3話 人見知りは慣れるまで
「ねぇあなた、せっかくだからケニスさんを1日うちに泊めていきましょうよ。カナのいい刺激になるわ」
え・・・お母さん今なんて?ケニスさんをうちに泊めるとか言わなかった?私の聞き間違いであってほしいのだけれども・・・。
そんなことを考えていると、お父さんも口を開いた。
「確かにそうだな。ケニス、仕事は明日だったよな?ここから学校までは、ゆっくり歩いて半日もかからないから今日はうちに泊まっていけ」
「え、いいんすか?!めっちゃありがたいっす!」
「決まりね、そろそろお昼ごはんの時間だからみんなで食べましょう。カナも料理手伝ってね」
3人のやり取りに、私は呆然としている。
ピングまで私を残念そうな目で見てくる。
呆然と立っている私に、お母さんはまた口を開く。
「カナ、ケニスさんに挨拶なさい」
お母さんの急な無茶振りで私は固まってしまう。
「・・・あ、あの、私はか、カナ・・・チェミストです・・」
声が震えてしまった。
みんな揃って、私を残念そうな目で見てくる。それが更に私への威圧になって、・・・なんだかくらくらしてきた。
どうしてこうなったんだろう。
そんな圧のこもった目で私を見ないでぇ・・・。
「これは、・・・前より悪化していないか?」
「そうね、この一年は特に外出しなかったから、それでひどくなったのかもしれないわ」
「将来これじゃあ厳しいっすよ。お嬢さんは今おいくつなんです?」
三者三様の意見が私に刺さる。将来くらい何とかなるって・・・たぶん。
私は目を><(バッテン)にさせながら、ケニスの問いに声を絞り出す。
「14・・・です、赤緑の候で・・・15になります」
3人の圧で後ずさりしそうになるけど、ピングが後ろからおさえて私を睨む。
うぅ・・・・・完全に逃げられなくなった。
私が何をしたっていうのよ、こんな状況私には拷問でしかない。
大人3人に囲まれて普通でいられるわけがないじゃない!
私の発言にお父さんが反応する。
「む?カナはもう15歳になるのか」
「そうよ、もう”アレ”を取得できるとしなのよ」
”アレ”というのは私にもわかる。
この世界では、子供が商用に魔法を使うことは原則禁止とされていて、商用に魔法が使えるようになるには魔法使用免許証というものが必要になる。その魔法使用免許証を取得できるのが15歳以上の男女という訳なのである。
魔法使用免許証は国が各地のギルドと連携して執り行っていて、一季節に一度希望者を集めて簡単な試験と適正調査を行う。そして、合格して魔法使用免許証を受け取ると、はれて大人の魔法使いとして見られるようになるのだ。立派な魔法使いを目指す者として、これは一つの儀式であり、試練なのだ。
「魔法使用免許証のことっすね、自分も受けたことありますよ。まあ、適正が無かったから落ちたっすけど」
「取り合えずこの話はお昼ごはんのときにでもしましょう、立ち話もなんですし」
「そうだな。ケニス、俺の寝室に案内するから来い」
「了解です!ジーンさん」
私への視線はなくなり、私はそこにへたり込んだ。
ケニスがお父さんに連れられて行くのを見送り、私はお母さんの方に振り向いた。
「お母さんひどい!なんであんな提案するの!」
私はお母さんに声を荒げる。お母さんがなんで私の嫌がる提案をしたのかわからなかった。私が人見知りだと知って、初対面のケニスを家に泊めるなんて思わなかった。お母さんはずっと味方だと思ってたのに、それを裏切られたようで嫌だった。たぶん悲しかった。
「何よ、お客さんをうちに泊めるだけじゃない」
「私が初対面の人が苦手なことを知ってて、なんで人を招くの」
「じゃあ、カナはこれから出会うであろうたくさんの初対面の人と、どうやって接するのよ。まさか全部逃げるなんて言わないわよねぇ」
「うぐ・・・」
正論でしかない。
返す言葉もなく、私は黙り込んでしまう。
「取り合えずお昼ごはんにしましょう。ほら、手を洗ってきなさい」
「・・・はい」
渋々お母さんの言うことに従うしかなかった。
ーーーーーーーーーー
昼食はニンジンのスープだった。
4人で食卓を囲んで座る。お母さんが左でお父さんが正面、ケニスさんが右にいる。
3人が世間話やら仕事の近状やらを話している中、私は黙々とスープの中のニンジンを食べる。
せっかくお父さんが帰ってくる日で嬉しかったのに・・・これじゃあ台無しよ。
あーあ、気分下がるなー・・・。
スープのニンジンを食べ終わった頃だった。
