第91話 吹っ飛ぶイケメン
俺とアレグリアは唇を離し、再び見つめ合う。
「ハヤト…大好きだよ」
アレグリアがそう呟くと、俺はアレグリアを優しく抱きしめた。
アレグリアの体はアスリートのようにスリムでしなやかだった。だが、所々丸みを帯び、正に少女から大人の女性に成長中という感じがした。
俺は思わず…
(もう一度口づけを交わしたい。今度は深い、深い大人の口づけを…)
そう思う…が、しかし…バリアの外のブラッシーと目が合ってしまった。
(なんでこの瞬間に、こいつの顔を見なきゃならんのだ…)
俺は心の底から嫌な気持ちになったのだが、ブラッシーはブラッシーで顔を真っ赤にし、わめき散らかしている。
もう雰囲気ぶち壊しである。
仕方が無いので『アレグリア、あいつをどうする?』と、聞いてみた。
アレグリアも迷惑そうな顔をして…
「『どうする?』って聞かれても…正直に言って、あの人どうでもいいし…」
うんざりとした顔をして答える。
「よし。俺の火魔法をお見舞いしてやろうか!!」
「えっ!?あの壁に穴を開けた魔法?」
「そうだよ。俺は攻撃的な魔法はそれしか知らないから…」
「威力の制御は出来るようになったの?」
「………放ってみない事には分からないな」
「止めておこうよ。下手したらギルドごと吹っ飛んじゃうわよ!!」
「…大袈裟じゃないかな」
「多分…大袈裟じゃないと思うわよ」
こんな事を言いながら、俺とアレグリアは顔を見合わせて、お互いに苦笑いをした。俺たちはブラッシーの事など眼中になく、焦る気持ちは全くない。
「仕方が無いわ。力試しの意味も込めて私がやる。以前は実力の差を感じていたんだけど、今は何というか…へなちょこに見えるのよね」
「勝てるだろうけど…」
「勝てるだろうけど…何?」
「俺もアレグリアの前でカッコいいところを見せたいと思って…」
「ふふふっ、そんな事をしなくても、ハヤトは十分にカッコいいわよ!!」
アレグリアはそう言って、俺の頬に軽くキスをした。
「さあ、防御の魔法を止めてちょうだい!!」
アレグリアはそう言い、愛槍を握り締める。
俺がバリアを解くと…
「てめぇ~!!許さんぞ!!絶対に許さんからな!!アレグリアは俺の女だ!!」
などとわめき散らし、俺に強烈な殺意を向けた…が、その時、突然ブラッシーが勢いよく吹っ飛んでいき、受付のカウンターに激突した。
俺とアレグリアは唖然とし、無残に吹っ飛ばされたブラッシーを見るが、ピクリともしていない。
一体、何が起こったんだ?と元の場所に目をやると、ウオッカが盾を構えていた。
そして『あらら…そんなに力を入れたつもりは無かったんだけど…』と言い、苦笑いをしていた。
「ウオッカさん、やり過ぎじゃない?あはははっ、死んじゃったかもよ!!」
アレグリアが陽気に言う。
「だって…あの男が二人に向かって剣を向けていたところを見たら、自然に体が動いちゃったのよね。正直、自分でも驚いたわ」
ウオッカは盾に異常が無いか、確かめながら言った。全くブラッシーの事は眼中にないようだ。
「アレグリア、いくら不意を衝かれたといっても、まだ冒険者として未登録のウオッカに吹っ飛ばされるかね…。あの男は本当に強いの?」
「この地方ではトップクラスなのは本当よ。でも、もともとこのリーズは冒険者レベルの低い土地だから、Dランクだけどね」
「Dランクか…」
俺はもう一度、吹っ飛ばされたブラッシーに目を移す。
どうやらパーティーのメンバーからポーションを飲ませてもらい、復活したようだった。
(中級ポーションか…ある程度の稼ぎはあるんだな)
