第85話 お墨付きの効果
「なかなか面白い発想だね。アレグリア、その眼帯、少し借りていいか?」
ファレノプシスが興味を持つ。
「ファレノプシスさんも付けてみますか?少し待ってね」
アレグリアはそう言って眼帯を外し、ファレノプシスに手渡した。
ファレノプシスが眼帯を装着する。
その立ち姿はアレグリアを上回る、圧倒的な強者の雰囲気。
「アレグリア、軽く攻撃してきてくれ」
「よ~し!!」
アレグリアが『やってやるぞ!!』という顔をして、いきなりファレノプシスの死角から顔に向けて手刀を放った。
しかし、その手刀は紙一重でかわされてしまう。
「!?」
アレグリアが驚きの表情をした瞬間、ファレノプシスがアレグリアの手首を掴み、腕を背中の方へとひねって締め上げて見せた。
「痛たたたっ!?ストップ、スト~~~ップ!!」
アレグリアが一瞬で降参する。
「ふふ~ん!!」
少し得意げなファレノプシス。アレグリアに対し『してやったり!!」という顔が可愛かった。
「どうして攻撃がかわせたの?」
アレグリアが肩を擦りながらファレノプシスに聞く。
ファレノプシスは『ニヤリッ』と笑い『それはアレグリアの視線と肩の僅かな動きで、ある程度は想像できる。あとは実戦経験かな。これでも多くの戦いを経験してきたから、ある程度はその場に応じての対応が可能なんだよ』と、付けていた眼帯を外しながら言った。
そして…
「ブロディさん、あと二つ眼帯を用意できませんか?私とウオッカさんも稽古の時、装着してみようと思います」
「えっ!?私も?まだ素人なんですけど…」
「当然だよ。逆に素人のウオッカさんのほうが、アレグリアより早く対応できるかもしれない。アレグリアは今まで完全に視界に頼っていたから、なかなかその戦い方から抜け出せない。しかし、最初から眼帯を装着していれば、対応するのにもさほど時間はかからないだろう」
「そんなものなのかな?…分かった。やってみるよ」
ファレノプシスの提案をウオッカが受け入れる。
二人はブロディさんが用意してくれた眼帯を装着する。
目の前には眼帯を装着した3人の美女と美少女が…。
「がはははっ、なかなか似合ってるじゃねぇか!!」
「少し威圧感があり過ぎかも…」
ブロディさんは3人を見渡し大笑いをし、俺は苦笑いを浮かべたのだった。
「じゃあ、3日後に防具を取りに来い。それまでにピンクと深い青色に染め上げてやる」
『ありがとうございます』
俺達4人はお礼を言い、ブロディさんの工房を後にした。
俺はアレグリア達と別れ、いつもの場所に行って出店する。
机を置き椅子に座り、お客さんを待つ。ここまでは普段通りで何も変わらないのだが、今日は机の上にブエナが作った下級ポーションが5瓶ほど並べられている。そしてもう一つ、目立つところに掲げられた看板には『王家筆頭魔術師シーザリオのお墨付き』が書かれていた。
(値段は3万エンにしておこう。ブエナからの仕入れ値は3千エンだから10倍。少しアコギ過ぎるかなぁ…。でも、値段は基本的に需要と供給で決まる。とりあえず、この値段にしておいて、売れなかったら後々変えていけばいいか…)
そう思い、俺は椅子に座りお客さんを待つ。
「ポーションを売るつもりなのかい?難しいと思うけどなぁ…」
隣で出店を開いているおじさんがポーションに興味を示し話しかけてきた。
「そうでしょうか?うちの下級ポーションの品質は最高級なんです!!それにこの『お墨付き』を見てください。王家筆頭魔術師のシーザリオ様のお墨付きですよ!!」
「シーザリオ様の…本物なのかい?」
「当然です!!お墨付きを偽造すれば重い罪になりますからね」
「確かに…売れるといいな!!隣で店を出していて、いつもお客さんが来ないから少し心配していたんだ」
