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09 霜の怪獣

 生物もロボットも、大きくなるほどに力と寿命が増す。

 ただ逆にエネルギー効率と機動力は低下する傾向にある。


 それは、サイズが二倍になると質量が八倍になるからだ。

 だから、大きな力を必要としない限り、巨大化は効率が悪いと言える。


 具体的に言えば、ノミは自身の二百倍のジャンプができるが、バッタは30倍と言われている。

 ネズミは自身の五倍以上のジャンプができるが、象は二倍も跳べない。


 その為に、プロジェクトヨトゥンでは、ロバサイズのボディしか作らなかった。

 それは、研究を続けるのに人間用施設のサイズを変える必要が出る事と、生まれくる子供達に対応する為でもある。


 【霜の巨人(ヨトゥン)】と銘打っているが、実際には【霜の怪獣】といったところだろうか?


 当然だが、そんな彼等が屋外移動する時は車両を利用する。

 強靭な身体を持っていても、雪に埋もれては身動きができないからだ。


 勿論、比較的晴れた日にしか行動できないが、彼等の雪上車は少し変わっていた。

 使用者がケンタウロスだから運転席が工夫されているとかではなく、雪上車の屋根には、太陽電池板の様な物が広げられている点だ。


 そもそも運転席が改造されていないのは、自動運転が普及し終わった世界でコンピュータを内蔵した彼等なら、運転席に座らなくともコネクタを繋いだだけで運転できてしまうからだ。


 物資と設備が不足している地上では、ガソリン車は使えない。

 充電式の電気自動車では移動範囲がかぎられる。

 宇宙すら曇った現代の地上では太陽電池板の電力で車を動かす事ができない。


 だが衛星軌道ならば、以前より効率が劣るとは言え、太陽電池板で膨大なエネルギーを得る事ができたのだ。

 20世紀には既に実験されているが、衛星から指向性電磁波(マイクロウェーブ)で電力を送る方法が存在する。

 当時は特定の施設にエネルギーを送る実験だったが、この時期には移動物に送る事も可能だった。

 もっとも、移動物への照射技術開発は、敵戦力に対する攻撃目的で開発されたのだが。


 マイクロウェーブ電力供給は、言わば電子レンジと同じで、高出力での被照射点では水分を加熱してしまう。

 なので受信システムか、ちゃんとした保護対策(シールド)がないと焼け死ぬのだった。

 ただ、高出力でないと雪雲を透過できないのでは有るが。


 この移動物照射は電波通信による座標指定が可能なので、雪上車には電波発信器とマイクロウェーブ受信パネルが取り付けられている訳だった。

 雪上車を操縦している者も少なからずマイクロウェーブの影響を受けるが、電子レンジ使用者も経験がある通り、金属製のボディはマイクロウェーブを弾いてしまうので、生物でない彼等には影響が皆無と言える。


「水分の無いボディとは言え、劣化は有るから、いつ機能停止するのか分からないけどな」

「その為のバックアップじゃないか?」


 ヨトゥン達には故意に本能をインストールされていない。

 彼等に有るのは記憶と目的意識だけだと言って良い。


 そして、ヨトゥンのコンピュータにインストールされたソレは、当然コピーが可能で、同じ記憶と意思のヨトゥンの複数複製が可能なのだった。

 ただ、物資とエネルギーの関係で、非常時のバックアップとして保存されている事が多いが。


「まぁ、そのバックアップが有るからこそ、今の自分を犠牲にしてでも目的を達成しようとできるんだがな」


 それは、親が子に後を託して死地に赴くのに近いかも知れない。

 後を託せる存在がある者は、限界以上の活躍をみせる事がある。


「それでも、無理をして二度手間三度手間になる事はやめようぜ」

「そうだな。確かに合理的じゃないな」


 今回、彼等が向かっているのは、イギリスの遺伝子保存施設だ。

 彼等の研究所には研究用の精子と卵子しかなく、自国の遺伝子保存施設では種類が多くなかったのだ。


 生物の繁栄には、その多様性が不可欠と言える。

 人類の未来の為には、少しでも多種の遺伝子が必要となる。


「とは言っても、まさか雪上車で海を渡るとはね?凍結のお陰様って事か」

「『不幸中の幸い』とか東洋では言うらしいぜ」


 普通なら、船や飛行機を使うイギリス渡航だが、海まで凍っていれば車両でも行ける。

 加えて、衛星からの電力供給で、燃料の心配も、搭乗者の生命(エネルギー)維持も心配ないのである。

 場所の調査とサンプル入手の使命を帯びた二人は、既に二週間の移動をこなしていた。


 精子バンクや卵子バンクは、先進国の多くで行われていたが、彼等がイギリスを選んだのはソコが精子バンクとしても卵子バンクとしてもHFEA(ヒト受精・胚研究認可局)と言う政府機関として、厳格に法制化・管理されていると有名だったからと、地理的に近いからだ。


