↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/16

07 地下鉄コロニーC

 高等生物に見られる、【精通】や【初潮】と呼ばれる身体変化は、その個体の生殖機能が準備を終えつつあると言う表れである。

 日本の戦国時代に14・15歳程を【成人】とした事から見て、昔はソノ頃だったのだろう。

 時代が移り変わり、食文化の充実とともに肉体の成長が早くなり、近年では早ければ9歳くらいから生殖準備が整いだす様だ。


 生殖機能が働きだすと、ホルモンの関係で性的肉体へと変化を始めて、御互いに異性を気にしだすのは、精神と肉体が本能に影響を受けているからに他ならない。


 適齢期を迎えているミサキとアキラも、例外なく異性を求めているが、人生経験や恋愛経験の少なさから、上手く求愛行動がとれていなかった。

 だが、周囲の経験豊富な大人達の中には子供達とは違い、その行動の意味を理解できた者が居たりする。


「何だ?アキラはミサキちゃんと結婚するんじゃ無いのか?」

「ミサキぃ?義父(とう)さん、俺が何でアイツと?」


 アキラに問い質(といただ)したのは、シングルマザーであるアキラの母親と結婚した男だ。

 男も女も、誰かと一緒に暮らす方が精神的に安定するし、独身者に一部屋をあてがう程に住居も無いので、地域としても同居や結婚を推奨している。

 一家族の構成数が増えるほど、トイレや家具などの寿命は短くなるが総数の消耗は少なくなり、メンテナンス件数も減る。

 それに、昼夜の区別が無く三交代制の地下生活では、子供の外出と夫婦の夜の営みの時間調整が容易なのだ。


 そう言った環境も有って、【大量生産大量消費】ではない時代では「適齢期になったら独立」ではなく、親と子供夫婦の同居が当たり前となっている。


「ミサキちゃんとは幼馴染みだし、歳も近い。けっこう仲良くしてたじゃないか?」

「腐れ縁で、かまってやってただけさ。まぁ、ミサキの方がどうしてもって言うなら考えなくもないが」


 義父は少し首を傾げた。


「じゃあ、誰なら良いんだ?そろそろナターシャに孫の顔を見せてやらないと」

「結婚とか、まだ早えぇよ」


 確かに世代によって価値観や適齢期は変化する。しかし、義父は周りを見る人だった。


「そんな事は無いだろう?母さんだって、お前の歳じゃ産んでたらしいし、近所のゴロウだって二歳児が居るじゃないか?母親譲りのイケメンなのに」


 言われてみれば、アキラと同じシフトの同年代でも、八割以上が既婚者で半分以上に子供が居る。

 だが彼には、コレと言って興味を引く女性が居なかったし、言い寄られた事も無い。


 実は周囲の女性は、アキラがミサキに惚れていると感じて、彼には声を出さなかったのだ。


 人間、自分の事は見えなくても、他人の事は見えていたりする。

 そして女性と言うものは、どんなに魅力的な事でも、失敗する可能性が高い行為を避けるものなのだ。

 だから恋愛に関しても、女性側から声を掛けるのはハシタナイとし、男性側から求愛するのが当たり前という風潮を社会に広めている。

 【男女平等】とか言って、「男なんだから」と一番差別しているのは女性に他ならないが、多くの男性が【愛】故にソレを容認しているのだから仕方がないが。


「お前が、そんな風だから、ミサキちゃんが他所(よそ)に行くって言ってるんじゃないのか?」

「他所って何だよ?」 

「知らないのか?ミサキちゃんの発電所への移動申請が通ったって話だよ。向こうの親父さんなんか、泣いて止めたらしいが」

「発電所?聞いてないんだが?・・・本当かよ・・・・」


 アキラにとっては寝耳に水だった。

 ミサキの事なら何でも知ってると過信していただけに、そのショックは大きい。


義父(とう)さん。俺、ちょっと出てくるわ」

「明日も仕事だろ?遅くなるなよ」

「分かってるって」


 義息子の行き先を予見して、義理とは言え父親な男は、アキラの後ろ姿を見ながら笑みを浮かべた。


 アキラの行き先は、勿論ミサキの家だ。

 地下鉄車両を利用した住居には、多くの改造が成されている。

 左右に開く扉には電子鍵が付けられ、そこには呼び鈴も付いている。


「クソッ!居ないのか?それとも、もう寝てるのか?」


 扉は施錠され、呼び鈴はスリープモードらしく、何度押しても無音となっている。

 24時間サイクルの生活では睡眠時の防音はシッカリしており、ビタミンD補給の為の紫外線浴ボックスで寝る為に、屋外から声を掛けても届かない。


 この状態で解錠できるのは、家族が持っているセキュリティガードか、保安部だけだ。

 個人的な緊急事態に保安部は動いてくれないだろう。


「他をあたってみるか?」


 除雪の仕事が終わって間もないので、アキラは家族全員が外出中な事に賭けた。

 ミサキの家を背にした彼は、彼女を探しに行こうとして数歩歩いて立ち止まる。


「って、何処に居るんだ?アイツ」


 アキラは今更ながら気が付いた。

 ここ数年、彼はミサキにチョッカイを出してはいたが、ろくに話もしていない事に。

 彼女の事を遠目には見ていたが、そうそう付け回していたわけでもない。


「子供の頃に遊んだ場所・・には行かないだろうな?最近のアイツは、何をしていたんだ?」


 ここにも幼稚園や学校の様に、子供を預かったり教育する施設は有る。

 アキラ達も子供の頃は皆で遊ぶ為に、休みの日でも入り浸っていた場所だ。

 しかし、人の趣味は、年齢と共に変わる場合が多い。

 特に青年期から大人になる際には社会を知り、変化が著しい。

 『お父さんのお嫁さんになる』と言っていた娘が『お父さんの服と一緒に洗濯しないで』と言い出したり、母親から離れだす息子が居たりするのも一例だろう。

 当然、同世代の異性に対する行動も変化する。


「ミサキが俺から離れて行くのか?この胸のモヤモヤは・・・そうか、義父さんの言っていた事か・・」


 アキラは、自分がミサキにしてきた行為と、今の自分の自覚。ミサキが、そんなアキラの行動にに対して取る行動について考えた。


 客観的に見ればミサキにとってアキラは、既に【嫌な幼馴染み】でしかない。

 先日の様な晴天が発生する【夏】は、この時代では移動の時期でもあるので、時間をかけた関係改善は無理だろう。


「いまからでも、少しでもミサキに優しく・・・しても気味悪がられるだけだよな。移動の事を俺に言うとは思えないから知らないふりをして、又聞きしても素っ気ない素振りをするのが今までの俺らしいか?」


 下手に想いを告げて、彼女にモヤモヤした気持ちで旅立たせるより、彼女にとって想定内の関係で出発させようとアキラは決心を固めた。


 地球中が氷に閉ざされようとも、季節は移り変わる。


 地下に埋もれようとも、人間関係も移り変わる様だ。

 アキラの初恋は、自覚と同時に終わりを告げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。