第98話 女帝グルーヴ
翌日、俺たちはブロディさんの鍛冶工房にやって来た。目的はもちろん、シーザリオとメサイアの防具類の購入と、購入した防具類を金と純白に塗装するという依頼のためである。
「こんにちは」
「おう!!がはははっ、ハヤト!!また女が増えてるじゃねぇか!!」
「あはははっ、まあ、成り行きで。こちらの女性がシーザリオ。王家で筆頭魔術師をやっています。もう一人がメサイア。シーザリオの従者的存在ですが、公爵家のお嬢様でもあります」
二人がブロディさんに向かって優雅に微笑む。
ブロディさんはメサイアの顔をじっと見つめる。
「公爵家…エアディドール家じゃろ?」
『ニカッ』と笑いメサイアに向かって言った。
『えっ!?』
俺とメサイアは驚くが…
「以前、グルーヴ様にな、剣を打った事があるんじゃよ。嬢ちゃんはグルーヴ様の若い時にそっくりじゃから、すぐに分かったぞい!!」
ブロディさんは懐かしむように、遠くを見つめながら言った。
「母に剣を…それは『イカズチ』という名の剣ではありませんか?」
「おぉ、嬢ちゃんは知っとるんか!!」
「はい。母が我が家の宝と言って、大切にしている剣ですから…」
「わはははっ、グルーヴ様が大切にか!!わしが剣を渡した時『まあまあの出来であるな』と、憎たらしいまでの『すまし顔』をして言っておったのにな!!」
「申し訳ありません。母は何分、ああゆう性格ですから…」
「がはははっ、気にしちゃいねぇ!!わしは剣を大切にしてくれているんじゃったら、それだけでいいんじゃよ」
「ありがとうございます」
ブロディさんは自分が打った剣が大切に扱われている事を知り、とても嬉しそうに笑っていた。
そして上機嫌のブロディさんは俺の顔を見て『ニヤリッ』と笑った。
「それにしても王家筆頭魔術師と公爵家のお嬢様か、ハヤト、なかなかの大物を連れて来たな」
「アレグリアがベガに招待をしたので、その時、知り合いになって…」
「ところで、何でお前の事を様付けで呼んでるんじゃ?」
「一応、婚約者になったので…」
「婚約者!?王家筆頭魔術師か公爵家の嬢ちゃんか、どっちだ!?」
「…どっちもです。ただし、メサイアの親、つまり公爵様と母親のグルーヴ様にはまだ挨拶はしていません」
「なるほど、王都へ行くわけはそれじゃな?」
「まあ、目的の一つではありますね」
「…お前も大変じゃな」
「今から胃が痛む思いですよ」
「まだ両親にも挨拶をしてない、つまりは会った事もないのか…。婚約者というのも、二人だけで決めた事なんじゃな?」
「はい。だから、許してもらえるかは分かりませんね」
ブロディさんは少し間を置き言う。
「がははは!!ハヤト、今の公爵様はたしか騎士爵の出で、その剣の実力が先代の公爵様に認められて婿に入ったはず。そうじゃろ、公爵家のお嬢ちゃん?」
「はい。その通りです」
「わしも噂でじゃが、親しみやすいと話を聞いた事がある。問題はないじゃろう。じゃが…」
ブロディさんは苦笑いを浮かべる
「グルーブ様は面倒くさいぞい!!」
俺の顔を見て心底『同情するぞ!!』という顔をしながら言った。
それを聞いたメサイアも苦笑いを浮かべている。
そして…
「お母様は良くも悪くも『これぞ貴族!!』という性格をしています。決して傲慢という事ではないのですが、人の意見を聞きません。あと、娘の私が言うのもなんですが、能力も非常に高いものを持っています。特に剣の実力は、剣豪・剣聖・剣客…様々な呼び名で呼ばれています。おそらくこの国の中でも頂点だと思われます」
しかし、そう言った後、メサイアは顔を曇らせ『有能がゆえに、他人を下に見てしまうのです。領民はもちろんの事、エアディドール家に使える者たちや家族までも…基本『あなたたちは私の言う事に従っていればいい。意見など聞く必要はない!!』という姿勢なので…』と続ける。
さらに…
「他家にはもちろんの事、王家にまでも言いたい事を遠慮なしに言うので、エアディドール家を嫌う者も多いのです。特に後継者と見られている王子二人とは折り合いが悪い。一部では、病気がちの国王にもしもの事があったら『反旗を翻すのでは?』と言われています」
メサイアは何ともいえない複雑な顔をして言った。
「反旗って…まさか。噂だよね?」
俺は心底『面倒くせぇ~!!』と思いながら聞く。
「それが噂とも言い切れないのですよ。最近になって、やたら武器を買い集めているという噂が聞こえてきます」
シーザリオが心配そうに答える。
「本当!?内戦でも始めるつもりなのか!?」
俺は思わず大きな声を出すが…
「現王が御存命のうちは大丈夫でしょう。しかし…逆に言えば、もしもの事があれば『何かが起こってもおかしくはない』とも言えるかもしれません」
シーザリオは目を閉じ答えた。
「はあぁぁぁ~、娘の私でも、お母様の考えている事は分かりません。全てを独断で決めますから…。あっ!?当然ですが、公爵のお父様にも事後報告で、相談もほとんどしません」
メサイアは深いため息を付き、憂い顔をして言ったのだった。
【グルーヴの寝室にて…】
グルーヴは全裸でうつ伏せになって横たわっている。
薄暗い部屋の中、妖しげな裸体がローソクの炎に照らされている。
お付きの者が三人がかりでマッサージをしている。オイルを垂らし一人が足を、一人が腕を、そしてもう一人が腰から背中にかけてを丹念に揉み解している。
「ふうぅぅぅ~、年は取りたくないものじゃ。最近は肌の潤いが無くなり『カサカサ』になるばかりじゃ。少し体を動かせばすぐに疲れるしのう。あぁ…若返る方法など無いものか」
グルーヴはしみじみと言う。
「何をおっしゃいますか。グルーヴ様は全女性の憧れでございます。こんなに白く美しい肌、シミの一つもございません。まだ三十代でございます。エアディドール家に使える者たちは、もうお一人期待しております」
「ナナにはかなわぬ。じゃが、子供は…もしかしてだが、メサイアが生んでくれるかもしれぬぞ」
「メサイア様が?」
「ふふふっ」
グルーヴはナナと呼ばれる女従者に手紙を見せた。
「まあ、メサイア様が婚約者を連れて!?」
「ふふふっ、ナナ。まだ婚約者ではない。私は認めておらぬ!!我がエアディドール家に名を連ねるのにふさわしい者か、私が見定めなければ認められぬ!!」
グルーヴは仰向けになり、惜しげも無く巨乳をさらす。
もう一度、愛娘からの手紙を読み返す。
「エアディドールは武闘派。私が直に剣を取り、見定めてくれる!!」
グルーヴは手紙をローソクに近づける。
手紙が燃え上がると『ニヤリッ』と笑うのであった。




