第79話 みんなで打ち合わせ
俺はジュリアを抱き寄せ、優しく髪をなでる。腰まで伸びた銀色の髪は出会った時よりも一段と美しくなっていて、さらさらでキラキラと輝いていた。
思わず、その長い銀髪に指を通す。
すると…
「ハヤト様のポーションのおかげで肌だけじゃなく、髪まで綺麗になったのよ」
ジュリアは嬉しそうに言った。
「ジュリア、ハヤト様ではなく、今まで通りハヤト君と呼んでほしい」
「えっ!?でも…」
「俺がジュリアに惹かれた理由は癒し、大人の女性としての落ち着いた雰囲気が理由なんだ。俺の事を優しく包み込んでくれる安心感というか…何というか…俺はジュリアに甘えたいんだ!!」
「まあっ!?」
俺は恥を忍んで本心を伝えた。正直、普通の庶民である俺が、みんなに『様』付けで呼ばれると精神的に疲れてくる。
「ハヤト様…いえ、ハヤト君。私、何か勘違いをしていたみたいね。考えてみれば、ハヤト君はアレグリアと同じ16歳。一人で異世界に転移してきて、寂しくて心細いという気持ちもあったでしょう」
ジュリアはそう言い、俺を優しく抱きしめ返してくれた。
俺の顔は、ジュリアの豊満な胸にうずまった。
温かく柔らかな感触に、心から癒される。
「ふふふっ、嫌な事や辛い事があったら、いつでも私に愚痴を言ってくれてもいいわよ」
ジュリアは俺を抱きしめて、優しく頭を撫でながら言った。
「ありがとう、ジュリア」
俺はお礼を言い、しばらくの間、ジュリアの胸の中で癒される。
ジュリアの豊満な胸に抱かれながら『ごめんね。中身が32歳のおっさんという事は、永遠に秘密にするから…』と、誓うのであった。
しばらくして、俺とジュリアは改修の打ち合わせをするためにリビングへ向かう。席に座ると、アパパネがすかさず飲み物を出してくれる。
『ありがとう』
俺とジュリアがお礼を言うと、アパパネは微笑を浮かべ、軽くお辞儀をして仕事へと戻っていった。
「大分、慣れてきているね」
「凄いわ。もう私ではダメ。アパパネちゃんがいないと、レストランをオープンしても回らないと思う」
俺とジュリアは、アパパネの後姿を見ながら話をした。
「これを見てくれる?」
ジュリアが大きな紙を広げた。そこにはジュリアが書いたであろう、一階の改修後の間取りが細かく書き込まれていた。
「俺も専門家じゃないから、あまりよく分からないんだけど…動線が大切なんじゃないかな」
「確かに…なるべく人が上手く流れるようにしたいわね」
「そうだね。それなら俺達だけじゃなくて、リスグラシューとアパパネにも話を聞かないといけないな」
「実際にメインで働く人たちの意見は大切だわ」
俺とジュリアは、リスグラシューとアパパネにも参加してもらい、一階の改修部分の間取りを完成させていく事にした。
「今のままだと、隣のお客様の話が丸聞こえになってしまうので、出来得る事なら、テーブルとテーブルの間隔をもう少し空けた方が良いと感じています。でも、そうすることによって、席数が減って売り上げや利益が少なくなってしまう可能性があるので…」
アパパネが少し言いずらそうに話した。
それを聞いたジュリアが『確かに…そうだわ。高級レストランを目指すんだもの、今までと同じ感覚ではダメね。お客様に特別感を感じてもらわないと…。ありがとう、アパパネちゃん。もっと開放感があって、落ち着いた雰囲気を感じられる間取りを考えてみるわ』そう言って、間取り図に書き込みを加えていく。
リスグラシューが手を挙げて『私はお客様が増えていくと、キッチンが手狭になってしまうと思います。レストランの部分は、席の数を絞る事で対応は可能だと思われますが、宿のほうのお客様が増えていくと、私一人での料理の提供は難しくなると思うのです。仮に人を雇うと仮定して、もう少しスペースを確保しないと、料理を作る効率が悪くなると思います』と言う。
「う~ん…確かに…なるほど…難しいわね」
ジュリアが間取り図を睨み、何かを呟きながら頭を抱えている。
「意見や要望があるなら、どんな細かい事でも今のうちに言っておいたほうが良いよ。工事が終わってからだと、直せなくなってしまうからね」
『そうですか…分かりました。それでは…』
俺の言葉を聞いてリスグラシューとアパパネは、ジュリアに次々と意見や要望を伝えていく。
「えっ!?た、確かに…。そうね、そうだわ!!無理無理無理!?それは無理よ!!」
ジュリアは二人の意見を聞き、気が付いたり、納得したり、時にはダメだししたりして調整していく。
「これで採算がとれるかしら…」
ジュリアが不安そうに呟き、頭を抱えだした。
俺も飲食店を経営した経験は全くないが、思い付いた事を無責任に提案だけはしてみる。
「VIPルームを作りませんか?」
「VIPルーム…って何かしら?」
「まあ、特別な部屋、空間という意味ですかね。他の席とは明らかに違う事で、より高い値段を設定できると思います」
それらしく『ドヤ顔』で意見を言ってはいるものの、実は俺、VIPルームなど一度も使った事が無かったので、成功するかどうかは未知数であった。
【ジュリア視点】
(ハヤト様…いえ…ハヤト君。やっぱり、この世界に転移をしてきて寂しいのかな。ハヤト君の思いは分からないけど、すべての思い出を忘れるなんて…辛すぎる。あぁ…だから私にも夫の思い出と共に受け入れると言ってくれたのね)
自分の胸の中で目を閉じ、安らぎの表情をしている少年を慈しむ。
少年の頭を撫でると目を開け、真っ直ぐに私を見つめ微笑んでくれた。
私はその瞳に吸い込まれそうになる。
黒髪に透き通った白い肌。そして儚げな瞳に真っ赤な唇。
(…ハヤト君が愛おしい)
そう思った瞬間、鼓動の高鳴りと共に、少しだけ胸が痛む。
脳裏に愛娘の顔が浮かぶ。
見つめ合い、唇と唇との間がわずかに縮まったのですが、私は今は思いとどまる事を選択しました。
愛娘のため?
分かりません。
ただ…女としての思い、母としての思い、そして妻としての思いが入り混じって、感情が混乱しているのでした。




