第90話 ざわつく心
「ハヤト、冒険者ギルドはすぐそこだよ」
「そうなの?」
「そこの角を曲がったら見えるわよ」
「なんだ…そんなに近いなら、ウオッカには我慢してもらえば良かったかな」
「あははは、ウオッカさんにも困ったものね」
しかし、アレグリアの表情は全く困ってはいない。
むしろ上機嫌になり、腕を絡ませて俺の顔を見つめながら歩いている。
俺達が冒険者ギルドに入っていくと『アレグリア、その目はどうしたんだ!?何かあったのか!?』と、初めて見るイケメン君が声をかけてきた。
「!?」
俺の心がざわつく。
イケメン君が馴れ馴れしく肩に手を置こうとするが、華麗にかわすアレグリア。
「相変わらず、つれないな。もっと素直になれよ。でも本当にその目はどうした?お前は冒険者としては最低ランクで価値のない女だが、見た目だけは美しい。だが、目がつぶれたとなると、その価値は半減するぞ。俺も自分の女にするかどうか、考え直さなければならん」
イケメン君はアレグリアに対して、とんでもない侮辱的な事を、爽やかな笑顔で言った。
(…なんか…スゲー…ムカつく!!)
このイケメン、俺の存在などまるで眼中になく、アレグリアの体を舐めるように見つめている。
「ブラッシー、あなたには関係の無い事だわ。ハヤト、行きましょう」
アレグリアは俺の手を取り歩き出す。
「待てアレグリア。その男は誰だ!?」
ようやく俺の存在に気づくブラッシーというイケメン。
アレグリアが最上級の笑顔を作り『この人はハヤト、私の婚約者よ!!』と、俺を紹介した。
ブラッシーが一瞬で顔色を変え『婚約者だ!?俺は聞いてないぞ。目がつぶれたとしても、遊び相手としてなら可愛がってやる事もできる。絶対に許さんからな!!お前は俺の女だ!!』と言い放ち、アレグリアに迫る…が、ここで俺が二人の間に割って入った。
「アレグリアは俺の婚約者だ。馴れ馴れしくしないでくれ」
アレグリアを守るように立ちはだかる…が、ブラッシーは躊躇なく剣を抜いてきた。爽やかなイケメンのくせに、性格は短気で狂犬の様な男だった。
「ハヤト、危ない!!」
アレグリアがすぐに槍を握り直し俺の前に出ようとするが、タイミング的に間に合わない。俺の体に剣が迫る。
俺はアレグリアを引き寄せ『バリア!!』と、呟いた。
直後…
『ガギィィィ~~~!!』
大きな音がして剣が折れ、回転をして床に突き刺さった。
「ハ、ハヤト、い、今のは!?」
「一人で練習をした防御の魔法さ」
「…凄い。一応、あいつもDランクの冒険者でリーズのギルドでは最強クラスなんだけど、その攻撃を跳ね返して剣まで折ってしまうなんて…やっぱり、ハヤトは凄いよ!!」
「あはははっ、褒めすぎだよ。実戦で使った事が無かったから少し心配だったんだけど、問題無く使えるみたいで良かったよ」
アレグリアがまるで自分の事のように喜び、俺を見つめる。
俺もアレグリアの目を見つめ、今の自分の気持ちを正直に話す事にした。
俺たちはバリアの中、二人だけの世界に入り込んでいく。
「アレグリア、ごめん。正直に言うけど…少し嫉妬した」
「嫉妬?」
「あのイケメンに声を掛けられて…ね。正直、心がざわついたんだ。器の小さい男でごめん」
「そんな事…あの人は全然関係が無いから!!一方的に絡んできて、私も迷惑だったのよ」
「そうなの?」
「うん、私を信じて。大体、私の事は全部分かっているんじゃないの?」
「そうなんだけど、自分で意識しないと情報は分からないんだ。だから、なるべくプライベートな部分は見ないようにしている」
「へぇ~、そうなんだね。でも、何でなの?私はハヤトの全てを知りたいと思ってるわよ」
「正直に言うと、俺は全てを、本当に全てをさらけ出すという事には抵抗があるんだ。いや…恐いと言った方が良いかな」
