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公爵令嬢クラリスの矜持  作者: 福嶋莉佳
二章

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第15話

投稿遅れてすみません。

クラリスは屋敷に戻ると、そのまま足を止めなかった。


廊下をまっすぐ進む。


侍女が外套を預かろうと声をかけたが、耳に入らない。

足音だけが、静かな廊下に硬く響いた。


父の執務室の前では家令が一礼したが、クラリスは構わず扉の前に立つ。


「お父様、いらっしゃいますか」


返事を待たずに扉を開けた。


エルヴァン公爵は机の向こうで書類を見ていたが、顔を上げる。


「……クラリス? どうした」


クラリスはそのまま机の前まで歩み寄った。


「殿下の政務室に、クラーラ様がいらっしゃいました」


公爵の眉が、わずかに動く。


「それで?」


「殿下と二人きりでした」


クラリスは唇をきつく引き結んだ。


「婚約者がいるのに、政務室に令嬢を呼ぶなんて……!」


公爵はしばらく黙って娘を見ていた。

やがて、静かに口を開く。


「……それで。お前は、私に何をしろと言う」


「クラーラ様を、殿下の政務から遠ざけてください……!」


「……クラリス」


公爵の視線が、ゆっくりと細くなる。


「今の言葉を、もう一度言ってみろ」


クラリスの喉が、わずかに詰まる。


「クラーラ様を……」


言いかけて、止まった。


公爵は椅子の背に体を預ける。


「お前は、公爵家の娘だ。そして第二王子の婚約者でもある」


指先で、机を軽く叩いた。


「そのお前が、一人の令嬢を政務から排除しろと言うのか」


「……だって」


「いいか、クラリス」


公爵はゆっくり息を吐いた。


「王子が誰の意見を聞くかは、王子が決める。そこに口を出す権利は、父である私にもない。ましてお前には、なおさらだ」


「……でも」


クラリスは扇を握りしめる。


「殿下は……わたくしの婚約者なのに……」


「だからどうした」


クラリスの肩がわずかに揺れた。


公爵は続ける。


「婚約とは、何だと思っている」


クラリスは答えない。


「婚約とは約束だ。だが、所有ではない」


静かな声が、容赦なく落ちる。


「王子は王子だ。お前のものではない」


クラリスの扇が、ぎり、と鳴った。


「……では」


俯いたまま、かすれた声が落ちる。


「わたくしは、何なのですか」


「同盟だ。王家と公爵家のな」


クラリスは顔を上げられない。


「そして同盟とは、相手を縛るものではない。支えるものだ」


「支える……」


クラリスの指先が止まる。


「わたくしは……」


扇を握る手に、さらに力がこもった。


「……もう」


声が震える。


「支えて、裏切られるのは嫌ですわ……!」


言い切ると同時に、クラリスは踵を返した。


「クラリス」


公爵が呼ぶ。


だが、クラリスは止まらない。


扉を開け、そのまま部屋を出ていった。



王妃の私室。

午後の光が、静かに差し込んでいる。


侍女が一歩前に進み、頭を下げた。


「本日の報告でございます」


王妃は紅茶を手にしたまま頷く。


「申して」


侍女は続けた。


「本日、第二王子殿下の政務室にて――」


少しだけ言葉を選ぶ。


「エルヴァン公爵令嬢が、侍従の制止を振り切って入室されたとのことです」


王妃の手が止まる。

だが表情は変わらない。


「そう」


侍女は続ける。


「その際、政務室にはクラーラ様がいらしたそうで」


王妃はカップを置いた。


静かな音が響く。


「……それで?」


「しばらくして、クラリス様はお怒りの様子で退出されたと」


沈黙が落ちる。


王妃はゆっくりと息を吐いた。


「若い方は、情熱的ですこと」


侍女は何も言わない。


王妃は少しだけ微笑んだ。


「クラーラ様は?」


「そのまま政務のお話を続けておられたそうです」


「そう」


王妃は軽く頷く。


「では今度の茶会に、クラーラ様もお呼びなさい」


侍女が頭を下げる。


「かしこまりました」


王妃は窓の外を見る。

庭の向こうで、鳥が羽ばたいた。


「……さて、どう転ぶかしらね」



クラーラの部屋は静かだった。


窓辺の椅子に腰を下ろし、紅茶を口に運ぶ。

膝の上には開いた本があるが、ページはしばらく動いていない。


胸の奥に、気まずさが残っていた。


――わたくしが長居してしまったからかしら。


孤児院の話をしていただけだった。

それでも、あの場に自分がいたことで、空気が一気に冷えたのは確かだった。


クラリス様は、ひどくお怒りだった。


「けれど……」


小さくこぼした声は、部屋の静けさに溶ける。


殿下も、困っておられたのではないだろうか。


クラーラはそっと息をついた。

紅茶の湯気が、静かに揺れていた。

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― 新着の感想 ―
全方向に警戒心張り巡らせてないといけない未婚の貴族令嬢の立場でクラーラは考えが足りない&軽率すぎんか。気になる第二王子と孤児院のことばっかり。お互い婚約者もいる、しかもクラリスは以前王太子に裏切られて…
質の悪い女の典型ですね〜 でも一番しょうもないのは第二王子 人を置く位の采配取れなくてどうするの?
クラリス可哀想に… クラーラは、人畜無害なフリして嫌な女ですね。 何が「殿下も困ってらしたのではないか」だか。それを正当化してまた居座りそうでキモい。
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