8話 運の善し悪しは同じくらい
赤の光が消えた大陸を、人はジーニア大陸と呼ぶ。
ある日ジーニア大陸に、邪悪な召喚師が現れた。
邪悪な召喚師は自らの命の半分を代償に大悪魔を召喚し、地に放った。
ジーニア大陸の人々はなすすべなく大悪魔の前に倒れ、いくつもの村が滅んだ。
そのとき、一人の魔女が舞い降りた。
魔女は赤く輝く魔法を使い、見事大悪魔を打ち取った。
なすすべのなくなった召喚師も魔女によって倒され、ジーニア大陸には再び平和が戻ったとさ。
「すごーい!魔女さんすごーい!」
「そうね、すごいわねぇ」
「ねぇねぇ魔女さんはそのあとどうなったの?」
「言い伝えではね、魔女さんは名前も名乗らずすぐにどこかへ飛んでっちゃったの」
「ええーっ、なんでなんでー?せっかく人気者になれるのにー」
「それはね、もしかしたら次のお話に関係してくるのかもしれないの」
「んー?」
「また今度のお楽しみってことよ」
「ぶーぶー、もっとお話ししてよー」
「だーめ、早く寝ないと魔女さんみたいになれないわよー」
「ええっ?!やだやだ、カナ早く寝るもん!魔女さんみたいになるもん!」
「フフフッ、・・じゃあ目を瞑って、おやすみなさい」
「おやすみなさい、お母さん・・・」
・・・・・
・・・
・
・
・・・
・・・・・
「どこ・・・ここ・・」
目が覚めた私は、草原の上にいた。
私がさまよっていたはずの森や、あの真っ赤な祠はどこにもない。
足下に目をやると、ちゃんとリュックがある。服も着ている。
あれは悪い夢だったのだろうか、なんとも腑に落ちない。
しかし私は、夢の中で言われた言葉の一つがどうも気になっていた。
ーーー4つの色を集めなさい。既にあなたは1つを見つけたーーー
私は“色”を1つ見つけているらしい。その”色”と言うのがなんなのかはよくわからない。
もしかしたら、あの祠のことを言っているのかもしれない。あれは、いかにもな”赤色”だった。
う~ん・・・わかんないなぁ。本当は誰かの幻影魔法によるイタズラっていうのもあり得るし・・・。
お金や食料の確認をしながらそんなことを考える。すると、ランプの横に煌めく何かがあった。
祠で眠ろうとしたとき、邪魔になるからと砂利や小石を集めておいたちょうどその位置に、祠と同じ”赤色”のきれいな石がころがっていた。
宝石のようなその石は形の整った楕円で、私の手に収まってしまうほど小さかった。よく見ると、うっすら紋様が描かれている。
「・・・魔石?」
確かに魔石に見えなくもない。
魔石とは常に魔力を放つ石のことで、魔道具等に重宝されているものだ。
しかしこの石からは魔力を感じられない。
魔石でないと何だろう・・・まあ、わからないから魔石ってことにしておく。
この魔石が”色”でないとも限らないし、なんかまだ気味が悪いけどローブの胸ポケットにしまっておくことにした。
違ったのであれば売ればいいし。
私は荷物を整え、地図を開いた。もちろん現在地を確認するためだ。近くの地形を見て地図上の該当する場所を探す。
するとあることに気づく。近くに町があるのだ。それも、旅の途中に立ち寄ろうかとも思っていた町。
本当はあと5日後にたどり着く予定だった王都に一番近い町、モレントがそこにはあった。
私が寝ている間に、だいぶ飛ばされていたようだった。いい方向に。
そうなると、あの夢は単なる夢じゃないのかもしれないと思えてきてしまう。
まだ半信半疑のことだけど、頭の片隅に入れておこうかと・・・あ、そうだ!
手帳にメモをしておくことにした。
メモを取りながら歩くことは無いようにと自分に言い聞かせ、私はモレントに足を運ぶのだった。
ーーーーーーーーーー
モレントは賑わいを見せていた。
商店街では客引き合戦が行われ、町を歩く人は挨拶を交わし合い、子供達は無邪気に走り回っていた。
私のいたシグル村には無いものが、既にそこには広がっていた。
小さい頃に一度だけ、お母さんに連れられて来たことはあるが、そのときの感動が今再び蘇った気がした。
・・・ついでに恐怖も。
「モレントへようこそ!旅の方よ」
「わわぁっ!・・・ど、どうも」
村の入り口付近にいた人に、すれ違いざまに声をかけられた。
「キャベツはどうだい!安くしとくよ!」
「うぇぇっ!・・・い、いえいえ、結構です」
今度は八百屋さんのおじさんに。
「うぇーい!逃ーげろーー」
「あ!待ってボクもーー!」
「うわぁっ!・・・」
「バウッ!ワウッ!」
「ひゃあぁっ!・・・」
・・・・・・・・
ピングみたいな見た目の、家庭用の小型の動物にまで狼狽えてしまった。
こ・・・こんなところにいたら、私、死んじゃうかもしれない・・・。
今私は、人目を避けようと路地裏に来ている。
早いところ宿を探してそこに避難したい。しかし宿を探すには、さっきの人だかりの中を歩かなければいけなくなる。
勇気を出して路地裏から出るか、日が沈むまでここでやり過ごすか、私はこの二択で葛藤していた。
どうしたものかと考えていると、私に2つの影が迫ってきた。
「おい、そこの嬢ちゃんよ」
「うへぁぁっ!・・・は、はい!・・?」
見事なまでにスキンヘッドな2人は、がたいがよく服は汚い、路地裏の荒くれ達だった。
荒くれはニヤニヤしながら私に迫ってくる。
「へっへっへ・・」
「その荷物だいぶ重そうじゃねぇかよ」
「・・・」
「俺らが運ぶの手伝ってやっからよぉ、その荷物をこっちによこしな」
「その大きな杖もなぁ・・へっへっへ・・・」
完全に私の荷物が狙われている。
後ずさりで逃げようとするが、むこうもこちらに近づいてくる。
「あ、・・ああんまり・・・い、いいものはありませんよ・・?」
震え声で涙目の私に、荒くれは更に迫る。
「いいじゃねーかよぉ、ちょっと手伝ってやるだけだぜ?」
「そうそう、手伝うだけ手伝うだけ・・へっへっへ・・・」
「・・う、うぅ・・」
もうあと数歩で私が捕まってしまう。
そのとき
「ウィンズド(風属性魔法)!」
ビュォオオオ!!
「ぐわああぁぁあぁっ!!」
「げあああぁあぁぁっ!!」
突然後ろから私の横を突風が通り、荒くれ2人を吹き飛ばしていった。
「くそっ!魔法使いか!おい、一旦引くぞ!」
「あ、ああ・・・お、おぼえてろよー!!」
逃げ足が速く、すぐにどこかへ行ってしまった。
荒くれはよく物語に出てくるが、まさかここまで・・・捨て台詞まで一致しているとは思わなかった。
そんなことを思っている私に、今の風を放った主が声をかける。
「きみ、大丈夫?怪我は無い?」
「は、はい、・・・大丈夫です、助かり・・・ました」
「それはよかった」
白いローブに細く短い杖、金に輝く長い髪は後ろでまとめて上げている。
私くらいの歳の少年が、そこにはいた。