俺がそんな事を思っていると…
「お前たち、こいつら全員ぶっ殺すぞ!!」
ブラッシーが叫び、怒り狂っている。パーティーメンバーが、俺たちに向かって戦闘態勢を取る。
そして『ギルドにいる冒険者ども!!俺からの依頼だ。こいつらを殺ったら1000万エンの報奨金を出す!!』と、大声で叫んだ。
とたんに色めき立つ冒険者たち。
「へぇ~…1000万か…気前がいいねぇ~。おいしいじゃねぇか!!」
「でも、こいつ…あのシーザリオと戦ったアレグリアだろ?」
「あんなもん、真剣勝負じゃねぇよ!!」
「そ、そうだな。Fランクという話だし…俺達でも殺れるか!!」
多くの冒険者の目の色が変わり、剣の柄に手を掛ける。
だが…
「止めときな!!」
小さな声ではあるが、凄みのある声が聞こえてきた。
一斉に声を発した人物に注目が集まる。ファレノプシスだった。
ファレノプシスは多くの視線にも動じる事なく、ギルドの真ん中まで進む。
その歩く姿は、圧倒的な強者の雰囲気を醸し出していた。
「お前たちの実力では、私たちにはかなわないよ。醜い死体が積み上がるだけだ」
威圧するように周りを見渡し、ファレノプシスは言い放ったのだった。
【アレグリア視点】
(ハヤトの唇、柔らかい)
私は唇が触れた時、正直そう思った。
だが次の瞬間、鼓動が高鳴り、体中が燃えるように熱くなるのを感じたのでした。
(ハヤト、愛してるわ)
唇が触れ合っている間、私はそう思い続けた。
ハヤトの唇が私の唇から離れ、抱きしめられた。
鼓動も収まり、冷静になると…
(私、キスの時…変な顔してなかったかな?鼻息が荒くなっていなかったかな?)
そんな事が頭をよぎり、急に恥ずかしくなる。
まともにハヤトの顔が見られない。
嬉しすぎて、恥ずかしすぎて…
(私、どうしたらいいか分からないよ!!)
初めての体験にどうしたらいいか分からず、心の中で悶えてしまう。
そんな自分自身に酔いしれていたのだが…
「あの男…どうする?」
そう、ハヤトが聞いてきた。
一瞬で現実に引き戻される。
(チィッ)
思わず、心の中で舌打ちをする。
私はうんざりしてブラッシーを見る。
そして…
「どうする?って、私、あの人どうでもいいし…」
自分でも驚くほどの無表情で答えたのでした。
【ウオッカ視点】
「う~ん…味はリスグラシューに遠く及ばないけど、お腹が満たされたので良しとしよう!!」
私がそう言うと…
「これから稽古だというのに…食べ過ぎだわ!!」
ファレノプシスから文句を言われる。
「私は盾役。しっかりと相手の攻撃を受け切らなきゃいけない。そのためには、ある程度の重さも必要じゃないかな。私はそのために食べているのよ!!」
それらしい言い訳をしてみる。
しかし『そんな言い訳は、私には通用しないわよ!!いいでしょう。それなら食べた分は確実に筋肉にしないとね。ふふふっ、今日の稽古は覚悟しておいてね!!』と、言われてしまった。リーダーは結構、スパルタである。
何も言い返せなくなってしまった私は、ファレノプシスから逃げるように冒険者ギルドの中へと入っていく。
すると、ハヤト様とアレグリアに剣を向ける男の姿が…。
自分でも驚くほど自然に体が動いた。
気が付けば、前方には吹っ飛ばした男が横たわっている。
(う~ん…やってしまった。何とか無かった事にできないものか?)
苦笑いしながら考える。
「やり過ぎじゃない?」
アレグリアに呆れられる。助けたのに…。
「あはははっ、やってしまった事は仕方が無い!!」
私は盾が傷付いていないかを確認しながら、笑ってごまかす事しかできないのでした。




