行買収劇」。
第9話、システム・ダウン開始です。
「……リリアーヌ。準備は整ったよ。中央銀行の金庫の鍵は、物理的な金属じゃない。……人々の『信用』という名の、脆いプログラミングだ」
カイルが端末の画面を指で弾く。そこには、銀行がひた隠しにしてきた「貴族への無担保融資」と「紙幣の過剰発行」のシミュレーション結果が映し出されていた。
「……流石ですわ、カイル様。……では、私は『噂』という名のウイルスを流しましょうか」
私はハンスを呼び、王都中の酒場と市場に、ニルスが作った「魔導拡声器」を仕掛けさせた。
流すのは、たった一つの、しかし致命的な心理的毒物。
『――中央銀行の金庫は、もう空っぽらしいわよ』
心理学における『バンドワゴン効果』と『恐怖の伝染』。
一人が走り出せば、全員が走り出す。
翌朝、中央銀行の前には、自分の預金を下ろそうとする数万の民衆が押し寄せた。
「……な、何なんだこれは! 落ち着け! 金はある! 金はあるんだ!」
銀行総裁が叫ぶが、逆効果だ。
カイルが完全記憶から導き出した「最も不安を煽るキーワード」が、魔導通信網を通じて人々の脳内にリピートされる。
「……カイル様、仕上げをお願いしますわ」
「……了解。……世界初の『魔法プログラミング』による、高頻度取引(HFT)を開始するよ」
カイルが虚空に指で数式を描く。
彼が開発した『新・魔法体系(OS)』。
それは、詠唱を介さず、マナを直接「バイナリデータ」として処理する技術。
わずか0.1秒の間に、銀行の保有する全資産の権利が、複雑な転売を繰り返してリリアーヌの元へ集約されていく。
「……総裁。……もう、お疲れのようですわね?」
騒乱の渦中、私は優雅に銀行のバルコニーに現れた。
「……あなたの銀行は、今この瞬間、私の『アステリア商会』が買収いたしましたわ」
「……バ、バカな……! 100年の歴史がある銀行を、たった一日の騒動で……!」
「……歴史? ……そんなものは、カイル様の『完全記憶』の前では、ただの数バイトのデータに過ぎませんわ。……さあ、皆様! 預金は私がすべて保証いたします! 恐怖を捨て、私という『知略』に跪きなさい!」
民衆の怒号が、一瞬で歓声へと変わる。
心理学的な『吊り橋効果』と『救世主願望』の合致。
「……ふふ。……これで、この国の通貨発行権は私のもの。……王太子殿下は、明日からパン一つ買うのにも、私の許可が必要になりますわよ?」
カイルが、私の横で静かに笑った。
「……リリアーヌ。……君の心理戦と僕の理論、……やっぱり相性は最高だね」
第9話、いかがでしたでしょうか。
リリアーヌの「人心操作」と、カイルの「魔法プログラミング」による金融ハッキング。
王国の経済を完全に掌握し、もはや一令嬢の枠を超えた「影の支配者」としての地位を確立しました。




