2話 父の帰宅にはお土産
「はい、朝ごはんおまたせ」
コトッ、コトッ、と木製のお皿が音を立てる。その度に私の食欲はそそられる。
今朝のご飯はベーコンエッグにトマトサラダ、そしてパン。なかなか豪華な献立に、私は内心歓喜していた。
「ありがとっ、いただきます」
「いただきます」
食事は極力みんなで食べることになっていて、朝もお母さんがちゃんと起きていればこうして2人で食べる。
それにしても今日の朝食は豪華だ。いつもはもっと簡素なもので、ひどいときはスープにつけて食べる用の堅いパンが1つなんてくらいだ。それに朝ごはんがないときだってある。
まあそれはだいたいお母さんが寝坊しているからなんだけど、今日の朝食が豪華なのには理由があった。
「今日だっけ?お父さんが帰ってくるのは」
「そうよ、早くて朝には帰れるかもって手紙にあったわ。それよりカナ、なんでまだ着替えてないのよ」
朝食のにおいに気を取られて忘れていた。
適当に誤魔化す。
「朝ごはんの後でもいいかなって思っただけ」
「はぁ・・、なんでもいいけど、お父さんが帰ってくる前には着替えておきなさいよ」
「は~い」
そう、今日はお父さんが帰ってくる日だ。
お父さんは王都の騎士団員で、副団長をしている。そのため王都に住み込みで働く必要がある、いわゆる単身赴任であった。
けど、年に一度だけ一季節分の休暇が得られる。そのときはこうしてシグル村のわが家へと帰ってくるという訳だ。
季節は赤、緑、橙、青の候と、それぞれの間に赤緑、緑橙、橙青、青赤の候。これら8つに分けられる。
一年間は500日、一季節はだいたい60日とちょっとになる。
王都からシグル村までは冒険者が歩いて20日はかかるが、お父さんは”ピング”に乗って来るから5日で済む。
ピングというのはうちのペットで、体長が私二人分弱の4足で走る白い魔獣だ。とにかく走るのが速く、大人2人くらいなら乗せられる力強さと体力もある。それに魔獣にしては結構賢い。
私はさっさと朝食を食べてしまい、部屋に戻って着替えることにした。
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お父さんが帰ってきたのは、結局昼頃だった。
「ただいま、2人とも居るかい」
「あなたおかえりなさい」
「ただいまエレナ」
帰ってきて早々にいちゃついてるよこの2人・・・まあ、例年ことだからいいんだけどさ。
短い茶髪に細くもないしっかりとした体型。深みのある声のこの男性こそ、わが家の主、ジーン・チェミスト。私のお父さんだ。
「ガルッ!」
「ピングもおかえり、ほれわしゃわしゃわしゃ」
「グルルル・・」
2人は置いといて私はピングを出迎える。
おとなしいもので、完全に私に遊ばれている。それを分かってか気持ちよさげな顔をしている。あとでブラッシンングしてあげよっと。
「カナも、ただいま」
「おかえりなさいお父さん」
約一年ぶりにチェミスト家3人+1匹が揃った瞬間だった。
「そういえばあなた、手紙には朝に帰れるかもってあったけど、何かあったの?」
「ああ、そのことなんだがな」
お父さんが何か話そうとしたところで、村の中央から誰かが走ってくるのが見えた。
「お、丁度いい。ケニス!早くこっち来い」
ケニスと呼ばれたその人は、まだ30歳にも満たなそうな黒髪の男性だった。
重そうな荷物を持ってこちらへ走ってくる。
「はいはい、きましたよー。あ、どうもっす」
「紹介する、ケニス・ロズールだ。俺の部下で、補佐をやってもらっている。」
「はっ、副団長のご説明通り、王都騎士団副団長補佐ケニス・ロズールであります!」
「ケニスに、仕事でこの先の魔法教育学校に用があるから乗せていってくれと頼まれてな、2人でピングに乗ってきたから少し時間がかかったんだ」
「あら、そう。ピング、おつかれさまね」
お母さんがピングの頭をなでてやると、ピングは気持ちよさそうに目を細める。
私はというと、居間の方に隠れて様子を見ていた。
なぜ隠れているかって?実は私、小さいころからあまり外に出ず家の書斎で本を読んで過ごしていたから、家族以外の人とふれあうことに免疫が無く、よく人見知りをするのだ。
特に年上には弱く、近所のおばさん達に囲まれて固まってしまったこともある。
そんなこととはつゆ知らず、ケニスは私に気づいて声をかけてきた。
「お嬢さんも、どうも」
「・・・」
こういうとき、なにをかえせばいいのか分からず固まってしまうのだ。
それを見かねたお母さんが私を助けてくれる。
「ケニスさん、娘はあまり外に出ないから初対面の人に免疫がないのよ。気を悪くしないでいただけるかしら」
「そうなんですか、それは失礼しやした」
お母さんありがとう!大好き!
お父さんの方に戻っていくケニスに、私は一息ついた。
そんな私を見るお母さんは、なぜか難しい顔をしていた。
「これは、どうにかしなきゃいけないわねぇ・・・」




