第95話 名づけの意図、なんてないのに…
夕方になり、アレグリアとウオッカが帰って来て、みんなで夕食を取る。今日は王都へ出発する話があったので、ファレノプシスとブエナも同席してもらった。
その席でアレグリアが『今日はギルドでウオッカさんとパーティーの登録をしていたの。パーティーの名前もハヤトに付けてもらったし、これからガンガン稼ぎまくるわ!!』と、息巻いて話をする。
その瞳は未来への希望に満ちていた。
しかしジュリアは…
「あまり無理をしないでね。お母さんはあなたが元気でさえいてくれたなら、それでいいんだから…」
母親の顔を覗かせる。
「ジュリアさん、お任せください!!TCLのリーダーとして、私が責任をもってパーティーの運営方針を決めていきます。決して無理はさせませんから、安心してください」
ファレノプシスがジュリアを気遣うように言った。
ジュリアは微笑むが、その表情からは母親としての不安の色は消えないのであった。
「ところでファレノプシス。そのTCLというのは…なに?」
シーザリオが興味深そうな顔をして聞く。
「あっ!!それは…」
ファレノプシスが説明をしようとしたところ…
「ふふふっ、それは私が説明をします!!」
アレグリアが『ニヤリッ』と不敵な笑みを浮かべながら立ち上がった。
そして『TCLとは…桃備えのウオッカ!!』と言い、ウオッカに向けて指をさし、決めポーズを取った。
しかし当のウオッカは、アレグリアの言葉など無視をして食事に夢中であった。
「………もう!!しょうがないんだから!!」
アレグリアはボヤキながらも続ける。
「リーダーは青備えのファレノプシス!!そして私、赤備えのアレグリア!!三人の美女がそれぞれの色を持つ冒険者パーティー!!その名はスリーカラーレディース(three color ladies)!!!!!略してTCLよ!!!!!ハヤトが私たちのために名付けてくれたの!!」
ドヤ顔でアレグリアは宣言する。
静まるダイニングでは、ウオッカの食事をかき込む音だけが響き渡る。
すると…
『カッコいい!!』
アパパネとブエナの年少組が立ち上がって、アレグリアに憧れの視線を送る。
しかし、ジュリアはそんな愛娘を見て…
「もう…この娘ったら…」
自分の事のように顔を赤くし、恥ずかしそうに呟いた。
『……………』
なぜか質問したシーザリオとメサイアは無表情。しかも若干ではあるが、イラついている感じが見て取れる。
微妙な空気が流れる。
「私たちが仕事をしている間に修練をしているのかと思えば…TCL?ふんっ!!」
「なんかハヤト様に名付けてもらったといって、浮ついていませんかね?」
アレグリアに向かい毒舌を飛ばすシーザリオとメサイア。どうやら、俺に名づけをしてもらったというのが気に食わなかったらしい。
アレグリアもそうだが、俺も二人の対応に戸惑った。
しかしここで…
「シーザリオ様とメサイア様、なぜハヤト様がスリーカラーレディースという名前にしたのか…。お二人にはその理由がお分かりにならないのですか?」
リスグラシューが二人に向かって問いただす。
「理由…?それは3人の女性冒険者がパーティーを組むからでしょう?」
怪訝な顔をして、シーザリオが答えた。
「私もそうとしか…ハヤト様、何か隠された理由でもあるのですか?」
メサイアが不思議そうな顔をして、俺に聞いてきた。
「えっ!?それは…単なる思い付き…」
俺が言いかけたところで…
「シーザリオ様!!メサイア様!!今、ハヤト様のなさる事に、いちいち説明を求めている様では、この先がとても心配になります。ハヤト様のなさる事には、すべて深い理由があるのです。私たちはハヤト様の考えを自ら読み取り、ハヤト様の負担にならないように行動をしなければなりません!!こんな事が理解できていないとは…お二人には失望しました」
リスグラシューが二人に強い言葉を言い放つ。
『うっ!?…し、しかし…』
二人はリスグラシューの苦言を聞き、狼狽する。
「リ、リスグラシュー………」
俺は『名前は思い付きで、深い意味なんて何も無いから!!』と、言おうとする。
