4話 旅支度は早めに
「へ?・・・旅?」
突然放たれたお母さんの爆弾発言に、私は目をぱちくりさせてただただ固まってしまった。
今回のは人見知りとか緊張しているからではなく、完全に思考が停止してしまったのだ。
「そう、旅。王都まで、王都エルジーニアまでの一人旅よ」
「お母さん、それってどういう・・・」
「どういう?そうねぇ、王都のギルドで行われる試験には、お父さんに同行してもらおうかとも考えていたんだけれども、やっぱりそれじゃあ成長しないし、一人で全部できるようにならないとねって思ったの」
あ、これダメな奴だ・・・私死んじゃう、寂しくて死んじゃう。私が一人で旅なんかできるわけないじゃん・・・。それはお母さんが一番わかってることだよね・・・?
「お、母さん・・、なんで、そんなこと言うの‥?」
私の震え声の質問に、お母さんはさらりと答える。
「なんでって、・・・就活?」
疑問を疑問で返されても・・・。
「カナにはね、Aランクの魔法使用免許証を取ってきてもらうの」
「へぇ!お嬢さんってそんなに優秀な魔法使い・・・いや、魔女なんすか!」
「いいえ、実力でいうとDランクくらいになるわ」
それは私も初耳だった。てっきりC,Bランクはいってると思ってた。
周りで知っている魔法使い(魔女)はお母さんくらいだったから、比較対象が一人だけで平均がわからなかったのだ。
「つまりね、Aランクを取るまで旅して修行しなさいって言っているの」
私は今椅子に座っているけど、膝から崩れ落ちるような感覚がした。私を家から追い出すと言っているのと同じだったからだ。
助けを求めてお父さんの方を向くと、お母さんに同意とでもいうように頷いていた。
私が現状に絶望している中、私の一人旅が決定してしまったのであった。
私が落ち込むのがわかっていたのか、いなかったのか、食卓はだいぶしんみりしてしまった。
気を利かせようとしてくれたのか、ケニスが立ち上がった。
「ご、ご馳走さまっす!ジーンさん、今度の仕事のことでご相談があるんでいいっすか」
「ああ、そうだな。・・エレナ」
「ええ、わかってるわ」
お父さんとケニスが席を外し、私とお母さんだけがこの場に残った。
ーーーーーーーーーー
私から口を開く。
「お母さんは、私を追い出したいの?」
重く、そして暗く言葉を紡ぐ。
「それは言い方が悪いわ。お母さんはね、カナに自立して欲しいの」
「そんなの、同じじゃない」
「ええそうね、同じよね」
「・・・」
「でも追い出さなかったら、カナはどうするつもりだったの?」
わからない、ずっと考えてこなかった。ただひたすら書斎で本を読むだけで、考えたことなんてなかった。・・・・・いや、考えたくなかったんだ。お母さんがずっとそばにいて、お父さんがたまに帰ってきて、私はずっと本を読んで、・・・そんな日常がなくなるのが嫌だった。ずっと幸せでいたかった。
「ずっとこのままがよかった・・・。仕事なんてしたくないし、それに・・・お母さんと離れたくない!」
目を見てはっきりと言う。これが私の本心だって伝えるために。
「私って、・・・ほんと子供だよね」
「ええ、子供よ。まだまだお母さんに甘えたりない子供。でも、もう15歳になるわ。大人になるのよ」
なりたくない、大人になってしまうんなら魔法使用免許証なんていらない。
立派な魔女になることが小さい頃からの夢だったけど、もうそんなのにもなりたくない。
お母さんはお母さんで、私は子供。そういられるなら、いっそなにもいらないんだ。
けど、そんな私をお母さんは抱きしめた。立ち上がって、椅子に座っている私を後ろから、抱きしめた。
「ゆっくり考えなさい、まだ時間はあるわ。旅も強要しないし、ずっとここにいてもいい、自分で決めるの」
お母さんの腕は温かく、しっかりと私を包み込む。どこよりも、なによりも安心できる場所だ。
「・・・・・・うん」
私はまだ決められない。この抱きしめられるぬくもりを、ずっと感じていたい。
けど私は考える。考えて悩んで、知恵熱でも出して、そして絶対に答えを出す。そうすることを心に誓ったのだ。




