第18話:聖遺物の暴走と、異世界の特異点
皆様、第17話での「連合艦隊のデバッグ(殲滅)」への反響、ありがとうございます。
圧倒的な知略で旧世界の軍勢を退けたリリアーヌたち。
「……最後足掻きにしては、少々趣味が過ぎますわね」
敗北を悟った王太子エドワードが起動させたのは、古の神が残したとされる「聖遺物」。それは世界の理そのものを強制終了させ、すべてを無に帰す「削除コマンド」でした。
次元が歪み、アステリアの地が崩壊を始める中、カイルの「完全記憶」がその正体を見抜きます。
知略と技術で、世界の終焉をハッキングする第18話です。
「……リリアーヌ、離れろ! ……これは魔法じゃない。……この世界の『実行ファイル』そのものを破壊する、物理的なバグだ!」
沈みゆく旗艦の中心から、禍々しい漆黒の光が溢れ出した。
王太子エドワードが狂ったように笑いながら、石造りの古びた杯――聖遺物を掲げている。
光が触れる場所から、空も雲も、そして兵士たちの体さえもが「0と1」のノイズとなって消滅していく。
「……あら。……負けそうになったからといって、ゲームの電源を引き抜くなんて。……ビジネスマンとして最低の作戦ですわね、殿下」
私は、揺れる浮遊要塞のデッキで扇子を広げ、カイルの隣に立った。
要塞アステリアのシステムも、聖遺物の干渉を受けて次々とエラーを吐き出している。
「……カイル様。……あなたの『完全記憶』に、このバグの修正パッチ(解決策)は記録されていますこと?」
「……ああ。……過去の文献にあった『世界の終わり』の記述……あれは比喩じゃなかった。……この世界は、一定の負荷がかかるとリセットされる『自己防衛プログラム』を持っているんだ。……あの聖遺物は、その『強制終了スイッチ』だよ」
カイルが虚空に無数の魔法陣を展開する。だが、その計算速度を上回る速さで、世界が白く塗りつぶされていく。
「……ニルス! 予備の魔力をすべて僕の計算回路に回せ! ……リリアーヌ、君は……」
「……わかっていますわ。……『恐怖』に支配されたあの王太子の精神に介入し、スイッチを離させる……。……心理学における『逆説的介入』、試してみましょうか」
私は魔導端末を最大出力で稼働させ、崩壊しゆく旗艦へ自らの精神をダイレクトに投射した。
ノイズまみれの視界の先に、震えながら笑うエドワードが見える。
「……殿下。……すべてを消せば、あなたの『プライド』も、あなたが愛した『王座』も、二度と復元できませんわよ? ……あなたは今、自分の存在意義を自らデリートしようとしている……。……それは『勝利』ではなく、ただの『自己破産』ですわ」
「……だ、黙れ! 貴様に支配されるくらいなら、世界ごと……!」
「……いいえ。……あなたは、私に支配される『価値』すら失おうとしているの。……寂しいと思いませんこと? ……私という『怪物』の記憶から、あなたが消えてしまうのが」
心理学的な『喪失への恐怖』の煽り。
一瞬、エドワードの指が止まった。
「……今だ、カイル様!」
「……オーバーライト(上書き)! ――聖遺物の実行権限を、僕の『完全記憶』がジャックした!」
カイルが叫ぶと同時に、漆黒の光が青白い回路へと書き換えられ、暴走が収束していく。
だが、その代償として、浮遊要塞アステリアの動力源は限界を迎え、ゆっくりと地上の「約束の地」へと降下を始めた。
「……ふふ。……どうやら、空の上でのわがままは、ここまでですわね」
崩壊を免れた世界で、私たちは新しい時代の「着陸」を迎えようとしていた。
第18話、いかがでしたでしょうか。
世界の消滅を食い止めたリリアーヌとカイル。
しかし、聖遺物のハッキングにより、世界のシステムは「新しい管理者」を求めています。