しかし、リスグラシューは手で俺を遮り『不肖ながら、このリスグラシュー。ハヤト様の名づけの意図、全てわかっております。残念ながらお二人には分かっておられないようなので、説明をさせてもらってもよろしいですか?』と、『私は全てを理解しています!!』という、したり顔をして言った。
「い、いや、本当に何も…」
俺が言いかけたところで…
「名づけの意図!?この名前には何か隠された秘密があるというの!?知りたい!!」
アレグリアが食いついてしまった。
リスグラシューは微笑を浮かべ、美しく長い金髪をなびかせ立ち上がった。
そして…
「ふふふっ、この名前、ハヤト様が『将来の事を見据えたうえでの名づけ』という事を理解しておく必要があります。その上で、最初のスリーという所がポイントなのです!!」
『将来の事!?』
アレグリアにファレノプシス、それにシーザリオとメサイヤが身を乗り出す。しかも、ウオッカさえもが食事を止め、身を乗り出してきた。
こうなったら止められない。
俺は仕方なく、リスグラシューの妄想を聞く事にしたのだった。
【ジュリア視点】
私は愛娘、アレグリアの姿を見ている。ハヤト君と出会ってからというもの、日に日に成長していく姿が嬉しくもあり、少しだけ自分から離れていくようで寂しくもあった。
その愛娘が冒険者パーティーを結成した。
リーダーではないが、夕食の最中に報告をしている。
『ガンガン稼いでいくわよ!!』と息巻いてはいるが、私は愛娘とリーダーのファレノプシスさん、そしてウオッカさんの無事だけを願った。
しかし、アレグリアがTCLというパーティー名の説明の時…
「TCLとは…桃備えのウオッカ!!」
突然、奇妙なポーズを取り出した。
右手でウオッカさんを指さし、左手は指を三本立て自分の口元に…。
(アレグリア…そのポーズを考えたの?三人だから指を三本立てているのかしら…。正直、カッコ悪いわよ…)
愛娘を見て、まるで自分の事のように恥ずかしくなりうつ向いた。
しかも当のウオッカさんは完全に無視して食事を取っている。
私は恐る恐るハヤト君の反応を見るが、何とも言えない苦笑いをしていた。
続いてシーザリオ様とメサイヤ様の反応を見ると『この娘、何やっているの?』という顔をしている。
しかし、最初『ポカーン』と口を開けて見つめていたアパパネちゃんとブエナちゃんは、紹介が終わると『カッコいい!!』と目を輝かせていた。
二人の反応を見てドヤ顔を決める愛娘…
(成長したって思っていたけど…まだまだ子供なのね)
私は恥ずかしいやら安心するやらで、複雑な思いが心の中を駆け巡ったのでした。
【リスグラシュー視点】
(ふふふっ、パーティー結成ですか。ハヤト様の野望のため、アレグリアさんたちも頑張っていますね!!私も今できる事を確実にこなしていかないと…いつまでたっても目的が達成されません)
私はハヤト様を一国の王にしたいと思っている。未開の地を切り開き領土とし建国する。ハヤト様には王になる資質があるし、使徒様なら当然だとも思っている。ただ現状は資金も人材も全く足りてない。自分の不甲斐なさに拳を握り締める。
(焦るな、リスグラシュー)
自分自身に言い聞かせる。
(着実に人材は集まってきている。冒険者パーティーは資金集めにも使えるし、当然戦力としても考えられる。ブロディという凄腕の鍛冶職人とも知り合いになった。良質なポーションを作り出せるブエナさんも取り込んだ。それに…シーザリオ様とメサイア様とお近づきになれた事が大きい。戦力と資金面が大幅なアップである。しかも二人もハヤト様の婚約者に…。そして私は…ジュリアさんとアパパネと共に『ベガ』を繁盛させ、資金を稼ぎまくる!!)
しかし…
「私たちが仕事をしている間に修練をしているのかと思えば…TCL?ふんっ!!」
「なんかハヤト様に名付けてもらったといって、浮ついていませんかね?」
シーザリオ様とメサイア様が明らかに不機嫌になり、そんな事を言い出した。
私は一瞬、目まいを起こしそうになる。
(なぜ!?お二人ともあろうお方が、ハヤト様の意図を分からないの?)
私は少し強い言葉でお二人に苦言を呈するのでした。
(私が嫌われ者になりましょう…。分からないのなら、このリスグラシュー、分かって頂けるまで説明を致しますわ!!)
私はハヤト様がTCLという名にした意図を説明していくのでした。




