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森で拾われたちびっこ魔術師、辺境騎士団で今日もお手伝いします! ~生活魔法しか使えない僕ですが、なぜかみんなに褒められます~  作者: 桜塚あお華
第01章 森で拾われた小さな魔術師

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第07話 洗濯もできます

 

 砦の半分をぴかぴかにした次の日――ぼくには、新しいお手伝いが見つかった。


「…………いっぱい」


 目の前に、大きな山がある。

 でも、土の山でも石の山でもない。

 服だ――白いシャツに、黒っぽいズボン。騎士さんたちが着ている制服。それから大きな布や靴下まで、大きな籠から溢れて床にまで積み上がっている。


「これ、ぜんぶお洗濯なの?」

「ああ」


 近くにいた騎士さんが、げっそりした顔で頷いた。


「昨日の訓練と討伐で、一気に増えちまってな」

「たいへん?」

「そりゃもう大変だ。百人以上いるからな」

「ひゃくにん……」


 そうだった。ここには、とってもたくさんの騎士さんがいる。

 ということは、毎日とってもたくさんの洗濯物が出るんだ。


「いつもどうしてるの?」

「当番で洗うんだよ」


 騎士さんが遠い目をした。


「手で?」

「ああ」

「これ全部?」

「……ああ」

「かわいそう……」


 ぼくは洗濯物の山を見上げた。

 おばあちゃんと二人だった頃でも洗濯は少し大変だったのに、それを百人分なんて。


「ぼく、やる!」

「え?」

「お洗濯!」

「いやいやいや、さすがにこれは無理だって。お前みたいな小さい子じゃ――」

「だいじょうぶ!」

「でもなぁ」

「ぼく、お洗濯得意!」


 胸を張りながら答えた。

 お掃除も上手にできたから、きっとお洗濯も役に立てるはずだ。


「昨日、ガルドおじさんも危なくないお手伝いならいいって言ってたもん」

「団長が?」

「うん!」

「…………なら、まあ」


 騎士さんが困ったように頭を掻いて、ぼくを見た。


「無理はするなよ?」

「はーい!」


 許可をもらった。ぼくは早速、洗濯物の山の前にしゃがみ込む。

 一枚、手に取ってみた。


「わ、泥だらけだ」


 そのように言いながら、洗濯物を見つめる。


「あれ? 袖が破れてる」

「ああ。それは昨日の討伐でやられたやつだな」

「着られないの?」

「縫えば使えるだろうけど、あれだけ裂けてるとなあ。補修係に回すしかない」

「ふーん……」


 おばあちゃんの服もたまに破れていて、そのたびにお洗濯ついでに直していたけれど。


「じゃあ、一緒でいいね」

「ん?」

「なんでもない!」


 破れた服も山へ戻した。

 汚れたものは、まとめてきれいにお掃除すればいい。


「よーし!ちょっと離れててね」

「お、おう」


 ぼくは杖を取り出した。

 昨日のお掃除は風が強すぎたから、今日はちゃんと加減しよう。


「きれいにして……」


 汚れを落とす。汗の匂いもなくし、そして破れたところも元通り。

 お日さまの匂いがするくらい、ふわふわにする。


「《洗濯》!」


 次の瞬間、ぽうっ、と杖の先から淡い光が広がり、洗濯物の山を包み込んだ。


「おお……?」


 騎士さんが声を漏らす。

 泥が消え、黒ずんでいた襟が白くなり、汗や血の染みもするすると消えていく。

 そして――びりびりに裂けていた袖が、ひとりでに動き出した。


 ――しゅる、しゅるる。


 糸が伸びるように布が繋がっていく。

 穴の開いていたズボンも、ほつれたシャツも、全部元通りだ。

 最後に、ふわっと温かい風が吹いた。


「できた!」


 洗濯物の山から、お日さまみたいないい匂いがする。

 ふふっと笑いながらぼくはおじさんのところを振り向いた。


「…………」

「おじさん?」

「…………」

「終わったよ?」

「……ちょっと待ってくれ」


 騎士さんが一枚の制服を持ち上げた。

 それはさっき袖が破れていた服だ。


「これ……」

「きれいになったでしょ?」

「そうじゃない」

「?」

「直ってる」

「うん」

「なんで?」

「お洗濯したから」

「洗濯で服は直らねえよ!」

「えっ、直らないの?」

「普通はな!」

「…………」


 それは、知らなかった。

