第86話 冒険者アンドレ
「3万エンか…よし、買おう!!」
「ありがとうございます!!」
本当なら3万エンもする商品なので、きちんと包装をしたいところだが、この世界にはそういった習慣は無いらしい。俺はお礼を言って、そのままポーションを渡した。
「全部だ!!」
「えっ!?」
「俺達のパーティーは5人だからな。5瓶、全て買おうじゃないか。冒険者でポーションと装備をケチる奴ほど早死にするんだよ。それに、シーザリオ様のお墨付きなら、3万エンでも安いと思うぞ」
「あ、ありがとうございます!!では…」
俺はお礼を言いながら、一人ずつにポーションの瓶を渡していった。ポーションを受け取ると、メンバーはそれぞればらけ、再び出店を見て回っていく。
「ありがとな!!」
男はそう言い、懐から麻袋を取り出して1万エン金貨を机に置いた。
俺は金貨を数え、15枚あるのを確認する。
そして…
「5瓶すべて買っていただいたので、割引をしますね」
金貨を一枚返す。
「気前がいいじゃないか!!じゃあ、この金貨で俺の相談を聞いてくれないか?」
男は『チラリッ』と人生相談所の看板を見て言った。
「大歓迎です!!」
俺はそう言い、やっと商売をしているという事を実感する。そして素早く、目の前にいる男を鑑定した。
アンドレ 男 27歳 身長198㎝ 体重102㎏
戦闘 062 政治 051 内政 039
謀略 034 魔法 000 統率 071
料理 021 生産 041 農業 048
商業 029 建築 061 魅力 067
外交 028 交渉 055 信用 074
採掘 035 戦術 067 研究 038
狩猟 072 解体 061 男気 081
いつもの様に、これはほんの一部だ。まだまだ鑑定した情報はあるのだが…キリがない。
あと、戦闘を選択すると
戦闘 062 属性 月
剣術 B 槍術 E 刀術 D 斧術 C 棒術 D 弓術 B
(なるほど…突出した能力は無いものの、戦闘の値も高めだし剣術と弓術もBランク。俺の周りにはバケモノみたいな人間が集まっているので比較はできないが、冒険者としては上位のほうでは無いだろうか)
俺はアンドレさんの鑑定結果を見ながら思う。
「でっ、相談というのは?」
「パーティーの事なんだが…。今のパーティーは、構成メンバーのバランスが悪いんだよ。接近戦の戦闘が得意な奴ばかりで、飛び道具を使える奴がいないんだ。本当は遠距離攻撃ができる魔法使いがいたら、無条件でメンバーに入れたいんだが…それは難しい。そんな都合よく見つからないからな。単純に『飛び道具を使えるメンバーを増やせばいいじゃないか』というかもしれないが、それも難しい。魔法使いは貴重だから例外として、メンバーが増えれば分け前が減る。そうなると不平不満が必ず出てきて、いざこざが起こる」
「メンバーを増やせば分け前が減る…それは分かりますけど、今まで扱っていなかった武器を扱える人が増えれば戦い方の幅が広がり、さらに高収入が得られる可能性も広がると思いますよ」
「そうなんだが…人それぞれ考え方が違う。冒険者としてはベテランの域に入って来て、俺の見立てでは三対二で現状に満足している者のほうが多い。長い間苦楽を共にしてきた仲間だ。できれば最後まで一緒に活動をしたいと思っている。だが…俺は、引退前にもう一段のステップアップをして、荒稼ぎたいと思っているんだ」
「現状維持は後退と同じと言いますからね」
「いい事言うな。まさにその通りなんだよ!!」
「弓を扱えばいいのでは?飛び道具としては一般的で、扱える人も多い。メンバーの中で扱える人はいないのですか?」
俺の質問にアンドレさんは『みんな、性に合わないんだよ…。俺達は目の前の敵を『バッタバッタ』と切り倒していきたい。そんな考えの奴らばかりでな…』と、苦笑いを浮かべる。
(…いわゆる冒険者にありがちな脳筋って事ね)
俺はアレグリアの顔を思い浮かべる。ごめんね。
「じゃあ、まずリーダーのあなたが行動で示しましょう。みんなリーダーの行動を見ているはずです。あなたが行動で上を目指していけば、メンバーもついてきてくれるはずです」
「上を目指すためには、それしかないか…」
「俺のアドバイスとしては、あなたが弓の練習をする。それしかありません。気休めになるかは分かりませんが、あなたには剣術と同じくらいの弓術の才能がありますよ」
「ふふふっ、俺に弓術の才能か…。よし、やってみるか!!」
アンドレさんは拳を握り締め、自分の手のひらを叩き気合を入れる。
そして…
「君に相談して良かった。何だか本当に弓の才能がある気がしてきたよ。ありがとな!!」
俺に向かって右手を差し出した。
俺も右手を差し出し『ガッチリ』と握手をする。
(ふふふっ、転移して来てからというもの、女性ばかりに縁があって男としゃべる機会があまりなかった。たまにはこういうのも悪くない)
俺がそう思っていると…
「じゃあな、いつかまた会おう!!」
そう言って、アンドレさんは俺の出店を後にしたのだった。
【稽古の様子…カメカメ作戦しかないウオッカ】
「ウオッカ!!カメカメ作戦は禁止だ!!」
ファレノプシスがウオッカに向かって叫ぶ。
「えぇぇぇ~~~!?私にはそれしかないのに!!」
ウオッカは不満そうな顔つきで文句を言う。
だが、そんなウオッカに対してファレノプシスは『だから禁止なんだ!!だいたい、カメカメ作戦なんて相手が一人の時にしか効果が無いだろう。私達の相手は多くの場合、魔物魔獣の類か盗賊だ。一対一で真正面から正々堂々なんて戦いはありえないと思え!!』と、言い放つ。
「そうかもしれないけど…」
口を尖らすウオッカを見て…
「よし。カメカメ作戦で私とアレグリアを同時に相手にして防いだら認めてあげる。アレグリア、いくぞ!!」
ファレノプシスは腰を落とし、槍を構えて臨戦態勢を取る。
アレグリアも再び槍を構えて『ウオッカ、どうするの?』と、挑発するように言った。
身を縮め、守りを固めるウオッカ。カメカメ作戦を発動する…が…、二人の槍使いが軽やかなステップを踏んで、ウオッカの周りを円を描くように回り始めた。
「えっ!?えぇぇぇ~!!」
困惑するウオッカ。
激しく首を振り、二人の位置を確認する。
ファレノプシスとアレグリアはお互いに目で合図をし、交互にヒットアンドアウェイの攻撃を仕掛けていく。
「あああぁぁぁ~!?どうしよう!?どうしよう!?見えない、見えないよ~!!あわわわっ!!!!!」
面白い様に攻撃の的になりパニックになるウオッカ。あっという間にウオッカのカメカメ作戦は崩壊したのであった。




