第94話 どこの世界も同じ
ブロディさんの工房を後にする。
「ハヤト、私たち…いえ、TCLはこれから修練のために、城壁の外側の丘の上まで行くね」
TCLの三人は三色の防具を身に着け、意気揚々と歩いて行った。
俺はジュリアとの打ち合わせのために宿へ帰る。
「ジュリア、ブロディさんに図面を渡してきたけど、工期は三か月間で何とかなるって言ってたよ。あと、改修費の事なんだけど…」
「どうしたの?」
ジュリアは俺が言い淀んでいるので首をかしげる。
「王都へ行くといったら仕事を依頼されたんだけど、その仕事が上手くいったら格安にしてくれるって…」
「まあ!!」
ジュリアは俺の話を最後まで聞かず『格安』という言葉に反応する。
そして…
「じゃあ、ハヤト君に頑張ってもらって、依頼された仕事を完璧にこなしてもらわないとね!!」
少し意地悪な笑みを浮かべながら言った。
俺は苦笑いを浮かべ『努力するよ』と、答えておいた。
お昼過ぎになると、シーザリオとメサイアが帰ってきた。どうやら文官たちが到着し、仕事を丸投げして来たらしい。満面の笑みを浮かべ、少し遅い昼食を取っている。
「シーザリオ…いや、メサイアに聞いたほうがいいのかな?あとどのくらいで仕事が終わりそうなの?」
「そうですね…一週間、最悪でも10日間もあれば目処はつきます」
「そうか…じゃあ、10日後に王都へ向けて出発できるように用意をしておくよ」
「分かりました。私のほうでも馬車の手配等をしておきますね」
「よろしく頼むよ」
「お任せください!!」
俺とメサイアがそんな話をしていると『王都に行けるなんて『ワクワク』が止まりません!!』と、アパパネがテーブルの上を片付けながら言う。
だが…
「はあぁぁぁ…アパパネ、王都なんて、ろくでもない所ですよ。あまり期待しない方がいいわ」
シーザリオがため息交じりで言った。
すると、メサイアがこれに反応し『確かに!!ここに来る前は『王都から離れたくない!!」と思っていましたが、あはははっ!!もう、ここから離れたくありませんね』と、やや自虐的に答える。
「おいおい!?一度、王都を見ておいたほうがいいと言ったのは、メサイアじゃないか?」
「それはそうなんですけど…リスグラシューの料理にはとても満足をしていますし、それに…」
「それに?」
「ハヤト様と離れて、また傲慢でわがままな貴族たちに囲まれて仕事をする日々の事を考えると…気が滅入ってきます」
「そんなものなのか?」
俺は王宮務めなどした事はないし、いまいち実感がわかないが…
「本当にその通りだわ!!」
シーザリオも吐き捨てるように同意をする。
俺は苦笑いをし…
「まあまあ…それも王国の為、国民の為と思って…」
そう、なだめにかかる。
しかし…
「私は本当に『国民の為と思っている貴族や官僚が何人いるのか?』とつねづね思っています。貴族は権力争いに明け暮れ、官僚は私腹を肥やし…王宮の中は腐りきっているのです!!」
メサイアは苦情に満ちた表情で、まくし立てる。
正義感が強いメサイアは熱くなる。
しかし、シーザリオは少し冷めた表情で『はあぁ~…ハヤト様、メサイアの話は事実です。しかし現王になって、少しだけ改善したらしいですよ。体は丈夫ではないですが、なにしろ、賢王と呼ばれているお人ですから…。私の恩人でもある先代の王家筆頭魔術師に聞いた話では、昔はもっと酷かったらしいですし…』と、ため息交じりで話す。
だがメサイアは…
「ぐぬぬぬっ、今でも十分に酷いです!!下級ポーションのレシピの公開。あれは建前上は生活が苦しい庶民の為の政策という事になってはいますが…補助金目当ての輩と、裏ではポーションの値段のつり上げが行われているのです!!」
怒りを露にする。
「確かに…あの政策は失敗だった。庶民が助かったのは最初のうちだけで、その後は買取価格の値下がりと品質の崩壊でとんでもない事になっているわ」
「そうです!!品質の保証された下級ポーションは大手の商家と貴族が牛耳っていて、とんでもない値上げをされているのです!!そんな事が許されますか!!そして、その品質さえも怪しい!!」
冷めきって話すシーザリオと顔を真っ赤にして熱く語るメサイヤ。
対照的な二人だが…
「じゃあ、二人が国王に訴えれば、解決するんじゃないのか?」
俺は権力構造や政治のあり方を全く知らないので、何気なく言う。
「当然、現状どうなっているのか、非公式には報告はしています」
「非公式とは?」
俺はシーザリオの『非公式』という言葉が気になり聞き返した。
「私はあくまで『王家筆頭魔術師』なのです。経済政策の担当ではありません。メサイアにしても公爵家の令嬢ではありますが、ただの私の部下という立場なのです。私たちには何の権限もないのですよ。不満分子や敵対的な勢力を増やしてしまう可能性があるので、王ですら、安易に口出しはできません」
冷めきった表情で話したのだった。
「縦割りで、権限が及ばないのか…。どこの世界も同じようなものだな」
俺は二人の話を聞いて前世の事を思い出し、うんざりした気分になったのだった。
【TCL視点】
「ねえねえ、私の淡いピンク色の防具には、白の戦闘服のほうが似合うと思わない?」
ウオッカは自分の体を見回し二人に尋ねる。
「黒でも合うと思うけど、白でも悪くないと思うよ。でも、威圧感は全くない。あんまり強そうには見えないわ。見てよ、私の赤と黒のコントラストを!!この圧倒的な強者の雰囲気を!!」
アレグリアは自分の格好を見回し悦に浸る。
だがウオッカは全く興味を示さず『いいのよ。威圧感なんか無くて。ただでさえ体が大きいんだから…。見た目で油断を誘う戦法もアリって言ったじゃない。ねえ、そうでしょ?』と、ファレノプシスに同意をもらおうとする。
「確かに、その戦法もアリだが…。ウオッカさん、私たちは冒険者なんだ。暗闇や森の中での戦闘もある。なるべくなら目立つ色は控えた方がいいわね。まあ、それを言ったら淡いピンク色も、かなり微妙な色なんだけれど…。あと、白は汚れが目立つよ。返り血も浴びるし泥まみれにもなる。基本、黒の戦闘服をお勧めするわね。」
「そっか~、汚れが目立つのは嫌だね」
ウオッカは渋々諦める。
「ウオッカさん、それにアレグリアも…周りの目、周囲の環境を一切気にしないでいい方法を教えてやろうか?」
ファレノプシスが『ニヤリッ』と笑い言った。
『なになに?教えて!!』
二人が食いつく。
「それは…」
『それは?』
「冒険者として、圧倒的な実力を備える事だ!!」
『!?』
「誰にも文句を言わせない圧倒的な実力、多少の不利などひっくり返す、理不尽なまでの実力を身に付けな!!」
二人の顔つきが変わった。
そして…
『やってやるわよ!!』
腕と腕を合わせ、Fランクの二人は気合を入れる。
TCLの三人は城門から飛び出し、丘の上まで駆け上がっていくのだった。