「そういえば、カナはもうすぐ15歳になるわけだが、何かやりたい職はあるのか?」
お父さんが私に質問する。けど、私はうまく答えられない。一応やりたい仕事はあるんだけれども、とても曖昧なのだ。
ただ黙っているわけにもいかないから、取り合えず答えを述べる。
「う~ん・・、魔法で何かしたいかな。そこから先はまだわからない」
少しの食事時間の甲斐があってか、なんとか普通に喋ることはできるようになった。
それでも、まだケニスと喋るときは緊張してしまうけれど。
「それならやっぱり、魔法使用免許証は必要になるわね」
「そおっす、それもAランクの」
「ランク?なにそれ」
知らないことに疑問をぶつけてみる。
「あら、そういえばまだ教えてなかったわねぇ」
「せっかくだし、今全部教えてしまってはどうだ?」
「そうね、そうするわ」
「それがいいっす」
「・・・え」
不用心に質問するんじゃなかった!完全に授業モードだわ、3人とも目を光らせちゃってるよ・・・。
こうして私は、大人3人による魔法使用免許証取得試験の講義を受けることになってしまったのである。
3人の話をまとめてみると、こう。
まず、試験を受けた者はA~Eのランクで評価される。
Aは最高評価。魔法に関する全ての資格を持っているのと同じ扱いになる。Aランクさえあれば、魔法に関わるどんな仕事にでも就くことができるのだ。
Bは優良評価。魔法の使い方が良く、伸びしろがあれば魔法使いとして仕事が依頼されるようになれるレベル。
Cは平均評価。一般魔法使いとして見られるようになり、魔法使いを名乗ることも許されるようになるレベル。
Dは劣等評価。一応魔法の使用は認められるが、あまり魔法使いとしては扱ってもらえないレベル。
そしてEはというと、これは不合格のことを表すらしい。
ほとんどの人は初回はCかDで、Bをもらう人なんてなかなか出ない。ましてやAなんて、数年に一度しか出ないくらいなんそうだ。
因みに、一度合格した後でもランク上げのために再度挑戦することもかのうなんだそうで。
次に”新人魔法使い支援サービス”について。
D以上の合格者には、初回限定でいくつかのサービスがある。
まずは支援金30スマ。これは、上手くやりくりすれば一季節分の食費が賄える金額だ。これのためだけに試験を受けようとする一般人もいるんだとか。
そして便利グッズ配布。これは試験ごとに変わるから、今回が何なのかはわからない。ただ、ケニスが受けたときは低レベルの杖が配られたんだそうで。
最後は私も知っている、召喚魔法のサービスだ。これは新人魔法使いに一番重宝されているサービスで、なんとプロの召喚師協力のもと高度魔法である召喚魔法を使わせてもらえるのだ。
ただし、ここで使う召喚魔法は低級のもので、低級魔獣や妖精を中心とした弱いやつばかり召喚される。強いやつが召喚されるとそれは”あたり”と呼ばれ、ほかの魔法使いから羨ましがられるんだそうだ。まあ、強いやつはなかなか出ないから”あたり”なんだけどね。
因みにピングも元々はお母さんに召喚された魔獣で、当時はもっと小さくてかわいい毛玉だったそうだ。
今となってはあたりの魔獣に見えなくもないけど、当時は完全にはずれ扱いされていたようだ。
「ヘ~・・・。ナルホドネ・・・。フ~ン・・・」
別に話を聞いていないわけではないけど、現役教師の講義に圧倒されて生返事しか出ないのだ。
・・・長いなぁ。お母さんの話はわかりやすいし入り込めるからいいんだけど、とにかく終わりの兆しが見えない。
「だいたいそんな感じね」
「ほんと、懐かしいもんっすね~」
そんなことを考えていたら、ようやく講義が一段落ついたようだ。
ああ~・・・ずっと同じ体制でお尻のあたりが痛いや。
「それでね、今の話も関わってくることなんだけど、カナの将来について一つ提案があるの」
「げっ、提案・・・」
さっきのこともあり、お母さんの”提案”には身構えずにはいられなかった。
「なんとなく察しはつくが、その提案とは?」
「なんすか?なんすか?」
さっきみたいに私の人見知りを無理矢理克服させるようなのや、私の”ガラスハート”に圧をかけるような提案はやめてよね?
将来についてだから、もしかしたら職業の提案なのかもしれないけど。
そんなわたしの甘ったれた予想を、お母さんは大いに裏切りこう言い放ったのだ。
「それはね、カナにね・・・
しばらく、旅に出てもらおうと思うの」




