第2話:10歳の死神と、再会する「怪物」
皆様、第1話での「王太子への論理的ざまぁ」への反響、ありがとうございます。
婚約破棄を言い渡され、夜会を後にしたリリアーヌ。
「追放先への道中、退屈しなくて済みそうですわ」
馬車を襲う暴漢を、扇子一本と心理学で自滅させた彼女の前に現れたのは、一人の少年。
弱冠10歳。冷徹な瞳。そして、前世の「一条蓮」を唯一苦しめた、あの『完全記憶の神童』の面影を持つ王子でした。
知略と技術が異世界で交差する、運命の第2話です。
王都から離れた街道。夕闇の中、私の馬車を止めたのは数人の暗殺者ではなく、たった一人の少年だった。
「……リリアーヌ・フォン・アステリア。君の『視線』、相変わらず鋭いね。右側から来る刺客の呼吸まで読んでるなんて」
月明かりの下、少年が不敵に笑う。
第3王子、カイル。
10歳という若さで、王国のあらゆる魔導書を暗記し、独学で新魔法を構築したとされる「死神」の異名を持つ神童だ。
「……あら、王子殿下。追放された女に、何の御用かしら? 私の『精神』を買い叩きにでもいらしたの?」
私が扇子を広げた瞬間、カイルが私の瞳を真っ直ぐに見つめて言い放った。
「……いいや。『一条蓮』。……君のその、左目の奥にある『負けず嫌いなバグ』を、僕のシステムにインストールしに来たんだよ」
私の思考が、一瞬だけ停止した。
……一条蓮。
前世の名前。それを知っているのは、私だけのはず。
「……あなた、今なんて言ったかしら?」
「……忘れたのかい? 2025年、秋。君が仕掛けた敵対的買収を、わずか30秒のハッキングで無効化した『ガキ』のことを」
少年の脳内にある『完全記憶』が、前世のデータを現世へとリンクさせる。
私は、思わず声を上げて笑ってしまった。
「……ふふ。……あはははは! まさか、あの生意気なCTO(最高技術責任者)が、こんな可愛い王子様になっているなんて!」
「……生意気なのはお互い様だろ、狂犬。……今の君は、魔力も地位もない『欠陥品(デバッグ対象)』だ。……でも、君の『心理学』があれば、僕の『完全記憶』は完成する」
カイルが小さな手を私に差し出す。
10歳の子供の手。けれど、その指先はすでに世界の理を掴んでいた。
「……リリアーヌ。僕と組まないかい? ……君が人心を掌握し、僕が世界のルールを書き換える。……このバグだらけの国家を、二人で『強制買収』してやるんだ」
「……いいわね。最高にわがままな提案だわ」
私は、その小さな手を強く握り返した。
断罪された悪役令嬢と、10歳の完全記憶王子。
前世で頂点を争った二人の「怪物」が、異世界の夜に、最悪で最高の契約を結んだ。
「……さあ、カイル。まずは私を追放したあの王都を、ハウマッチ(いくら)で買い叩けるか……計算してもらえるかしら?」
第2話、いかがでしたでしょうか。
ついに揃った最強の二人。
リリアーヌの「人心掌握」とカイルの「完全記憶」が組み合わさった時、異世界の常識は紙屑のように破り捨てられます。




