第12話:隣国の天才と、100億ギルのチェス
皆様、第11話での「異世界スマホ革命」への反響、ありがとうございます。
『アステリア・リンク』の普及により、民衆の思考を掌握したリリアーヌ。
「……私の庭に、土足で踏み込む不届き者がいるようですわね」
カイルが構築した難攻不落の暗号を、紙切れのように切り裂いてくる謎の通信。
その手法、そのリズム、そしてその傲慢なまでの「最適化」。
カイルの「完全記憶」が、前世の記憶の最深部から、ある一人の男のプロフィールを引き出します。
知略vs知略、王土を越えた「100億ギルのチェス」が始まります。
「……リリアーヌ。……今すぐ、通信回路の第4系統を遮断しろ。……侵食が速すぎる」
カイルの額に、初めて焦燥の汗が浮かんだ。
彼が操る「魔法ホログラム」のウィンドウが、次々と真っ赤な警告音を鳴らしながら、奇妙な『幾何学模様』に書き換えられていく。
「……どういうことですの? カイル様。……あなたの『完全記憶』による防御を突破できる存在など、この世界には……」
「……この世界には、いない。……でも、『あっちの世界』には一人だけいた。……僕を、数学オリンピックで万年2位に叩き落とした、あの化け物が」
ウィンドウに、一つのメッセージが浮かび上がる。
『――久しぶりだね、カイル。……そして、一条蓮。……君たちの低スペックな国家経営、見ていてあくびが出るよ』
「……この煽り方。……隣国の帝国軍師、シュナイダー……。……前世の、レオ(玲音)ね」
リリアーヌは、扇子を強く握りしめた。
玲音。かつて蓮の会社を技術力だけで時価総額100億ドルの頂点に押し上げ、そして、最も冷酷にライバルを潰した「論理の悪魔」。
『……リリアーヌ。……君が王都の銀行をハッキングして奪った10億ギル。……さっき、僕が全額『空売り』で消しておいたよ。……今の君のアセット(資産)は、ただの数字のゴミだ』
「なっ……!」
ハンスが手元の端末を確認し、絶叫した。
「……社長! 資金が……アステリア領の全口座が、凍結されています! ……どこからも引き出せない!」
「……ふふ。……面白いことをしてくれますわね」
リリアーヌの瞳に、冷徹な火が灯った。
心理学における『リアクタンス(抵抗)』。
自由を奪われ、窮地に追い込まれるほど、彼女の知略は「最適解」へと収束していく。
「……カイル様。……彼の『論理』が完璧なら、私たちは『感情』という名のバグを投げ込みましょう。……ニルス! 領内の魔導端末すべてに、緊急アップデートを。……機能は一つだけ。――『全住民による、隣国の全商品への不買運動』の自動決済機能よ」
「……リリアーヌ。……君は、経済を道連れに心中する気かい?」
カイルが口角を上げた。
「……いいえ。……シュナイダー(玲音)は、完璧な『利益』を求める。……なら、私は『合理的な損失』を彼に押し付けて、その裏で彼の国の『食料自給率』を買い叩くわ。……100億ギルのチェス。……先にチェックメイトされるのは、どちらかしら?」
異世界の空に、二つの巨大な「知能」が激突する。
魔法の杖ではなく、指先から放たれる「コード」と「戦略」が、国境線を書き換えていく。
第12話、いかがでしたでしょうか。
ついに現れた、前世からの宿敵・レオ!
カイルの「完全記憶」でも予測しきれない、現代数学を駆使したハッキングに対し、リリアーヌは「大衆心理」という制御不能のバグで対抗します。




