第83話 桃備えのウオッカ
「ハヤト、何とか言ってくれ!!この女、ワシの作った防具をピンクに染めろというんじゃ!!」
『はっ!?』
俺とファレノプシスが困惑してウオッカの顔を見る。
しかし、なぜかウオッカはドヤ顔で『アレグリアの防具は赤色に染められているわ。革鎧に籠手、それに脛当ても…。あと、いろいろな備品まで赤色の物をそろえている。アレグリアの話では『赤備えのアレグリア』と呼ばれているというじゃないか』などと言って、引き下がる様子はない。
(えっ!?確かにシーザリオとの戦いの時に『赤備えのアレグリア』と紹介されたが…。今はまだ、誰もそんな通り名で呼んではいないよね?)
俺はそう思いアレグリアのほうを見るが、当のアレグリアはごまかすためなのか、恥ずかしさからなのか、知らん顔をして口笛なんかを吹いている。
(何と分かりやすい反応か…初心者のウオッカに見栄を張ったんだね…)
俺はどう対応していいものか、頭を抱える。
「私も黒の戦闘服を着て、ピンクの防具類で統一したいのよ!!そしてゆくゆくは『桃備えのウオッカ』と呼ばれるような冒険者になりたい!!」
『も、桃備えのウオッカ!?』
全員が驚きの声を上げる。もし俺が飲み物を飲んでいたら、間違いなく吹き出していたに違いない。そのくらいの衝撃を受けた。
「桃備えって…弱そうじゃないか?」
俺の言葉にブロディさんも反応する。
「そうじゃろ!!舐め過ぎじゃわい!!まったく…今どきの娘は…」
ブツブツと文句を言う。
「ウオッカ、アレグリアの赤備えは冒険者として舐められないように、あえて威圧感を出しているんだ。決して見た目だけを意識したものじゃないんだよ」
「確かに…。あの見た目に実力が備わってくれば、相手と戦う前から心理的に有利になるかもしれないね」
俺の言葉にファレノプシスも同意する。
「でも、戦う相手は人間じゃない場合が多いでしょう?魔物とか魔獣なんか、色なんか気にしないと思うわ!!」
「それも一理あるわね。魔物魔獣相手に見た目なんか何の役にも立たない」
「でしょう?それに人間が相手でも威圧するんじゃなくて、桃備えで油断を誘えばいいじゃない!!『あっ!?コイツ弱そうだ!!』と思わせておいて、一気に殺る!!」
「うむっ…戦術としてアリかもしれない」
今さっき、俺に同意してくれたファレノプシスが、あっという間にウオッカに取り込まれてしまった。
(う~ん…桃備えか。正直、俺としても見てみたいな。意外に可愛いかも…。ブロディさんにはこだわりがあるかもしれないが、俺に反対する理由は無い。よし!!ここはリスグラシューを見習って説き伏せてみるか…)
俺はそう思い、ブロディさんを説得し始める。
「ブロディさん、このウオッカはねぇ…25年間、奴隷のような扱いをされて生きて来たんです。殴られ蹴り飛ばされ、お金も1エンももらえなかった。僅かばかりの食事と寝床しか与えられない人生だったのです」
「……………」
ブロディさんは険しい顔をして、無言で俺の話を聞いている。
「10代の時も、なんの飾り気のない服を着て、おしゃれなんか一切できなかった。ただひたすら、こき使われるだけの人生…。それが今、そんな生活を抜け出し、冒険者として生きていこうとしているんです!!ウオッカの真の人生は今から始まるのですよ。俺はねぇ…そんなウオッカの願いを叶えてあげたいと思うんです。いいじゃないですか!!ピンクの防具を身につけても…。ブロディさん、そう思いませんか?」
「そうか…苦労してたんだな。ワシも歳のせいか、少し涙もろくなっちまったか…。わかったぞ、ねえチャン。いや、ウオッカ。燃えるような桃色に染め上げてやるわい!!」
ブロディさんは目頭を押さえながら言った。
しかし当のウオッカは『燃えるような桃色は止めてください。出来れば、萌えるような淡いピンク色でお願いしますよ』と、平然と注文を出した。
「お、おおうっ…」
戸惑いながらも了承するブロディさんだったが、ウオッカに合いそうな防具類を選んでいく。
「ハヤト様、私は何色が似合うと思う?」
ファレノプシスが少しうつむき、戸惑いながら聞いてきた。おそらく、ファレノプシスの人生の中で、男の好みを考えて何かを選んだ経験などないのだろう。はにかみながら聞いてくる表情が可愛らしかった。
「そうだなぁ…。ファレノプシスは美人だから、何色でも似合うと思うけど…」
美人と言われ、さらに顔を赤くし、うつ向いてしまった。
「そ、そんな事を言われた事ないから…恥ずかしいよ」
うつ向きながら、小声で言う姿が愛おしい。
「あぁ~~~!!ファレノプシスさん、顔が真っ赤だよ!!」
そんなファレノプシスを見て、アレグリアが茶化し出す。
「や、やめろよ、アレグリア!!こ、こういう事に慣れていないんだ!!」
「大丈夫だよ。女の私から見ても、ファレノプシスさんは美人でカッコいいお姉さんだと思うから!!私の憧れです。私も将来、ファレノプシスさんみたいな強くてカッコいい女性になりたいと思っています」
「本当にそうだよ。今でも俺が助けてもらった時の颯爽と現れた姿が、脳裏に焼き付いて離れない。無茶苦茶クールでカッコよかったよ!!」
「…もうやめてくれ!!」
俺とアレグリアの絶賛の言葉に慌てふためくファレノプシス。だがその顔は、とても幸せそうで、可愛らしい女性の顔をしていたのだった。
【ウオッカ視点】
私は少し『ウキウキ』した気分でブロディさんに着いていく。
私は今まで与えられたものを、そのまま身に着けていただけ…。何も考えてはいなかった。当然、自分の好みの物を選んだ事など一度も無かった。
でも、みんなと一緒に盾を選び、今度は防具を選ぶという。
こんな嬉しい事はない。
私はアレグリアを見て『カッコいいな。それに凄く似合ってる…。私もアレグリアみたいに色をそろえて統一感を出したいなぁ…』と、考える。
(好きな色とか…考えた事も無かったわ。でも好きな色と似合う色とは違うし、難しいわね)
いろいろ考えるが『お腹一杯食べられるし、こんな事を考えられる日が来るなんて…』と、幸せを実感する。
私を救ってくれたハヤト様に感謝をしつつ『私も色を揃えたいなんて…こんなわがままを言って許してくれるかしら…許してくれるよね!!ハヤト様は優しいから…。でも、わがままを言った分は必ず返すわ。一流の冒険者になって、ハヤト様に何倍もの恩返しをする。そして…いつの日にか…』と、決意をする。
私の中から熱い想いが湧いてくる。
そして…
(私は体が大きいから、赤備えなんかにしたら威圧感どころか、恐ろしく見えてしまう。…そうだ!!桃色…淡いピンクにしよう。萌えるような淡いピンク色にして、少しでもハヤト様に可愛らしい女に見られたい!!)
ブロディさんに防具を淡いピンク色に染めてほしいと頼む事にした。
(萌えるようなピンク…これは譲らない!!)
防具を手に取り、自分の『桃備え姿』を想像して、少しニヤけてしまうのでした。