 おばあちゃんの服はいつも直っていたから、お洗濯ってそういうものだと思っていた。


「でも、破れたままだと困るよ?」

「そりゃ困るけど!」


 騎士さんが頭を抱えたその時。


「朝から何を騒いでいる」

「あ」

「ガルドおじさん!」


 聞き覚えのある低い声とともに、ガルドおじさんとカイルお兄ちゃんがやってきた。


「おはよう!」

「ああ……リオ、今度は何をした」

「今度はって何?」

「……いや、いい」


 ガルドおじさんが洗濯物を見る。


「これは?」

「お洗濯したの!」

「そうか」


 昨日のことがあったからか、今日はあまり驚かなかった。


「――団長」


 騎士さんが制服を差し出した。


「こいつ、昨日の討伐で裂けた制服です」

「ああ、覚えている」

「見てください」

「…………」


 ガルドおじさんが服を見て、しばらく黙った。


「……新品か?」

「昨日まで俺が着てたやつです」

「…………」


 ガルドおじさんが、ゆっくりぼくを見る。

 静かに、何かを訴えるかのように。


「リオ」

「はい!」

「何をした」

「だから、お洗濯だよ?」

「洗濯で破れた服は直らん」

「そうみたい」

「今知ったのか」

「うん!」


 ガルドおじさんが額を押さえた。

 カイルお兄ちゃんは別の服を確認している。


「団長、こっちもです」

「何だ」

「穴がなくなってます。それに、このズボンも」

「……全部か?」

「はい、多分」


 いつの間にか、ほかの騎士さんたちも集まっていた。


「おい、これ俺の制服だ!」

「昨日、魔物に裂かれたやつだぞ!?」

「こっちは血の染みまで消えてる!」

「待て、俺の靴下の穴も塞がってる!」

「それはどうでもいいだろ!」


 みんながワイワイと騒ぎ始めた。

 ぼくはちょっと嬉しくなる。


「役に立った?」

「…………」

「……立った」

「ものすごく立った」

「本当?」

「ああ!」

「やった!」


 ぼくは両手を上げた。


「じゃあ、これから毎日ぼくがお洗濯するね!」

「待て」


 笑顔でそういったのに、ガルドおじさんに止められた。


「なに?」

「毎日はしなくていい」

「でも、いっぱい出るよ?」

「だからといって、お前一人に任せるわけには――」

「団長」


 騎士さんが真剣な顔で言った。


「何だ」

「……お願いしてもいいんじゃないでしょうか?」

「お前」

「俺たちの自由時間が二時間は増えます」

「団長」

「駄目だ」

「団長!」

「子供に百人分の洗濯を押しつけるな!」


 ガルドおじさんのその言葉を聞いて、騎士さんたちとしょんぼりしてしまった。


「だいじょうぶだよ?」

「お前も乗るんじゃない!」

「でも、ぜんぜん疲れないよ?」

「そういう問題ではない!」

「じゃあ、たまに?」

「…………」

「お手伝いで」

「…………」

「…………だめ?」


 いつの間にか、悲しくなっちゃった。

 僕の目には少しだけ、涙が出ていたみたい。

 ガルドおじさんが黙り、カイルお兄ちゃんが笑いを堪える。


「団長、昨日と同じ顔してますよ」

「うるさい」


 長い長いため息が吐き出された。


「……たまにだ」

「やった!」

「毎日は駄目だぞ」

「はーい!」


 ぼくが元気よく返事をすると、周りの騎士さんたちから小さな歓声が上がった。


「よっしゃ!」

「洗濯当番から解放される日が!」

「リオ様!」

「様をつけるな!」


 ガルドおじさんの怒鳴り声が響き、みんなが笑った。ぼくも一緒に笑う。

 お掃除の次は、お洗濯、ちゃんとみんなの役に立てた。

 おばあちゃん、ぼく、ここでもちゃんとお仕事できてるよ。

 そう思っていたら。


 ――ぐううう……。


「…………」

「うう……お腹すいた」


 恥ずかしくなって、ぼくはお腹を押さえた。

 カイルお兄ちゃんが吹き出す。


「そういや、まだ朝飯前だったな」

「朝ごはん?」

「ああ、食堂へ行こうぜ」

「しょくどう?」

「みんなで飯を食べる場所だよ」

「みんなで?」


 百人の騎士さんたちと?


「行きたい!」

「よし、決まりだ」


 ぼくはカイルお兄ちゃんの言葉を聞いて、笑顔になるのだった。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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