第74話 シーザリオ先生
「はあ…死ぬかと思いました」
ポーションを飲み、回復したリスグラシューがうなだれながら言った。
「ウオッカさんの事は任せるから、朝は好きに使ってくれてもいいからね。でも、午後からは、アレグリアと修練をさせたいから空けておいてくれ」
「私とアパパネの二人では、買い出しの時に重くて困っていましたから、ちょうど良いと思います。それに、洗脳…いえ、教育するのには、近くにいたほうが都合がいいですから…お任せください!!」
「今、洗脳って聞こえた気が!?」
「えっ!?教育ですよ、教育!!」
リスグラシューは『ニヤリッ』とほくそ笑む。
(絶対、悪い事を考えている顔だ!!鑑定などしなくても分かってしまう!!)
俺はそう思うが、リスグラシューは彼女なりに、俺の事を考えてくれているので、『まあ、何とかなるやろ!!』の精神で、深く考えるのを止めた。
「さあ、ハヤト様。防御の魔法を使えるように練習をしましょう」
「そうだね。よろしく頼むよ。シーザリオ先生!!」
「せ、先生だなんて…」
シーザリオは先生と言われ照れている。
しかし、そんなシーザリオを見てメサイアは『ジュリアさん。くれぐれも、セクハラ教師にならないように、見張っておいてください』と言って、心配そうな顔をした。
「お、お任せください!!命に代えても、ハヤト君の貞操は守って見せます!!」
「お願いします!!」
メサイアはジュリアさんと『ガッチリ』と握手を交わし、午後からの仕事に出かけて行った。
「ふんっ!!、まったく…メサイアは私の事を、何だと思っているんですか。大丈夫ですよ、ジュリアさん。私は仮にも王家筆頭魔術師という立場がありますから…安心をしてください!!」
シーザリオはそう言って憤慨している。
しかし、ジュリアさんは疑いの眼差しでシーザリオを見つめている。
そして…
「そんな事を言われましても、先日の事もありますので…」
そう、言葉を濁して指摘をした。
「ふふふっ、確かに…ジュリアさん、あなたの指摘は理解できます。ですが、今は違います。婚約者と認められた事で、精神的に余裕ができたのです。正直、あの時は焦りがあったのですよ」
「あっ!?その気持ち。同じ女性として何となく分かります」
なぜか二人は分かり合った。
シーザリオは、婚約者という言葉を当たり前のように使い、なぜかジュリアさんも当然のように受け入れている。
(俺は婚約者と認めた事など無いんだけどね。勝手に外堀を埋められてしまった気がする。ただ、女性一人を満足させる事でも大変なのに、俺に複数の女性を満足させられる事ができるのだろうか?)
俺は心の中でぼやく。しかし一方で、この状況を嬉しく思う気持ちもある。男心は複雑なのであった。
☆★☆
自室に移動し、シーザリオに魔法の指導を受ける。
「ハヤト様の体内には十分な魔力があるので、コツさえつかめれば簡単に魔法を使う事ができるでしょう」
「コツをつかむか…実際には、それが難しいんじゃないの?」
「確かに…頭の中でイメージした事を、魔力と一緒に放出するだけなのですが、言うのは簡単ですが、これがかなり難しい…」
シーザリオにそう言われ、俺は人差し指を立てる。そして、頭の中でろうそくの炎をイメージする。
(想像…イメージか。どうやらこの世界の人達は、頭の中でイメージする事が苦手らしい。俺は妄想は得意中の得意だが、果たして…上手くいくものか?)
そう思いながら、魔力を放出していく。
すると…
指先から小さい炎が出た。
「えっ!?う、嘘…炎が!!」
シーザリオが目を丸くして言った。
俺はシーザリオの驚いた顔を見て気分が良くなり、さらに魔力の出力を高めていく。指先にともった炎が、次第に大きさを増していく。
「……………」
シーザリオは言葉を無くし、ただ唖然と頭の大きさ位に成長した火の玉を見つめている。
「あはははっ、凄いだろ!!ほら、もっと大きくできるよ!!」
俺は魔力をさらに追加していく。当然、火の玉はどんどんと大きくなる。
「あっ、あぁぁぁ…も、もう止めて…止めてください!!この宿が吹き飛んでしまいます!!」
我に返ったシーザリオが、我を忘れて叫ぶ。
「シーザリオは大袈裟だなぁ」
俺は笑ってシーザリオに言う。
しかし、気を抜いた瞬間。俺の作った火の玉は壁をぶち破り、空の彼方へ飛んでいった。
そして…次の瞬間、凄まじい爆音が鳴り響いた。
俺は『あっ!?ヤベッ!!』と思い、シーザリオのほうを見るが、そこには生気を失い、呆然と立ち尽くしているシーザリオの姿があったのだった。
【シーザリオ視点】
私はハヤト様の部屋へ移動し、魔法の指導を始める。
(シーザリオ先生か…。うふふふっ、悪くありませんね!!特にハヤト様からそう呼ばれると、胸がときめいてしまいます)
思わず、顔がほころびそうになる。
(い、いけません!!余計な事を考えている暇はないのです。ハヤト様には防御魔法だけは、絶対に覚えてもらわないと…)
私はそう思い、気を引き締める。
(しかし、いかにハヤト様であっても、いきなり魔法を使いこなす事はできないでしょう。どうやって指導したらよいものか…。メサイアみたいに『体で覚えさせる!!』っと言って、死ぬ寸前まで追い込む事はしたくないですし…)
魔法を使いこなす事は難しい。だが、難易度の高い魔法を使えるようになるのは、当然だが、それ以上に難しい。私は自分自身が味わった厳しい訓練を思い出しながら思う。
(…イメージ。これが簡単なようで、できる人が少ない。私も苦労しました。『頭の中で水の玉をイメージしろ。そしてその水の玉を圧縮し、魔力と一緒に放つのだ!!』そう師匠から教えられましたが、始めのうちは頭の中に『???』が浮かぶだけ…。意味が分かりませんでした)
私が指導の仕方を悩んでいると、ハヤト様の指先に炎がともりました。
「えっ!?う、嘘…炎が!!」
思わず大きな声を上げてしまいましたが、指先にともった炎が火の玉になり、さらに大きさを増していく…。
「あはははっ、凄いだろ!!ほら、もっと大きくできるよ!!」
ハヤト様が上機嫌で言った。
言ったのだが…
(いやいやいや、おかしいでしょう!?えっ!?さらに大きく!?この宿を破壊するおつもりですか!?)
私は危険を感じ、ハヤト様を止めようと叫ぶ。
「あっ、あぁぁぁ…も、もう止めて…止めてください!!この宿が吹き飛んでしまいます!!」
結果として、これがいけなかった。ハヤト様が気を抜いた瞬間、火の玉が壁をぶち抜いて飛んで行ってしまった。ただ、不幸中の幸いとして、火の玉は空へと飛んでいき、宿の周りの建物には被害が出なかった。
上空から物凄い爆音が響き渡る。
(……………)
私は凄まじい爆音が聞こえても、唖然としたまま立ち尽くし、身動きさえ取れない状態になってしまいました。




