10話 いつの間にか仲良くなってるもの
「・・・今だ!」
私はそれを合図に詠唱をはじめる。
「ラウト・ニュイオン・ホヅ・デクファニーズ・シュナ・アナイシブ・ナグデリーダジーズロムス・ヴィズナ・ラックグート・ヒュニップ・・・」
全部の属性が使える。それは、言い方を変えれば”全部の属性の詠唱を熟知している”ということになる。
魔法は、詠唱を憶えて唱え、宣言をして発動する。しかしその魔法の属性に適性が無ければ魔法は発動しない。故に魔法使いは、適性の無い属性の詠唱を憶えることをしない。
逆を言えば、属性に適性があるのならばその属性の詠唱を憶え、宣言で発動することができる、ということになる。
私は全ての属性に適性があった。けど魔力制御が上手くいかないから、宣言が苦手だから、全部が低級の質になってしまう。
だからイムタは私に提案した。
「なんだぁ?詠唱なんかしてぇ。詠唱しないと魔法が使えないお子ちゃまじゃねーか!!ぎゃあはははぁ!」
私の詠唱と魔力をイムタに供給すれば、イムタは上級魔法を使えると。
「さっさと金目のものを置いて、ママのミルクでも吸ってろってんだ!ぎゃははは・・・」
「「 メイルシュトローム(水風複合上級魔法)!! 」」
グォォォオオォォオォォォオオオォォオオオォォオオォオオオオオオ!!!!
「「「「「 ぎぃやぁぁあぁぁぁああぁあああぁあああああ!!! 」」」」」
私達を囲むように潮水を含んだ吹き上がる突風は、宗教家達を押し上げながら天高く昇っていく。
私が発動し、イムタが操った水風複合上級魔法、メイルシュトロームだ。
やがて宗教家達の声は聞こえなくなり、少しの間、潮の雨が辺りを濡らした。
「何とか追い払ったね」
「うぅ、なんか気分悪い」
宗教家達は見えなくなるくらい高く飛んだ。どこかに落っこちて、きっと絶命している。
「大丈夫?シグル村にいたきみにはわからないと思うけど、この辺じゃあこれが普通のことなんだよ。さっきだって、僕たちはもしかしたら殺されていたかもしれない。殺されるよりももっとひどいことをされていたかもしれない。だからこれくらいは正当防衛なのさ」
「はぁ・・・信じられない」
私はあまり良い気分はしなかった。人殺しをして、普通でいられるわけがなかった。
なのにイムタは平然としている。私にはそう見える。
イムタには私と違う何かがあった。その何かが私には許せないのだと思った。
「そういうものなの?この辺じゃあ」
「ああ、そうだ」
「・・・」
私はその事実を受け止めるしか無いと感じた。これから旅をしていく中で、一番大きな障害になると感じたからだ。
「とりあえず、場所変えよっか」
「・・・・ええ」
さすがの騒ぎに、人が集まり始めている。
イムタは私の手を引いて、この場を離れた。
ーーーーーーーーーー
私達はようやく宿にたどり着いた。
私は部屋を取るべく受付へ、イムタは一端荷物を置いてくると部屋へ、それぞれ別行動をすることになった。
さっきのこともあってか、私は少し1人になりたかった。
「あ、あの・・・部屋、空いてます・・・か?」
やはりまだぎこちない。早いとこ克服しておかないと、本当に不便だ。
「1人ですね、それでしたら一部屋だけ空きがございますので、そちらへどうぞ」
よかった、やり取りだけはうまく済んだ。
「ただこちらのお部屋ですが、お隣のお部屋と扉1枚で繋がっておりまして、少し相部屋のようになってしまっています」
あれ、お隣さんと相部屋になってしまったみたいだ。
嫌だなぁ・・・せっかく部屋なら1人になれると思ったのに。まあ、部屋がそこしかないって言うなら仕方がない。
私はその部屋を取ることにする。
「・・・はい、そこで・・・いいです」
「そうですか、ではこちらへどうぞー」
案内されたのは、宿の一番奥にある部屋だった。
私は受付の人から鍵をもらい、部屋に入る。
さっそく荷物を放り投げ、フカフカのベッドに大の字で飛び込む。
「ふかふか~・・・久しぶり~・・・」
昨日までは硬いとこの上に寝ていたため、久しぶりのベッドはとても心地よかった。思わずニヘラとしてしまう。
しばらくベッドの上でゴロゴロして、ようやく落ち着いてきた。
すると、そんな私の快楽を邪魔するかのように、例の隣と繋がっている扉から声が聞こえてきた。
「すみませーん、隣室のものです。こちらの扉ですが、お互いにプライベート不可侵としたいので、開けないようにお願いしますー」
私の方も不可侵にしたかったし、扉のむこうの人もそうだったようで安心できる。
しかし、私は扉を開けるべく、ノブに手をかけた。
開けないようにと言われたにもかかわらず、不可侵にしようと言われたにもかかわらず、私はドアを開ける。
開けるべきだと感じたから、開けなければならないと思ったから。
なぜならその扉の先にいたのは
ガチャッ!
「うわあぁっ!!」
聞き覚えのある声、綺麗な金髪。
「やっぱり、・・・イムタだ!」