「あはははっ、確かにお客さんが全然来ていませんでしたね。でも、これからです!!このポーションで巻き返しますから!!」
「がんばれよ!!」
おじさんが背中を叩き、励ましてくれた。
俺は自然と気合が入る…といっても、ただ座って、ひたすらお客さんを待っているだけなのだが…。
「君…確認をしたいんだが、このお墨付きは本物かい?」
冒険者と思われる大柄の男から話しかけられる。
「当然、本物です」
「悪いな。申し訳ないが、出店で王家筆頭魔術師のシーザリオのお墨付きというのが、何と言うか…場違い感があってな」
「分かります。でも間違いなく本物のシーザリオ様のお墨付きですよ!!」
「うむっ…」
男がポーションの瓶を手に取る。
そして…
「おい!!お前らこっちへ来てくれ!!」
大きな声を出し、パーティーメンバーと思われる四人の仲間を呼び寄せる。
「これを見てくれ!!」
『ポーション…それが何か?』
「いいや、こっちだ!!」
『王家筆頭魔術師のシーザリオ様のお墨付き…。はっ!?シ、シーザリオ様のお墨付き!?』
四人がポーションとお墨付きを何回も見返し驚いている。
「少年、このお墨付きは本物なのか!?」
「あのシーザリオ様でしょ!?あの!?」
「信じられん…今までシーザリオ様はお墨付きを一切発行しなかったのに…」
「値段との相談になるが…一本欲しいな」
などと口々に話し、シーザリオのお墨付きが早くも効果を発揮したのだった。
(シーザリオの名声…恐るべしだな。さすがと言わざるを得ない)
俺はシーザリオという女性の偉大さを、改めて実感したのであった。
【稽古の様子…脳筋のアレグリア】
「まずはウオッカさん。アレグリアの攻撃を受けてもらうよ!!ただし、もしアレグリアにスキが見えたら、ウオッカさんから攻撃しても構わないからね」
ファレノプシスが『ニヤリッ』と笑いながら言う。
「………ファレノプシス、アレグリア。私に向かって『さん』は付けなくてもいいから。いつでも、どこからでもかかって来い!!カメカメ作戦!!」
「分かったわ。ウオッカ!!修練の間だけは呼び捨てにさせてもらいますよ!!」
アレグリアはそう言い、盾を構え身を縮めているウオッカに向かっていく。
「ガギーン!!キーン!!」
アレグリアの放つ突きが、高音を響かせ盾に弾かれる。基本的に槍は直線的な武器なので、防御を固めた相手との一対一だと全く効果的な攻撃ができない。
「くっ!!固い!!でも…正面から突破するわ!!」
ムキになるアレグリア。
そんなアレグリアを見つめるファレノプシスは苦い顔。
そして『アレグリア、頭と足を使え!!死角も利用しろ!!そんなに闇雲に攻撃しても、体力を消耗するだけだ!!』と、大声で言う…が…、当のアレグリアは『うおぉぉぉ~~~!!』と、叫び声を上げながら、直線的な突きを繰り返す。
そんなアレグリアを見て、ファレノプシスは頭を抱えた。
「キン…ゴン…」
案の定、盾から響く音も鈍くなり、アレグリアの突きの鋭さに陰りが見え始める。
「はあぁ~、はあぁ~、はあぁ~」
アレグリアは息を切らし動きを止める。
この瞬間…
「スキあり!!」
大声を出し、ウオッカがアレグリアに突進する。
「へっ!?」
アレグリアは気の抜けた声を上げる。
そして…
「ぶぎゃっ!?」
間抜けな声を上げ、吹っ飛んでいった。
大慌てでアレグリアに駆け寄るウオッカ。
「大丈夫?」
心配そうに声を掛ける。
『カッ』と目を見開くアレグリア。
そして服に付いた土を払いながら『ふふふっ、やるわね、ウオッカ!!もう一回よ!!』 と言い、再び稽古を始める。
そんな二人を見守るファレノプシスは『アレグリアの才能は本物に間違いはない。だが、早めにこの脳筋は修正しないと…』と、思うのであった。