「恐いって?」
「人は誰にも知られたくはない、心の中だけの秘め事を持って生きていると思ってる。隠し事じゃない、自分だけの秘め事をね。少なくとも俺がそうだからね。だから、自分が知られたくないと思うなら、他の人の秘め事も知ろうとしてはいけないと思ってるんだ」
「…ハヤトのそういう考え方、私は好きだな」
「なんかこんな事を言うと、照れくさいけどな」
「ううん、素敵だと思うわ」
アレグリアはその美しい顔で優しく微笑みかけてくれた。
俺はそっとアレグリアの腰に手を回し引き寄せる。
アレグリアの顔が間近に迫り、俺は美しい銀髪を耳にかける。
俺とアレグリアは見つめ合う。
「…アレグリア、愛してる」
俺は耳元でそう呟き、アレグリアの唇に自分の唇を重ねた。
アレグリアの体が一瞬、硬くなる…が、すぐに力が抜け静かに目を閉じた。
俺とアレグリアはバリアの中、二人だけの世界に入り込み、初めての口づけを交わしたのだった。
【アレグリア視点】
私はハヤトを連れて冒険者ギルドに入っていく。ハヤトは冒険者ギルドに来るのが初めてなので、めずらしそうに周りを見渡していた。
しかし『アレグリア、その目はどうしたんだ!?何かあったのか!?』と、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
(うわぁ~、最悪!!)
前方から、なぜか私を気に入り、冒険者ギルドで顔を合わすたびに『俺の女にしてやる。ありがたく思えよ』なんて言ってくる、ふざけた男。ブラッシーが私を見つけて向かってくるのが見えた。
以前は実力の違いから、見つけられる前に逃げる事しかできなかったのだが…
(んっ!?なんでだろう?あいつが『へなちょこ』に感じるわね)
久しぶりに顔を合わせて印象が変わっている事に気が付いた。
よくよく考えてみる…
(私って、最近はバケモノみたいな人達に囲まれているわね。ファレノプシスさんも強者なんだけど、それ以上に凶悪な強さを感じているシーザリオ様やメサイア様とも、ごく普通に接しられるようになっている。こう見えてハヤトも使徒様だしね!!)
そう思うと、逃げるのが馬鹿らしく思えてきた。
私は付きまとわれるのもウザいので『今日はハヤトもいるし、ちょうどいい機会だわ!!』と、きっぱりと拒否の意思を伝えておこうと思う。
ただ、これまでも拒否をしていたのだが『照れる必要はない』などと寝言をほざいていたので『ふふふっ、実力を試すいい機会だわ!!』と、一戦を交える事も視野に入れ、ブラッシーと対峙する。
「ハヤト、行きましょう!!」
私はわざとハヤトの手を握る。
ブラッシーがハヤトの存在に気が付くと『私の婚約者よ!!』と、言い放つ!!
殺気をあらわにするブラッシーが剣を抜いた。
私はブラッシーの剣が『私に向かってくる!!』と思っていたのだが、その剣先はハヤトに向けられたのだった。
(!?)
私は予想外の展開に一瞬、思考が止まってしまった。
(ヤバイ!!間に合わない)
そして…
「ハヤト、危ない!!」
私は無意識に叫び、ハヤトの顔を見る。
焦る私とは対照的に、ハヤトは落ち着いていて『バリア!!』と、小さく呟いた。
次の瞬間、物凄い甲高い音と共に、ブラッシーの折れた剣先が宙に舞ったのだった。
驚きを通り越して、私は言葉を無くす。
その後、ハヤトが展開した防御魔法の中で見つめ合う。
(なんか…いい雰囲気…もしかして!!)
私の心を見透かした様に、ハヤトが私の腰に手を回し抱き寄せてくれた。
(今の気持ちを鑑定された?いいえ、違う。ハヤトはそんな事はしない!!ハヤトも私と同じ気持ちのはず…)
真っ直ぐにハヤトの目を見つめる。
「愛してる」
ハヤトの言葉に涙が出そうになる。
そして…私とハヤトは、初めての口づけをかわしたのでした。