 最大手としてはアメリカが考えられるが、流石に大西洋を雪上車で踏破するのは耐久力的に無理がある。


「もうすぐサテライトブランクで30分ほど休憩だ。今のうちに充電をしておけ」

「俺達の身体は、スリープモードなら2日くらい大丈夫じゃないか?」

「何事も備えておくに越した事は無いだろう?」


 今回の災害では、衛星軌道と言えど全てが無事だった訳ではない。

 天体の元となる宇宙雲には濃淡があり、中には小惑星程度に固まった物もあったので、衝突事故も発生したのだ。

 地上にマイクロウェーブを送る衛星も例外ではなく、遠方の制止衛生幾つかと、移動ばかりしている低軌道衛星しか彼等は手中に納められなかった。

 その為に、上空に衛星が希少な時間帯が存在し、高出力電力供給には空白時間が発生してしまうのだ。


 次に、ヨトゥンの様に移動するロボットの一番の問題点は、バッテリー残量だ。


 彼等のボディには、高性能コンピュータに加えて、数十のサーボモータでできている。

 これらの稼働は消費電力が多く、またかなりの重量となるので、長時間動かす為には大容量バッテリーが必要となる。

 当然、大容量バッテリーも重たくなり、ソレを積んで動く為のサーボモータには更なる高出力が求められる。

 新調された大型高出力サーボは更なる大電力を必要とし、重量も増すので、更なる大容量が必要となる悪循環が発生するのだ。


 つまり、高性能と稼働時間は反比例する。


 解決策は決して大きくないバッテリーで小まめに充電するか、有線による安定電源からの給電だ。


 施設内での彼等は、天井から伸びたケーブルによって常時給電されているが、屋外活動や給電サービスエリア外ではバッテリーを使う事も有るのだ。

 雪上車でも、雪上車からの有線給電を行っているが、非常時に備えてヨトゥンボディへの充電を重視した。


「イギリスの陸地に近づいたので、生存者のコロニーも有るだろう。可能性は低いが、盗賊に対応する必要が出た時に我々の稼働時間を確保したいからな」


 この様な非常時では、生き残った者が正義だ。


 その為に他者の私財を奪ったりするのは悪ではない。

 自分達の命の為に、他者の命を奪うのは、食物連鎖と同じ事なのだ。


「この雪上車に食料は無いし、我々が居なければエネルギー供給もできないんだがな」

「襲う方は、そんな事知っちゃあいないさ」


 仮に『偵察部隊』と看板を立てていても、物資輸送の盗賊避けとして信じないだろうし、雪上車の外見が多少おかしくとも奪えば使えると、襲う方は考えるだろう。

 雪上車が止まったのは運転手が疲れたのだろうから、襲うならチャンスと考える。


 だからヨトゥン達がすべきは、動ける様になるまで盗賊達を近付けない事だ。


「一応は機関銃(サブマシンガン)有るから、ドア開けて掃射してみるか?」

「無駄弾使うのはなぁ~。雪上車のカメラだけ有線で使えないかな?アレって俺等の目より高性能だから、スノーカモパーカーが見つけやすいだろ?」

「でも、配線戻すのが面倒だな」


 そもそもが技術者の彼等は『できない』とは言わない。

 だが、後始末をしたがらないのも、開発者のアルアルなのだ。


「サテライトブランクが終わるまで、籠城するって策はダメか?」

「その間に、アンテナやパネルを壊されたら、どうするんだ?」

「確かにな」


 サテライトブランクが終わって、再びマイクロウェーブが到達すれば、雪上車の周囲に居る生物は焼け死ぬ。

 だが、資材収集として壊されでは、任務の続行ができなくなる。

 

 結局彼等は、雪上車のカメラを身体に繋ぎ、近付く者に明確な威嚇射撃をして目的地へ向かったのだった。



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