第87話 喧嘩するほど仲が良い
アンドレさんが帰ってからもしばらく店を開いていたが、お客さんが来る気配は無い。それでも俺は上機嫌だった。
俺は店じまいをして、ベガへと帰って行く。
しばらく自室で過ごし、頃合いを見計らってダイニングへ降りていく。テーブルには夕食が用意されていて、アレグリアたちも帰って来ていた。
みんなで夕食を取りながら、今日一日の話をする。
「修練はどうだった?」
「体のあちこちにアザが出来たわ」
「えっ!?」
「眼帯をしていると、ファレノプシスさんの攻撃が全く避けられないのよ。だから体中に攻撃を受けてしまうのよね…。自分の力不足を痛感してね、嫌になった。」
アレグリアが遠い目をして言った。
続けて…
「ウオッカさんは視界が狭くなって、今まで以上に固めてきてね…本当に嫌になったわ!!」
そう言って、テーブルに突っ伏した。
食べるのに夢中だったウオッカはアレグリアの話を聞くと『あはははっ!!だって全く見えないんだもん。私としては固めるしかないよね?でも結局、私の『カメカメ作戦』が通用するのは相手が一人の時だけだったけどね』と、笑いながら話す。
アレグリアは一瞬、体を起こし『それにしても固すぎ!!』と叫び、またテーブルに突っ伏した。
ここでアパパネが『お二人が帰って来た時、眼帯をしていたのでビックリしました!!』 と、給仕をしながら言う。
「本当にそう…私を驚かすのは止めてちょうだい!!」
ジュリアも娘に苦言を呈す。
「えっ!?修練の時だけじゃなくて、帰り道でまで装着してたの!?」
俺は驚き、二人を見渡して聞く。
「だって…ファレノプシスさんが『なるべく外すな。出来るだけ付けたままで生活をして慣れろ』って言うから…そのまま。街中を歩いていても、なぜか通行人が勝手に避けていくのよね」
「さっき『食事の時くらいは外しなさい』と注意したのよ」
ジュリアが苦笑いを浮かべながら、突っ伏したままで言い訳をするアレグリアに向けて言った。
「だって…だって!!もう、こうなったら!!」
アレグリアは子供が駄々をこねるように言うと『ムクッ』と体を起こし、やけ食いを始める。
そんな娘を見たジュリアは頭を抱え、俺は苦笑いをするしかなかった。
ここで『眼帯をして修練ですか…おもしろいですね。私も取り入れてみようかしら…』と、メサイアが呟いた。
「うむ…おもしろいかもしれないわね」
シーザリオも左目を閉じて、辺りを見渡す。
ここでやけ食いをしていたアレグリアが慌てて『お二人が今以上強くなったら追いつけないので止めてください』と、真面目な顔をして言う。
それを聞いたシーザリオとメサイアが『絶対に追いつかせないわ!!』と、口を合わせて言った。
すると『そ、そんなぁ~…』と、アレグリアは情けない声を上げ、またしても、テーブルに突っ伏してしまうのであった。
少し遅れてリスグラシューとアパパネがテーブルに着き、食事を取り始める。先に食事を終えた俺達は、二人が食べ終わるまで雑談タイム。
「ハヤトのほうはお客さんは来たの?」
「あぁ!!忘れてた!!シーザリオのお墨付きの効果で、5本用意したポーションが一瞬で完売したんだ。冒険者がまとめて買ってくれたんだけど、3万エンでも安いって言ってた」
「ふふふっ、私のお墨付きの効果なんてほんの少しですよ。全てはハヤト様のお力ですわ」
「いやいやいや!!絶大だよ!!影響力が半端ない!!」
「やっぱり、シーザリオ様の名声は凄いですね!!」
俺とアレグリアの絶賛の言葉にシーザリオは謙遜するが、表情はとても満足そうだ。自然に顔がほころんでいる。
「まあ…悪名ですけどね」
そうメサイアが呟く。
すると、シーザリオは勝ち誇ったような顔をして『おほほほっ、メサイア様。いくら公爵家のお嬢様といっても、世間的な知名度は全くと言っていいほどありません。メ・サ・イ・ア様、私と比べてあなたのお名前の影響度は『ど・れ・ほ・ど』なのかしら?』と、嫌味をぶちかます。
「くっ!!」
メサイアは心底、苦々しい表情をした。
仲が良いからそんな嫌味も言えるのだろうが、見ている俺たちは苦笑いをするしかないのであった。
【稽古の様子…盾役に必要なもの】
「ウオッカ、盾役の仕事は自身の防御力を生かし、相手の攻撃を自分に集中させ、その攻撃を受けきらなければならない。しかも最前線という常に厳しい状況でだ」
ファレノプシスの言葉を聞いて表情が引き締まるウオッカ。
続けて…
「しかし、ただ最前線で攻撃をされるのを待って受けるだけではダメだ。相手も馬鹿じゃない。強敵になればなるほど頭を使ってくる。だからウオッカも頭を使って考えるんだ」
「そう言われても…私は素人だから、よくわからないわ」
「だろうな。それは仕方が無い。そんなに簡単に出来るはずもないからな。まずは分かりやすい所で言えば、相手を挑発してみろ」
「挑発…?」
「そう。相手の気にしている事をあえて指摘して怒らせる。例えば相手が女性盗賊で太っていたとしよう。その女性に『あなたみたいにスリムでスタイルが良くなりたいわ。羨ましい…とてもオークの雌とは思えない』とか、嫌みったらしく言ってみるとかかな」
「あはははっ、それは怒るよね!!でも…私は体は大きいけど、結構気が小さいから…」
「ウオッカ、これは戦いなんだ。殺るか殺られるかの世界だ。そんな事を言っていたら、命がいくつあっても足りないぞ!!」
「分かっているけど…難しいよ。アレグリアの事を『脳筋』とか『猪武者』とか…『単細胞』とか思っていても、そんな事言えないわ!!」
ウオッカは必死にファレノプシスに訴える。
しかし、それを聞いていたアレグリアは『ウオッカ!!私の事をそんなふうに思っていたの!?』と、顔を真っ赤にしてウオッカに詰め寄る。
アレグリアはウオッカに対して猛抗議をする。
だが、これを見ていたファレノプシスは少し呆れ気味に『はあぁ~、挑発とはこういう事だ。ウオッカ、分かるでしょ?』と、ため息交じりに言った。
言われたウオッカも『なんとなく分かったかも…。案外簡単かもしれないわ!!』 と、返事をした。
一瞬『キョトン』とするアレグリア。
しかし、意味が分かると『ひ、酷いじゃない!!』と言って、さらに猛抗議をする。
見かねたファレノプシスが『アレグリア!!お前がそんな簡単に挑発に乗ってどうする!!お前は何でもかんでも突っ込んで行きすぎだ!!冷静になれ!!』と、一喝をする。
我に返り『ハッ』とするアレグリア。
ガックリとうなだれ『…ごめんなさい』と、呟く。
ウオッカがアレグリアに近づき『ポンポン』と肩を叩き慰める。
それを見ていたファレノプシスは『はあぁ…まだまだだな。課題は多い』と、頭を抱えたのだった。




