11話 夢は無ければ語れない
扉の向こうにいたのは、ローブを脱いで髪を下ろしたイムタだった。
「わ・・・な~んだ、カナじゃないか」
「それはこっちの台詞よ、相部屋だって言われて・・・不安だったんだから」
「おや、それはきみの中で僕が不安にならない存在になった、ってことかな。この短時間で」
「いや、まあ・・・さっきは守ってくれて助かったし、今唯一お喋りできる相手だし」
どういう存在かと聞かれても、まだ出会って少ししか話してない他人でもあるし、たまたま通りかかって私を助けてくれた人、ってくらいだろう。
「あ、そうだよ!さっきのことを説明してくれよ!」
「さっき・・・あ~、はいはい」
ちょっと忘れかけていた。たぶん小声でやり取りをしていたときの、”あのこと”だろう。
「私が、全部の属性が使えるってことについてよね。・・・どこから話せばいいかしら?」
「じゃあ、いくつか質問に答えてくれ」
「そうね、わかったわ」
イムタをまだ荷物を広げていない私の部屋に案内し、椅子に座らせた。私はベッドに座る。
「まず、なんで全部の属性が使えるんだ?」
人にはそれぞれ魔法の適性がある。適性がないと基本的に魔法は使えない。
普通、適性のある属性は1人につき1~3つだ。属性は全部で6つ、火、水、土、風、氷、そして音。つまり、大抵は多くてもこの内の半分の属性しか使うことができないというわけである。
しかし、私は全て使えた。6つの属性に適性があったのだ。イムタはそのことについて訊いている。
「一番は、お母さんが音以外の属性を持っていたことかな」
「へぇ、それじゃあ遺伝の可能性が高いわけか。じゃあ、音はどうやって?」
音。音属性は、感情と感覚をつかさどる属性だ。決して、空気の振動を指しているわけではない。
五感に触れ、感情を操り、意思を飛ばす、そういう属性だ。
「私、今までずっと家で読書をしていたから」
作者の意を読み取る。それは音属性の適性を付けるのに、とても有効であった。
「成る程なー・・・。もしかして詠唱もそれで?」
「ええ、読書で全部憶えた」
私の知識は全て読書から来ているのだ。
「まさかAランクになれる人と出会えるなんて、思ってもみなかったよ」
「ん?どういうこと?」
「あれ?知らなかったかい?魔法使用免許証のAランクは、4つ以上の属性に適性がないといけないんだ」
「そ・・・そうだったんだ」
それは知らなかった。
「因みに僕は風属性だけ。風しか使えない」
「けど、イムタの魔法は中級以上じゃない。低級の私より断然いいわよ」
「それでも、駄目だ。使える属性が1つっていうのは、レパートリーが無いってことなんだ。就活に不利すぎる」
ちょっと落ち込ませてしまったみたいだ。さすがに私も悪いと感じる。
「・・・ご、ごめんなさい」
「いや、いいんだ、謝らないでくれ。それに、さっきカナとメイルシュトロームを放ったとき、すっごく楽しかった!はじめて風属性以外を使えて、めっちゃ嬉しかった」
水風複合上級魔法、カナが水属性を使えたから成功した魔法だが、魔法を操ったのはイムタだ。
「人と協力すれば、風以外もできるんだ」
イムタは自らの金髪に負けないくらいの、眩しい笑顔をしていた。
ーーーーーーーーーー
私達は、どうやって王都エルジーニアまで行くか相談をしていた。
「王都まではバスを使わないか?」
「いいけど、・・・高くないわよね?」
ここモレントと王都エルジーニア間には、バスが運行していた。
バスは季節のはじめと半ば頃の、2回だけ利用できる。
私達の狙い目は、赤緑の候最初のバスだ。それに乗れば王都までは3日で着き、ちょうど試験の数日前に王都へたどり着けるのだ。
「問題ない、決まりだね」
「じゃあ、この町を出るのは・・・10日後?」
「そうだね、詳細日時は明日調べるけどだいたいはそれくらいかな」
それは、赤緑の候まであとそれくらいということでもあった。私たちは15歳になり、大人の仲間入りをするのだ。
それを思ったのか私はこんな話を切り出す。
「イムタはさあ、将来のことって考えたことある?」
「僕の将来かい?それは魔法の研究者になることさ」
「研究者?」
「そう、研究者。未だ解き明かされていない魔法を研究して、この手で解き明かすんだ」
世界には謎に包まれた魔法が、数多く眠っているといわれている。
それは伝説上の魔法だったり、詠唱の解明されない魔法だったりする。
「僕は魔法が好きなんだ。属性に適性が無くても知りたいと思う」
適性が無ければ魔法は使えない、それでもイムタは知りたいと言う。それほどまでに、イムタの思いは強かった。
「カナはどうなんだい?僕は話したよ」
「私は・・・まだわからない。魔法で何かをしたいけど、まだ考えつかないの」
イムタは将来やりたいことがあるのに、私にはまだ無い。同い年のはずなのに、イムタの方が1歩大人な気がした。
「だから、取り敢えずAランクを目指す。そしてAランクになって、それから考える。そのために旅をするの。・・・なんか、イムタの後に言ったからかっこ悪いね」
「いいじゃん、僕はカッコいいと思うよ。ちゃんと道があって、目指す高みがあって」
「そう?・・・ありがと」
まだイムタに負けていて悔しいけど、イムタに話してよかったと、私はそう思いながらちょっとだけ照れていた。




